90年代のカラー液晶携帯ゲーム機への憧れがほとばしる、やり応え十分のアクションパズル『HYNPYTOL(ヒンピトル)』

インディーゲーム

1998年に任天堂から発売された携帯ゲーム機ゲームボーイカラー

その名の通り、1989年発売の携帯ゲーム機『ゲームボーイ』の後継機種で、カラー液晶を採用していることを最大の特徴としている。

▲ゲームボーイカラー本体

ゲームボーイカラーは、それまでモノクロ(白黒)表示だったゲームボーイのソフトを色付きで遊べるのに加えて、カラー対応とされたゲームであれば、より多くの色が付いた状態でゲームを遊ぶことができた。

だが、ゲームボーイカラーの実力はそれだけにあらず。専用ソフトという、ゲームボーイカラー以外のゲームボーイ本体では動作しないゲームであれば、よりカラフルなグラフィックと派手な演出を楽しめたのだ。

▲ゲームボーイカラー専用ソフトの一例。いずれも白黒(モノクロ)液晶の旧ゲームボーイでは遊べない。

実はゲームボーイカラーは、旧ゲームボーイを上回る性能のCPUとRAMなどを内蔵している。それもあって、専用ソフトなら本来の性能をフルに発揮したゲームを作れたのだ。

実際、専用ソフトは当時多く作られ、2025年現在もシリーズ展開がされているアクションアドベンチャーゲーム『Shantae(シャンティ)』(※当時、海外専売)に代表される、性能面の限界に挑んだ名作も誕生している。

そのようなゲームボーイカラーの専用ソフトに限らず、ゲームボーイのゲーム自体への強い憧れを感じさせるインディーゲームが、今回紹介する『HYNPYTOL(ヒンピトル)』だ。

ウィルスによる世界(人体)崩壊の危機に「キラーT細胞」が立ち上がる!

『HYNPYTOL(ヒンピトル)』は、韓国を拠点とするインディーゲームスタジオ「base0」が開発したアクションパズルゲーム。2023年9月22日より、PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で販売中のPC(Windows、macOS)向けタイトルである。ちなみに「ヒンピトル」とは、韓国語で白血球のことを言う。

2025年1月16日からは、新要素を多数追加したNintendo Switch版の販売も開始。先行して販売されていたPC版にも、同日よりNintendo Switchで追加された要素を反映させる大型アップデートが配信されている。

内容としては、上から見下ろした視点(トップビュー)の迷路のようなマップを進み、行く手を阻む仕掛けを解き明かしていくアクションパズルゲームだ。本作でプレイヤーが操作するのは、ウィルス感染細胞、ガン細胞などの異物を認識・破壊する「殺し屋」とも言える役割を持った「キラーT細胞」

ある日、数多くの細胞たちが暮らす世界(人体)にウィルスが進入。各所にある免疫系が崩壊の兆候を見せ始める。もし、このままウィルスによって誕生した「感染細胞」を取り除かねば、世界そのものが崩壊する(人体そのものが死に至る)

キラーT細胞は感染細胞を取り除くため、樹状細胞「スジサン」の不親切な(?)案内に従いながら世界を駆け巡る……というのが、大まかなストーリーとなる。

遊び方としては、「チャプター」ごとに用意された各免疫系の迷路マップを攻略していく形だ。迷路マップのクリア条件は次のマップへと繋がる血管の穴(ゴール)への到達。ただし、肝心の穴は塞がってしまっている。ゆえに、そのキーとなる仕掛けを解除したり、感染細胞すべての除去に取り組むことが求められてくる。

そして、本作最大の特徴とも言えるのがキラーT細胞のできること。「手を伸ばして壁をつかんで移動する」「手を伸ばした先にある物体をこちらに引き寄せる」……以上の2つである。厳密にはもうひとつ、「進みたい方向とは逆方向にある壁を手でつかんで、そのまま身体を押し出して邪魔な物体を移動させる」というのがあるのだが、メインは前述の2つである。できることが非常に少ないのである。

