今度こそ、魔王を倒せ―『イーザディアの迷宮』は、緊張と弛緩が交差し続ける戦闘が見所のアクションADV……なのか?

アクション,アドベンチャー

遥か昔、世界を脅かそうとした魔王は勇者によって倒され、決戦の場となった地に封印された。

しかし、封印は完全ではなく、魔王は徐々にその力を取り戻し始めていた。そして、湧き立つ魔力は周辺の環境をゆがめ、千変万化の姿を示す魔窟「イーザディアの迷宮」を生成してしまう。

魔王復活を阻止するため、冒険者のあなたはその過酷なダンジョンに挑んだ。そして、最下層の100階において復活した魔王と対峙し、死闘の末、勝利をつかむ。

ところが、あなたが倒した魔王は魔王ではなかった。かつての封印の際、世界に飛び散った魔王の力の断片が具現化した存在だったのだ。その事実を語る「女神ユーフォリア」は、魔王の本体は迷宮のさらなる奥でその力を蓄え続けているという。

かくして、あなたは本体が待ち受ける101階以降の深部へと足を踏み入れる。
一体、その先に何が待つのか。

開幕早々、最終決戦と思いきや実は終わっていませんでした的な展開で幕を開ける『イーザディアの迷宮』は、2024年6月1日より配信中のWindows PC向けフリーゲームだ。「RPGツクールMV」を用いて制作された作品でもある。

体当たりと色付きの武器を駆使して戦う、ダンジョン探索主体のアクションアドベンチャー

ジャンルとしては、ダンジョン探索にフォーカスしたアクションアドベンチャーとなる。プレイヤーは魔窟「イーザディアの迷宮」に挑んで魔王を倒すも、本体はもっと深い階層に居たと告げられた冒険者になって、101階以降の最深部を目指す。

▲倒したと思ったら、倒していなかった魔王近影(オープニングより)

最終的な目標も非常に分かりやすい。
「今度こそ魔王をぶっ倒す!!」である。二度目の正直とも言う。

本編は迷宮最深部への入り口に当たる「拠点」のマップで準備を整え、そこにある緑色の魔法陣(転移ゲート)から迷宮の階層「エリア」へと降り立ち、敵モンスターとの戦いを繰り広げたりしながら探索を進めていく。

各エリアは前述の転移ゲートを発見し、直接踏むことによってクリアとなり、下の階層へと移れるようになる。逆に体力(HP)が0になるとゲームオーバーで、拠点へと強制的に引き戻されてしまう。ただし、引き戻されても探索中に手に入れた武器、防具、消費アイテムは失われず、手持ちとしてそのまま残る。

お金も同様だが、本作は転移ゲートを踏むことでお金が手持ち資金として加わる仕組み。つまるところ、転移ゲートを踏む前に手に入れたお金は失われるようになっている。

少し想像しにくいかもしれないが、ひとまずローグライクのようなペナルティは無いと思っていただければ十分だ。ちなみに踏破したエリアも進捗として記録され、再プレイ時には以前ゲームオーバーになったエリアから再開できる。

ただし、そのためには専用の「とあるアイテム」が必要。それを入手するまでの間は最初のエリアからやり直しになる。また、エリアのマップにはシャッフル形式が採用されていて、再挑戦時に違ったマップが舞台になったりもする。宝箱などの位置も前回とは入れ替わると同時に、手に入れられるアイテムも変化する。

なので、ローグライクではないけど、それっぽい要素はあるアクションアドベンチャーというのが正確なところだ。俗にローグライトとも称せる感じだが、本稿は公式のアクションアドベンチャーという表記に準拠させていただく。

アクションアドベンチャーということで、エリア間で展開される敵モンスターの戦闘はリアルタイム形式。しかし、攻撃を仕掛けるに当たり、対応するボタンを押す必要はない。

攻撃は基本、敵モンスターに直接体当たりするだけで行えるのである。敵モンスターの反撃もそれと同時に実施され、どれほどのダメージを受けたかが数値によって示される。

なので、戦闘においては方向キーと周囲にある物を調べるボタンぐらいしか使うことがない。絵に描いたようなシンプル設計で、普段、アクションゲームを滅多に遊ばない人でも取っつきやすい作りになっているのだ。本作には3つのシステム周りの特徴があるのだが、まず1つ目としてこれが挙げられる。

