『ケロブラスター』は開発室pixelのマリオか?―『ケロブラスター』レビュー(hamatsu)
ケロブラスターレビュー祭りということで、「枯れた知識の水平思考」のhamatsuも参加させて頂きます。いやー、面白いですね、ケロブラスター。で、ケロブラスターをレビューする上で、ステージ構成が良く練られているとか、音楽がいいとか、グラフィックがレトロ調で懐かしいみたいな要素はどうせ別の誰かが語るだろうし、自分はもうちょっと別な部分を語っていきたいと思います。
体験としての8bit感
と、言いながらもおそらくケロブラスターを語る上で最も触れる人が多いであろう、スマートフォンで遊ぶ際のバーチャルパッドの素晴らしさには触れない訳にはいかないでしょう。
正直、私はこのゲームを遊ぶまでスマホ上に設定されたバーチャルパッドの類いにはほぼ絶望しかけてまして、やっぱスマホのゲームはスマホに最適化した形で進化していくのかなと思ってました。パズドラとかね。
ケロブラスターをプレイし、まるでファミコンで遊んでいたような感覚が蘇るって人は少なからず居ると思いますが、ファミコンのコントローラーとは操作感触の有無からしてまるで違う、最新のタッチパネル上に模したバーチャルパッドで、まるでファミコンを始めてプレイした時の、操作しながら自分の体を動かしてしまうような、自分とキャラクターが同一化した感覚を呼び起こすことにかなりの部分で成功しているってのは相当スゴいことなのではないでしょうか?
見た目が8bit調であるだけでなく、プレイ体験が8bit調であるってことが、ケロブラスター、及び開発室pixelのゲームを語る上で最も重要なポイントであると自分は考えます。そして、この8bit調のプレイ体験を生んでいるのは操作感触だけによるものではなく、ドット絵で描かれたビジュアル面に依る面も非常に大きいのですが、ビジュアル面についてはもう少し後で触れたいと思います。
FPSの2D的解釈?
次に、ケロブラスターのバーチャルパッドで目を引くのが、左右と上方向に弾を常時発射出来るようになる、ショットボタンの存在ではないでしょうか。
このショットボタンによって、ケロブラスターは、移動軸と射撃軸の二つの軸を操作しながらプレイすることになるのですが、この二軸をコントロールするプレイ感覚が何かに似てるなと思いました。
それはFPS(ファーストパーソンシューティング)ゲームのプレイ感覚です。
FPSでも射撃方向と移動方向の二軸を操作します。ケロブラスターはショットボタンの導入によって2Dの横スクロールアクションにFPS的ゲーム感覚を移植したのではないかと自分には思えました。ケロブラスター、何と現代的なゲームであるか!と。
ですが、つい先日、制作者の天谷大輔氏に直接この事をお聞きする機会があったのですが、そういう意図は無かったとの事です。残念!
天谷氏はマリオを遊ぶ際に、Bボタンを押しながらAボタンを押すそうですが、そのような2つのボタンを同時に押す操作感覚をiphoneで再現するのは難しいので、この形になったとのこと。左右方向にしか行けないのもバーチャルパッドで斜め上方向への入力が相当難しかったからだそうです。なるほど納得!
