SRPGの制作ツールでローグライク作っちゃいました。『FortuneExplorer ~ミリィと不思議なダンジョン~』ここに現る!
SRPGStudioで製作されたお手軽ローグライク!敵を蹴散らし突き進め!
(※「ふりーむ!」作品ページより引用)
「……???
シミュレーションRPG(SRPG)の制作ツールでローグライク?
どういうことなんだ……!?」
↓(プレイ後)
「た、確かにローグライクだった……!
そんなヴァかな!なにがどうしてこんな……!?」
そんな衝撃を受けたのを機に「制作途中フリーゲーム3選(2022年5月号)」にて取り上げた『FortuneExplorer ~ミリィと不思議なダンジョン~』。記事の掲載から間もない2022年6月、その完成版がお披露目された。
もう、概略からして訴求力が大気圏突破しちゃっている本作。
改めて、単独記事にする形で紹介していこう。
SRPGツール製ローグライク?いや、本当にローグライクなんです。
『FortuneExplorer ~ミリィと不思議なダンジョン~』とは、SRPGの制作ツールである「SRPG Studio」で作られたランダムダンジョンRPG、またの呼び名で「ローグライク」である。
『新説魔法少女』、『ロンドリア物語』、『ランタイム・サーガ』、そして『ヴェスタリアサーガ』といったフリーのSRPG作品の制作に用いられた、「SRPG Studio」製のランダムダンジョンRPG(ローグライク)である。
すごく大事なことなので、2回繰り返させていただいた。
地形、敵の配置がランダムで変化するマップを進み、行く手を阻む敵を撃退しながら次のフロア(階層)を目指していくという内容だ。プレイヤーは冒険家の少女「ミリィ」を操作し、”魔の瘴気”が漂う謎の遺跡を探索していく。最終目的は遺跡に眠るとされるお宝の発見。要するに最深部への到達である。ジャンル的には王道の構成となっている。
システム面も「ローグライク」の定番を網羅している。
地形、敵配置がランダムで変化するフロアマップ、プレイヤーが1歩動くと敵も1歩動くターン制、それを前提に展開される戦闘システムがその象徴だ。そして、SRPGの制作ツールで作られているゆえの独自要素もいくつか。
ひとつに移動以外の行動全般をコマンドメニューから決める仕組み。敵に攻撃したい時は「攻撃」、アイテムを使いたい時は「アイテム」、1ターン消費したい場合は「待機」を選ぶという具合にSRPG感覚でメニューを開き、実行する設計になっている。
「攻撃」を選んだ際にもSRPGらしく、どの武器を使うかを選ぶ。武器にも耐久力(使用回数)の概念があり、残り1の時に使うと壊れて消滅してしまう。一応、武器を全消失しても回数無限な「キック」という選択肢が残されるが、どれほどの威力かは想像に難くないだろう。そのため、極力複数の武器を持つことが、探索をスムーズに進めていくカギ。
まさにSRPGらしく、それでいてローグライクらしさも感じられる仕様になっている。
戦闘のほか、探索中に発動させた特定の仕掛けから手に入る「ウェルス(W)」なるものも独自の要素のひとつ。要はお金で、3フロア突破のたびに挟まる「棄てられた聖地」にいるキャラクター「ヴェラ」から武器、アイテム類を購入する際に必要になる。だが、この「ウェルス」の面白い所は経験値の役割も担っていること。実はミリィのレベルを上げる時にも必要になるのだ。
レベルは「棄てられた聖地」にある竜の石像を調べ、必要なウェルスを捧げれば上げられる。だが、捧げれば武器、アイテム購入に割けるウェルスの量が減るので、必然的に選択肢は狭まってしまう。レベルのために捧げるか、装備の充実を図るか。このような選択の迷いを生じさせる(いい意味での)嫌らしさがあり、ダンジョン攻略の展開をも左右するユニークな要素になっている。仕組み的にも「お金であり経験値」とハッキリしているゆえ、使い道と使った後の想像がしやすいのも地味ながら見所だ。
そして、「棄てられた聖地」に関連する要素にして3つ目に当たる「スキル選択」。この地に辿り着くと、必ずひとつのスキルを獲得できるようになっている。命中率補正、HPの吸収など、種類は多彩だが、何を獲得できるかは完全にランダム。しかも、3つの中から1つを選ばなければならず、他の2つは諦めざるを得なくなる。