また、マップ上を自由に動き回ることもできない。そもそも足が生えてないゆえ、無理な話でもある。そのため、移動は手を伸ばして壁をつかみ、そのまま一気に直進するというスタイル。とても豪快であると同時に、細かく制御できないなりの戦略が試されるものになっている。

それしかできないのに、どうやって感染細胞の除去をするのか?実はそれ自体は感染細胞自体を直接、手でつかむだけと非常に簡単。さらにゲームを進めていくと、ほかの体内で暮らす細胞が現れるのだが、彼らに話しかけるのも基本的に手を伸ばし、ハイタッチするだけ。これといって複雑なことは必要とされない。

そもそも、本作で使うのはほとんど方向キー(十字キー)だけ。ボタンを押すとキラーT細胞が攻撃するみたいなことはなく、基本は方向キーを使ってどんどん進んでは、仕掛けを解いたり、出口への到達を目指していくだけなのだ。

このような特徴もあって、アクションパズルゲームとしては非常に単純明快。実質、方向キーだけでほとんどのことが解決するゲームと言ってもいいほど、大胆な作りが光る作品に仕上げられている。

シンプルなアクションとアイディアで、多彩でやり応え抜群のパズルを実現

操作もアクションも単純でカンタンなのに、ビックリするほどやり応え抜群で単調さ皆無!

それこそが本作随一の魅力である。確かにプレイヤーのできるアクションは少ない。ついでに言うならば、本編を進めていくと同時に探索型のアクションゲームよろしく、新たなアクションが可能になったりもしない。最初から最後まで、プレイヤーの基本アクションは「手を伸ばして壁をつかんで移動する」「手を伸ばした先にある物体をこちらに引き寄せる」の2つだけ。

途中からゲームの流れが単調と化しそうな印象を抱かせる特徴だが、実際はあまりそうならない。アクションが終始固定で少ない分、本作はマップごとの仕掛けを多めに用意する形で多彩な展開を演出。仕組みとは裏腹に試行錯誤が何度も必要とされる、やり応えのあるパズルが連続する内容にまとめられているのだ。

本編全体の構成も、チャプターごとに固有の仕掛けを用意し、“違い”を明確に表現。あるチャプターでは「ドア組織」なる、文字通りのドアの開閉をテーマにしたパズルを、別のチャプターでは「ろ過膜」というキラーT細胞などの動きに制限を与える仕掛けをテーマにしたパズルと言った具合に、新鮮な体験が楽しめるものに仕上げられているのだ。

数ある仕掛けの中でも、特にプレイヤーが直面することになるのが「単球」と呼ばれる細胞。主に進路を確保するために退けたり、時には2つ以上の単球をくっつけ、新たな“つかみどころ”を確保するという対処が試されてくる。だが、チャプターによっては、この単球への対処法も若干ながら変わってくる。

単純に進路確保のために退けるにしても、新たな“つかみどころ”を確保するにしても、チャプター固有の仕掛けと絡んだ独自の考え方が試されてきたりもする。とりわけ「ろ過膜」はその筆頭だ。その思いもよらない“ルール”によって、知っているようで知らないパズルを作り出すのである。

アクションが2つだけなら、パズルも簡単に考えられるものが大半を占めていそうと思うかもしれない。それはある意味、間違いではないのだが、結構な試行錯誤が必要とされる。時には1歩先の結果も想定する必要があるなど、なかなか侮りがたいものに仕上げられているのだ。

「ビックリするほどやり応え抜群で単調さ皆無!」と前述した事柄はダテではない。遊んでみれば、「シンプルで手ごわい」の極致を思い知らされることになるだろう。それほどまでにこのゲーム、タダモノではないのである。

同時にシンプルなアイディアによって、多彩な遊びを作り出すとの考え方が全編に渡って浸透した作りが美しい。そして、その制作姿勢に、古きよきゲームボーイカラーおよびゲームボーイ時代のゲームへの憧れみたいなものがにじみ出ている。

ほぼ方向キーで完結する作りはその筆頭。やることは単純だが、よく考えなくてはいけない難易度の塩梅には、こういうゲーム、ゲームボーイカラーおよびゲームボーイ時代にあっても不思議ではないという“味”が出ている。