でも懲りずに主張しとくと、見た目はファミコンなのに操作感覚がFPSに似てるってのはなかなか面白い現象だと思いますよ。それと、操作を限定することで結果的に自分の腕次第で自由自在にキャラクターを操れる感覚を得られるというのも、ゲームにおける制限と自由の関係を考える上で非常に興味深い事例ですね。
ドット絵の記号性と具体性
ケロブラスターを遊んでいると、やっぱドット絵っていいよなーと改めて思います。
自分はファミコンの誕生にリアルタイムで立ち会っている世代なので、昔を懐かしむ気持ちで、ドット絵に好感を抱いているのも確かなのですが、それだけというわけではなく、ドット絵という表現方法を2014年の今改めて考えてみると、なかなかにスゴいその本質に気付かされます。
ドット絵は、対象の特徴を抽出して、シンボル化するという記号的な表現を得意とすると同時に、ゲームグラフィックとして考えてみると、極めて具体的に、ゲームキャラクターの身体を描画出来る表現方法でもあるのです。1ドットのズレでプレイヤーの生死が決定し、その事実があまりに端的に描写されるものだからプレイヤーはその現実を受け入れざるを得なくなります。
記号性と具体性の両立、これがゲームにおけるドット絵という表現手法の神髄です。
ケロブラスターというゲームが、今、プレイしても面白く、そしておそらくファミコン等の8bit調のゲームを遊んだ経験の無い世代に対しても通用する面白さを有しているのではないかと私が考える理由は、ドット絵という表現手法をノスタルジーの喚起のためだけに使用しているのではなく、ドット絵の機能性を最大限活用しているゲームだからです。
この特徴は、『洞窟物語』から一貫しています。開発者自身インタビュー等でも、洞窟物語の主人公の下半身がスリムなのは、洞窟の有機的な地面の形状を滑り降りるような感覚で操作させたかったかと語っていますが、この点を見ても、開発者の天谷氏がドット絵の機能性に自覚的であるということがわかるのではないでしょうか。
洞窟物語とケロブラスターの関係性
最後に、洞窟物語の次回作としてのケロブラスターということについて語りたいと思います。
結論から言えば、洞窟物語が、ゼルダの伝説だとしたら、ケロブラスターはスーパーマリオなんじゃないかと思うんですね私は。(洞窟物語が直接的に強く影響受けてるのはメトロイドだと思うけど。)
で、ゼルダの伝説的な、ゲーム的にも良く出来ててゲームならではのストーリー性も強くて、ゲーム中でキャラクターが決定的な変化を遂げてそれが、プレイヤーにとっても体験的に刻まれるタイプのゲームってすごくカルト的な人気を獲得し得るんだけど、その分続編作るのはすごい大変だと思うんですね。ましてやゲーム内の要素のほとんどを1人で作った洞窟物語は尚のことその傾向は強いと思います。
洞窟物語って1人のクリエイターが一生に一度モノに出来るか出来ないかっていうタイプのゲームだと思うんですね。
だからこそ、私はあの洞窟物語を作った開発室pixelがケロブラスターを作ったってのはスゴく良いことだと思っています。
ケロブラスターの主人公のカエルがゲーム中でパワーアップはしますが、ゲーム中で大きな成長を遂げるってよりかは、淡々と仕事をこなしていくといった佇まいです。この辺り、毎度毎度ピーチ姫がさらわれるたんびにジャンプ一発で助けに行くマリオと共通するものがあるのではないでしょうか。
こういうある種成熟した大人なキャラクターをメインキャラクターに据えると、今後展開可能なゲームの幅ってスゴく広くなるんですよ。マリオがマリオカートになったりマリオゴルフになったりするみたいに。ケロブラスターも早速ケロリズムっていうキャラクター展開の仕方してるでしょ。
洞窟物語がスゴく好きな人からしたらケロブラスターってある部分では肩すかしな部分があるかもっていうのもわからなくはないんですよ。実は私は洞窟物語まだクリアしてないんだけど。まあでも途中までプレイしただけでも、このテイストに引きつけられる感じってのはスゴくわかる。
でもなー、考えてみて欲しいんだけど、ストーリー性とかゲーム性が高いレベルで融合したゲームを作って、そこからその続編を作ってさらに評価が高まっちゃったりすることで、どんどんハードル上がっちゃって大変そうな作品って色々とあるじゃないですか。
人食い大鷲のトリコとかね、相当高い水準を目指してると思いますし、作るの本当に大変だと思いますよ。
洞窟物語のようなストーリー性の強いゲームも作れるし、ケロブラスターのようなストーリー性が強くない、正確にはストーリー性を気にせずとも充分に楽しめるタイプのゲームも作れてしまう。この振り幅を開発室pixelが手に入れたっていうことを、私は喜びたいし、次の作品を楽しみに待ちたいと思います。
[タイトル]
Kero Blaster
[ソフトウェアタイプ]
シェアウェア
windows 720円
iOS版 500円
[対応OS等]
Windows,iOS
日本語版、英語版
[ダウンロード]
PC版
iOS版
[制作者」
開発室Pixel
[プレイ時間]
2~3時間
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第1回:全要素がスマホ向けにフルチューニングされた至高のアクション。それが『ケロブラスター』だ―『ケロブラスター』レビュー(ニカイドウレンジ) – もぐらゲームス
第3回:「kero blaster」・「洞窟物語」の伝説化という過大評価と桜庭和志の悲劇問題―『ケロブラスター』レビュー(EAbase887) – もぐらゲームス