2つ目は「色」で表した属性である。本作でプレイヤーが装備する武器には、赤青緑黄紫白の6つの色が設定されている。色は紫と白を除いて、敵にも設定されているのだが、この敵の色と同じ色の武器を装備した状態で体当たりをすると弱点判定になる。つまるところ、大きなダメージを与えられるのだ。

そのため、戦闘では敵の色に沿った武器を選んで体当たりすることが基本戦術となる。ただし、エリア内にいる敵の色は複数ある上、装備できる武器は1種類のみ。しかも本作は、メニュー画面を開いても手持ちの武器を切り替えられない。

代わりにマップ上にある、色付きのクリスタルを調べることで武器を切り替えるのだ。これが3つ目の特徴となる。5色のクリスタルには、あらかじめ武器を登録することが可能。登録はマップ上にある「騎士の像」を調べて実施し、それぞれのクリスタルの色に見合った武器を選んでセットするだけでいい。

別に赤のクリスタルは赤の武器しか登録させられないというような制約はなく、他の色の武器も登録可能なのだが、基本的には色に沿うことが推奨される。そうすることで、色を踏まえたスムーズな対応が可能になるからだ。

以上のような特徴的なシステムを本作は備えており、独自の遊び応えを演出している。アクションアドベンチャーと聞いて、アクションゲーム的な操作で敵と戦い、マップを探索するスタイルを連想するかもしれないが、実際は方向キーとワンボタンしか用いないと大変シンプル。

それでいて、色に応じた武器の切り替えと事前登録というシステムによって戦略・戦術性も表現するという凝った内容に仕上げられている。

シンプルな作りとは裏腹の高い戦略性と、変化に富んだ展開の数々が待つ!

本作の魅力は、シンプルなアクション周りと操作系からは想像もつかない戦略性の高さにある。

基本、敵へ直接体当たりすることを繰り返しながら戦う仕組みからは、次第にワンパターンな展開に陥っていく印象を持つかもしれない。多少ネタバレになってしまうが、実際に本編の進行に合わせ、プレイヤーのアクションが増える類の要素はない。始まりから最後まで、マップ上の移動と体当たりを主軸に困難を乗り越え、魔王の本体が待ち構える最深部を目指すのだ。

変化のない、ワンパターンな展開になるのが目に見えて明らか、と感じたかもしれないが、実際は真逆。全くもって、ワンパターンになることがない。アクションと操作がシンプルな分、他の要素で変化と起伏を付けることにフォーカスしていて、その特徴とは裏腹すぎる、刺激のある展開が楽しめる作りになっているのだ。

特にそれを顕著に表しているのが、色の相性とクリスタルによる装備切り替え。メニュー画面を介してではなく、ダンジョン探索というゲーム本編と直結したスタイルにしたことにより、敵やトラップといった障害を潜り抜けながら装備の変更を図って巻き返すという、スリリングな展開が繰り広げられるのだ。見た目以上に考えながら立ち回ることが試されてくるのである。

面白いのが、クリスタルは毎回、探索のたびに配置が変化するのに加えて、必ずしも全色まとまって置かれないこと。それゆえ、配置された場所を探さなくてはならないのに加えて、装備している武器の色とは一致しない敵との遭遇にも見舞われるのだ。

ただ、違う色同士だと与えるダメージが減る、逆にプレイヤーが大きな反撃ダメージを喰らうといった「相性」の仕組みに伴うペナルティはない。なので、色の違う敵との遭遇を過度に恐れる必要は皆無。だが、同じ色の武器と比べてスムーズに倒せない上、余計なダメージを受けてしまう恐れがある。高い攻撃力を持った敵であれば尚更だ。

そのような変えたい時に変えられないジレンマに襲われることが多々あり、都度、それに応じた行動を取っていくことが試されるのだ。ダメージ覚悟で突撃するか、遠回りするか、もしくは避けながら突っ切るか。そのような選択が発生することもあって、ワンパターンな展開に陥ることが滅多にない。緊張と弛緩が交差する展開が連続するのである。