筆者はその時代を生きた人間だが、本作のパズルの手触りには任天堂から発売されたアクションパズルゲームモグラ~ニャが脳裏をよぎった次第だ。

別にもぐらゲームスだから例に挙げた訳ではなく、アクションはシンプルだが仕掛けの多彩さで変化に富んだパズルを作るスタンスが同作に極めて近いのだ。地続き構成なマップの作りにも同作を思わせるものがある。

さすがにボス戦みたいな要素はなく、純粋にパズルへと徹した作りになっている点では大きく異なる。ただ、このいかにもゲームボーイ時代にあっても不思議ではなさそうな手触りは特筆に値する。それもあって、本作は直撃世代ほど強くおススメしたいところだ。おそらく、体験してみれば分かるはずだ。「確かにあの頃、あっても不思議ではないゲームかも」と。

まあ、それ以外にも上記のようなギリギリすぎるパロディが満載なことも理由なのだが。
(ちなみにこのステージを英語設定で始めると、ギリギリ度が2割増しになるおまけ付きである)

Nintendo Switchの携帯モードでのプレイを強くおススメしたい、憧れに満ちた傑作

ゲームボーイ及びゲームボーイカラーへの憧れは、グラフィック全般にも強く表れている。ここまでに載せてきたスクリーンショットからも分かるように、まるでゲームボーイカラー専用ソフトを思わせるような色遣いとなっている。

これに加えて、周辺機器『スーパーゲームボーイ』(および『スーパーゲームボーイ2』)を思わせるピクチャーフレーム付き。そんなネタまで拾っているところにも、憧れの強さを感じさせられるだろう。もっとも、カラー表示に対応し、専用ソフトも動作可能な『スーパーゲームボーイ』は世に存在しないことから、若干のツッコミどころもあるのだが。

音楽も音源が明らかに多い点に関しては、直撃世代ほど「ん?」となってしまうかもしれない。ただ、楽曲の完成度は素晴らしく、耳に残るもの揃い。Steamではサウンドトラックも発売中なので、気になればぜひ。

ほかにボリュームもスムーズにいけば4~5時間ほどでクリア可能。だが、それなりに試行錯誤が試されるため、人によっては2倍近くの時間を要するかもしれない。少なくとも物足りなさ、水増し感は一切感じさせない規模なので、相応の満足感は得られるはずだ。

操作もつかむと引き寄せを方向キー1回押しで完結させる「アシスト」などのサポートが充実。さらに一手戻し、最初からのやり直しもワンボタンで可能。特に一手戻しとやり直しは余計な演出もなく、パッと実施されるのでとても快適だ。

ただ、各チャプター終盤の免疫器官ステージでは一手戻しが使えず、制限時間がある関係で急かされる作りになっているのは賛否が分かれやすい。また、仕掛けの一部には触れた瞬間、キラーT細胞が消滅してしまう恐ろしいものがあるのだが、その消失演出がバグかと思えるほど唐突で、ホラーめいているのは気になるところ。実際はバグではないので、もし直面した時は落ち着いてやり直しボタンを押すようにしよう。

やや細かな不満点とツッコミどころもあるが、総じてアクションパズルゲームとしての完成度は高く、ゲームボーイおよびゲームボーイカラーのゲームへの強い憧れがにじみ出た力作に仕上がっている。特に少ないアクションで多彩なパズルが楽しめる部分は傑出した仕上がりなので、この手のジャンルが好きな人なら、ぜひプレイしていただきたい。

特におススメなのはNintendo Switchの携帯モード、もしくはNintendo Switch Liteで遊ぶことである。いまとなってはゲームボーイとゲームボーイカラーのゲームを遊べる『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』も展開されているNintendo Switch。それとセットで、当時のゲームボーイに憧れたゲームを遊んでみるのもオツですよ。

[基本情報]
タイトル:『HYNPYTOL(ヒンピトル)』
開発元:base0
クリア時間:5~6時間以上
対応プラットフォーム:Windows、macOS、Nintendo Switch
価格(税込):1,700円(全プラットフォーム共通)

◇購入はこちら
・Steam

・Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/item/software/D70010000086863

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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