当然、どれを選ぶかでその後の難易度から戦術も変わるため、安易な判断が後々響くことも。前述のレベル、アイテム購入以外に限らず、このような選択要素も本作には仕込まれていて、一筋縄ではいかない展開を演出する作りになっている。
他にもフロア移動時には「オーブ」を破壊して「転送魔方陣」を出現させなければならない、方向の概念がない、斜め移動は不可能といった特徴がある。
難易度も3種類あり、「ノーマル」は探索中に力尽きても所持アイテム、レベルなどが維持されるという、ローグライクが苦手なプレイヤーに易しい設計になっている。逆に「ハード」以降は色々と制限がかかって手ごわさが上昇。最も難しい「マーシィレス」は、熟練のプレイヤーでも冷や汗をかくほどの難しさだ。
以上、一部要素は簡潔な紹介に留めたが、全体的にSRPG制作ツール製であることを感じさせつつ、ちゃんとローグライクとして成立している。それでいて、このスタイル特有の工夫も凝らされた、独自の味わいを持つ内容に完成されている。
物珍しさだけじゃない!お手軽で遊びやすい作りも魅力なのだ。
色々紹介してきたが、結局のところ、本作の魅力というのはこれに集約される。
SRPGの制作ツールで作られた紛うことなきローグライク、ということである。
SRPGを作るツールでローグライクって、本当にどういうことだの一言に尽きる。そんなもの作れるのかと、成立するのかと疑いの目を向けてしまうのも無理はない。
だが、実際に遊べば分かるが、見事に作れて成立している。しかも、プレイヤーが動けば敵も動き、地形や敵配置も常に変化し、力尽きればダンジョンの入り口に強制送還されるという伝統的要素も網羅。実際に遊べば「ホントにホントにローグライクだ!」と、某サファリパークのCMソングめいた言葉が脳内を過ぎってしまうほどなのである。
これまでにもマネジメント系に同時ターン制など、伝統的なターン制SRPGの枠組みに基づかない「SRPG Studio」製のフリーゲームは幾つか存在し、一部は当もぐらゲームスでも取り上げてきた。そんな”異質な作品”の中でも、本作は2022年時点で間違いなく頭ひとつ抜けているといっても過言ではないだろう。そもそもSRPGではないのだから。
それもあって、本作をプレイすれば確実に「SRPG Studio」というツールに対する認識も一変する。主にツールの定型であるターン制SRPGへのイメージが根強い人ほど、大変な衝撃を受けること間違いなし。なので、既にもう興味が爆発中であれば、これより先に記された文はすっ飛ばし、本編を始めていただきたいところだ。
保証しよう。このツールの持つ未知の可能性に気付かされる。
また前述の通り、独自要素も豊富で、本作特有の個性も確立されている。
特に面白いのが「ウェルス」。お金と経験値、2つの役割を担うため、使い方次第でプレイヤーの好みが攻略スタイルへと反映されやすい。ミリィを強くしたいなら購入用に使うのを禁じたり、逆にアイテムを充実化させたいなら強化を禁じるなど、縛りプレイも実施しやすく、おかげで本編クリア後も工夫を凝らしたやり込みが楽しめる。まさにシンプルゆえの強みが活かされていて、優れた要素に仕上げられている。
軽く紹介したことだが方向の概念、斜め移動ができない点も戦術面の分かりやすさと取っつきやすさを際立たせている。
前者は遠距離攻撃時に最もその恩恵が働く。方向転換によるターン消費の必要もなく、すぐに攻撃を繰り出せるからだ。このため、後ろを取った敵が有利なこともなく、フェアな戦いが展開されるようになっている。
後者も斜め方向から遠距離攻撃が飛んで来たり、敵が現れたりすることがないので、気を配る方向を絞り込めるという気軽さが表現されている。
もちろん、いいことばかりではない。斜めがないということはすなわち、敵に四方を囲まれると、とてつもなく危機的な状況になる。また、追跡も受けやすく、特定の仕掛けを利用した間合いの確保も難しいため、逃げ切る戦術を取る機会も限定される。なので、なるべく敵から逃れず、立ち向かう戦術が推奨されやすくなっている。逃げるのも戦術のひとつと考える人には、受け入れがたい調整と言えるかもしれない。
ただ、おかげで独自の手応えが出ているのも事実。仕組み的にも制限を設けたことによる面白さが演出されていて、作品の個性になっているのは特筆に値すると言えるだろう。どことなく、六角形(ヘックス)と四角形(スクエア)のマス目ごとに遊び心地、戦術性が著しく変わる戦術級シミュレーションゲーム(ストラテジー)に近い。特に方向が限定され、戦術面がシンプルになっているところには酷似しているので、戦術級シミュレーションゲーム経験者なら、不思議な既視感を覚えるかもしれない。
そして何より、全体的に”お手軽”。システムは分かりやすく、戦闘時に考えることも少ないので、最小限の理解があればすんなりと遊べる。
本編の進行も延々とダンジョンの階層を潜り続けるのではなく、3階層ごとに休憩地点こと「棄てられた聖地」が挟まるので、モチベーションが殺がれにくい。難易度「ノーマル」なら、ここで途中経過のセーブも可能なので殊更だ。
それに「ノーマル」であれば力尽きてもレベル、所持アイテムなどはそのまま維持。再開時も力尽きた階層からやり直し可能なので、根気さえあれば最終的なクリアも夢ではないのだ。それだと温いという人にも「ハード」以上の難易度も用意。ただ、それでも手軽な遊び心地は健在であり、攻略法を組み立てやすいからこそ、繰り返すたびに己の戦術面での成長も実感しやすい。
制作ツールの限界が作用したものと見て取れるところもあるが、それでもマイナスに働いている所は少ない。むしろ、それが返って独自の面白さと遊び心地に繋がっている。
単純にSRPG制作ツールで作られているだけでも十分にインパクトがあるが、ローグライクとしても興味深い試み多し。特に一見、単純そうに見えて意外な手ごわさと戦術性が描かれた戦闘は要注目。緩く遊ぶも、厳しく遊ぶも自在な作りも秀逸で、ローグライクの入門編としても最適なぐらいだ。興味本位から遊ぶのもイチオシだが、ローグライクという方向から遊んでみるのもさらにイチオシ。SRPG由来の要素を反映するとローグライクにこんな変化が現れるという新発見を体験するかもしれない。
独特な遊び応え、攻略性も持ち合わせた侮りがたき意欲作にして力作
ただ、これは明らかにツールの限界と思しき点だが本作、処理落ちが生じやすい。特にスペック低めのPCでプレイした時は、操作レスポンスも含め非常に重くなる。正直、快適にプレイしたいならばそれなりにスペック高めのPCでプレイするのがいいだろう。「SRPG Studio」製のタイトルは、ある程度低いスペックのPCでも快適に楽しめる強みがあるが、本作はそこから若干外れている。そのため、これからプレイするに当たってはあらかじめ、PCの性能が十分か否かを確かめておくといいだろう。
できれば、以前もぐらゲームスにて取り上げた『Raisond’etre(レイゾンデイト)』のように、推奨動作環境の情報は公開していただきたかったところである。実のところ、その『Raisond’etre』の記事で言及している筆者のPCではかなりの処理落ちが生じた。特に後半の階層ほど、それが起きやすいので、あらかじめ念頭に入れておくといいかもしれない。
他に気になる点ではグラフィックパターンの少なさ。具体的には階層のデザインが終始同じで、奥に進んでいるかの実感が得にくい。一応、音楽でフォローしているが、全階層のデザインを固有にするのは厳しいにせよ、序盤、中盤、終盤ごとに壁や床の色を変える程度の工夫はあっても良かったように思える。
探索中に周囲6マスの範囲内しか確かめられない仕様も、見えないところを透過するようなことをして良かったかもしれない。もっとも、これはツールの事情が関係してそうなので難しいかもしれないが。
それ以外は完全に好みの範疇だが……露骨な”お色気”ネタは人によっては「うーん……」となるかもしれない。なお、この記事ではあえてその手のスクリーンショットは自重した。どうしても見たくば本編へ。これ以上は何も言わぬ。
色々列挙したが、作品自体のインパクトは全く色褪せない。ローグライクとしての手軽さと個性もまた然り。紹介が前後したが、ストーリーも全編明るい調子だが、終盤には意外な展開と”仕掛け”もあって強く印象に残る。スキルバリエーションの豊富さ、容赦なき「マーシィレス」の手ごわさも特筆すべき部分だ。
制作ツールの珍しさに惹かれて遊ぶもよし。ローグライクが好きだから遊ぶもよし。総じて見所盛り沢山の意欲作にして力作である。
意外なツールで作られた、正真正銘”ローグライク”な探索と戦闘に挑んでみよう。
[基本情報]
タイトル:『FortuneExplorer ~ミリィと不思議なダンジョン~』
作者:くらいまん
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/27736