仕組みのシンプルさから、疑念を感じてしまうのも無理はないが、直接体験してみれば存分に思い知らされる。同時に高い戦術・戦略性とシンプルなアクション、操作系が絶妙に融合したゲームデザインに唸らされるだろう。見た目以上の遊び応えが凝縮されているのだ。

これに限らず、エリアごとの特徴、ボス戦といったイベントでも徹底した変化を描いている。注目はボス戦である。隙を見て体当たりを仕掛けていくことを基本としつつ、クリスタルによる武器切り替えとトラップを応用した内容にまとめられている。やること自体は単純なのに、結構考えて動かなければならないその作りには、思わず唸ってしまうこと請け合いだ。

純粋に体当たりで敵を蹴散らす快感と、ストーリーを味わいたいプレイヤーに向けた「イージー」の難易度も用意。

ただ、これも単純に力押しでイケイケできる訳ではなく、場面によっては装備の切り替え、意を決した突撃も試されるなど、手応えを残したバランスになっているのが面白い。それが自然と通常難易度「ノーマル」への挑戦意欲も刺激する辺り、なかなかに狙った調整である。

戦術・戦略性に関連するところでは、ランダムで配置される宝箱から装備品を回収するトレジャーハントの遊びもやり応え十分。装備品にはレアリティの概念もあり、高レアほど優れた性能を持つことから、それを狙って繰り返し遊んでしまう面白さもある。

ダンジョンに潜らず高レア武器獲得を狙う選択肢として「ガチャ」があるのもユニークだ。念のためだが、課金要素はございません。

体当たりと移動、そして物を調べるという最小限のアクションと操作からは、単調な内容を想像しやすい。だが、蓋を開けた先にはその想像を覆す体験が凝縮されていて、「こういうのもあるのか……」と感心させられる作りになっている。

なので、シンプルな作りに疑問を抱いた方ほど、一度お試しいただきたい。そして、何度かの戦闘とボス戦に挑んでみていただきたい。シンプルながらも侮りがたいという、本作のアクションアドベンチャーとしての面白さと、ゲームデザインのユニークさを実感させられるだろう。

ボリュームについても、ストーリー中心に進めれば3~4時間、サブイベント込みで進めればその2~3倍と充実した規模になっている。前述したトレジャーハントに関係するやり込み要素として図鑑もあり、その攻略込みでプレイすればより長く楽しめるはずだ。

知略を尽くして今度こそ魔王の討伐を!……そんなゲームだと思ったか?

……と、ここまで長々と紹介してきながら大変申し訳ない。

実は戦略性の高さが本作の魅力というのは、ウソである。

念のためだが、作品の魅力であることは事実だ。しかし、真の魅力ではない。

真の魅力はストーリーと演出。戦略性の高さ諸々はその次に当たる魅力なのである。

しかしながら、それらについては一切、ここで紹介することはできない。ゆえに本稿では、もうひとつの魅力である、戦略性の高さをピックアップした次第だ。

あえて筆者の目を通した感想を書き記すならば、「なにがなんだか……」である。そもそも本作、始めた瞬間から「なにがなんだか」なのだ。どういう意味で「なにがなんだか」なのは例によって伏せるが……これだけは言っておこう。

すべてを受け入れましょう。

そんな訳で、この真の魅力を知りたくなったのなら、すぐにでも心の準備の上、配信ページよりダウンロードを。ちょっとその辺の下りで、絵的に勘違いしやすい面があるのが難点だったりするのだが……とにかく、受け入れよう。……受け入レナサイ。

本稿で重点的にピックアップしたもうひとつの魅力、アクションアドベンチャーとしての作りも大変ユニークで、遊び応えのあるものになっている。

そちらに惹かれた人もぜひ、配信ページからダウンロードの上、体験いただきたい。すべてに身をゆだねるのです。そして………そして?

[基本情報]
タイトル:『イーザディアの迷宮』
作者:編み星
クリア時間:3~4時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料
???:恐怖、激しい言葉づかい、幻覚

◇ダウンロードはこちら
・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_12365.html

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence