フリゲアドベンチャー『名前のない夜』 少年を待ち受ける「魔女」と「悪魔」の伝承とは?

アドベンチャー,フリーゲーム

先月11月には、アドベンチャーのフリーゲーム作品が非常に多く制作されていた。今回は、その中からまず『名前のない夜』を紹介しよう。

本作は、初回30分ほど、全ルートを見た場合1~2時間程度でクリアできるマルチエンディング形式のアドベンチャーとなっている。特徴的なポイントは、ゲームを進めるために必要な謎解きが決して作業だけにならず、謎を解くことで物語や世界観を徐々に知ることができる作り方が見事だというところだ。さっそく紹介しよう。

少年はある日、「魔女」と「悪魔」の伝承に出会う

本作の主人公は、少年「シャルル」。姉から依頼された本を借りてきた帰りに、突然雨に降られてしまう。そこで偶然出会った女性に、雨宿りのための館が近くにあることを教えてもらう。それと同時に女性から「館に本を忘れたので、持ってきてほしい」というお願いを受けることになる。

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姉の手伝いの帰り道、雨に降られてしまったシャルル

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赤い傘を持って佇む女性に、とある依頼をされる

館へとたどり着いたシャルルは、雨宿りも兼ねて館の中を探索する。そしてひとつの部屋で、記憶を失った謎の少女と出会う。自分の名前も思い出せないという赤髪の少女。シャルルは少女とともに、館の奥へと足を踏み入れていくが……。

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館にはさまざまな装飾が施されている

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とある部屋で出会う謎の少女。記憶喪失であるようだが……

このゲームは、システムとしてはオーソドックスな探索アドベンチャーとなっている。館の奥に進むためのキーアイテムを、謎解きを行い探していくことが基本的な進め方となる。特徴的なポイントとしては、謎解きが単なる作業に留まらないところだ。単純にキーアイテムを集めるだけでなく、世界観にマッチした自然な謎掛けが多く、ゲームを進めているだけで自然と世界観や物語が頭に入ってくる。

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世界観に即したアイテムや謎解きが印象的だ

もう一つの特徴は、館の中で出会う少女とシャルルの掛け合いだ。さまざまな場所を調べることで始まる会話はバリエーション豊かで、見ているとつい微笑ましくなるシーンもある。こういった素朴な会話シーンこそ作り込みが難しいものだが、日常的な会話を含みつつ、しっかりと作品世界の深みに浸れるような心配りがなされており、2人の会話を読みを進めるのが楽しくなってくる。
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館の物品を調べると、会話シーンが発生する

さまざまな視点から語られる物語の先に待つものは?

シャルルと少女は、探索しつつ館の奥に進むことになる。館にある数々の書物を読むことで情報を得られる「悪魔」や「魔女」という存在。そして館に起こる奇妙な現象。奥へ進むほどに生まれる、新たな謎。この館は一体何なのか?そして記憶を失った少女は何者なのか?ぜひ物語を最後まで進めてほしい。

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探索していく中で現れる意味深な部屋の数々

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書籍を読み解くことで、世界観の背景も知ることができる

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協力して館を探索する二人の前に現れる仕掛け

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物語の先に待つものとは……?

なお、本作はマルチエンディングとなっており、複数のエンディングを見ることで物語の全容が掴めるようになっている。初回プレイ時は、どのエンディングに到達しても驚きが待っていることだろう。

マルチエンドに加え、ゲーム内の書籍で得られる情報から、直接は語られなかった部分を考察する楽しみもあり、多面的に物語を提示する手法を上手く活用している作品だと感じた。初回プレイはおそらく1時間もかからず、また2週目以降は時間が短縮できると思うので、ぜひとも全てのエンディングを見て、その結末を見届けてほしい。

[作品情報]
タイトル 『名前のない夜』
制作者 布目
対応OS Windows
プレイ時間 1~2時間程度
価格 無料

ダウンロードはこちらから
http://www.freem.ne.jp/win/game/13316

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。