カードゲーム『Love Letter』レビュー -縛りが生んだ日本的恋文-
ミニマリズム Minimalism
多くの日本人デザイナーが得意とするゲームの種類。カナイセイジの『Love Letter』で世界的に広まった。たったひとつの(もしくは極めて少数の)メカニクスやアイデアにしぼって、ゲームの要素の枝葉を限りなく刈り取っていき、コンポーネントやルールを極限まで減らした結果、楽しさはむしろ濃厚に煮詰められる、というようなストイックなデザイン形態である。短い時間でプレイでき、たいていは30分以内で、多くは15分程度である。
(ゲームマーケット2014秋 公式カタログ付属ボードゲーム用語辞典より)
上記のようにゲームマーケット2014秋の公式カタログで、ミニマリズムの代表格として紹介された『Love Letter(ラブレター)』。ゲームデザイナー・カナイセイジ氏の名作だ。たった16枚の個性豊かな特殊効果を持ったカードをうまく使いながら、勝利を目指す洗練されたカードゲームに仕上がっている。今回はこの『Love Letter』の製品版について改めてレビューしておきたい。
なお、ゲームマーケット2014秋では漫画家ケン・ニイムラ氏がイラストを担当した『Love Letter限定版』が500個限定で販売された。こちらもイラストが可愛らしい。
『Love Letter限定版』 pic.twitter.com/FuCnHf1St0
— カナイ セイジ (@KanaiSeiji) 2014, 11月 15
500円ゲームズの企画から生まれた『Love Letter』
そもそも『Love Letter』は、「500円ゲームズ」という企画に賛同して作られたゲームだ。500円ゲームズとは、その名の通り販売価格500円、従ってゲームの制作費用も1つあたり500円以下という縛りの中で、いかに面白いゲームを作るか?という企画である。
(参考)第二回 500円ゲームズ
当時から、同人アナログゲーム界では競争の激化からか、コンポーネント(ボードゲームに付属するコマやその他のアイテム、部品)の豪華さやイラストの美麗さなどが増していき、制作費が高くなっていくようになった。制作費が高ければ、当然のことながら販売価格も高騰していく。販売価格の高騰は、様々なゲームを買って試したいゲームプレイヤーにとってはあまり良いこととは言えないだろう。また、新規参入しようとするアナログゲームクリエイターにとっても、良いアイデアはあるのに制作費がない……という問題が起こりがちで、ゲームプレイヤー・クリエイター双方にとってあまりよい結果を生まない。
このような問題意識で提案されたのが、500円ゲームズだ。確かに販売価格500円という縛りを設ければ、純粋にゲームシステムの面白さだけで勝負せざるをえなくなり、創意工夫を活発化させることができるし、低価格で販売してくれればプレイヤーにとっても嬉しい、というわけだ。
ミニマムに洗練されたゲームデザイン
こうした経緯でできたのが本作『Love Letter』。最初のセットは、2012年のゲームマーケットで発売された。その当時からほぼルールは変わっていないが、ここでは製品版について紹介したい。
まず、先に述べたようにカード枚数はこの16枚のみだ。この16枚をシャッフルし、裏を向けたまま1枚だけ除外する(残りのカードが何かわからないようにするため)。各プレイヤーはまず手元に1枚ずつ、そして自分の手番が来るたびに山札から1枚カードを引く。
自分の手番では、2枚のカードのうちどちらかの効果を発揮させる。16枚のカードは、それぞれ特殊な効果を持っているのだ。例えば上の写真の場合、手札に「道化」を持っていて、自分の手番に山札から「兵士」を持ってきた。「道化」を効果として使う場合、「道化」を表にして場に捨てて、指定した相手の手札を見ることができる。「兵士」の効果を使う場合は、同様に「兵士」を表にして場に捨てて、指定した相手に「兵士」以外のカード名一つを宣言し、当たったら相手を脱落させることができる。
それぞれのカードの効果は以下のとおりだ。
姫:このカードを自分の捨て札にした場合、自分が脱落する。
大臣:2枚の手札の強さ(左上にある)の合計が12以上だったら自分が脱落する。
将軍:プレイヤー1人を選んで、そのプレイヤーと手札を交換する。
魔術師:プレイヤー1人を選んで、そのプレイヤーの手札を1枚、山札と交換させる。
僧侶:自分の次の手番まで、他プレイヤーから受ける効果を無効化する。
騎士:プレイヤー1人を選んで、自分とそのプレイヤーの手札を密かに比較し、左上の数字の小さい方を脱落させる。
道化:プレイヤー1人を選んで、そのプレイヤーの手札を見る
兵士:プレイヤー1人を選んで、そのプレイヤーの手札を当て、当たったら脱落させる(ただし手札が兵士の場合は脱落しない)。
自分の手番が来たら山札から1枚引く。最後に、山札がなくなったらその時点で脱落せず残っているプレイヤー同士で、手札の左上の数字を比べる。数字が大きいプレイヤーの勝利となる。
カードが少ない分、かなり短時間で最終局面まで行くところもポイントだ。だからこそ「姫」「大臣」などのカードが際立つ。これらのカードは数字が大きく、最後まで持っていれば数字の大きさで勝てる可能性があるが、代わりにゲームの最中に使える特殊効果が弱い。ゲームがもつれると見て、山札がなくなった場合の勝利条件を見越し、敢えて使えない特殊効果を持った手札である上位のカードを残すのか?はたまた短期決戦を狙い、「大臣」などはさっさと捨てて、「姫」は「将軍」などの特殊効果を使い誰かにわたしてしまい、騎士や兵士などの相手をノックアウトできるカードを使いまくるのか?といった選択の悩ましさ……つまり「ジレンマ」が生じている。
製品版では6種類の新規カードが入っているので、これらを既存のカードと入れ替えて遊ぶ事も可能。
このように、ミニマムデザインで非常に完成度が高いのがこの『Love Letter』だ。その完成されたデザインからファンも多く、日本ボードゲーム大賞 2012 投票部門で大賞。そして2014年ドイツ年間ゲーム大賞でも大賞こそ逃したものの候補にノミネートされており、国内外での人気振りが窺える。
縛りが生んだ「日本的恋文」
冒頭に引用したように、日本的ミニマリズムの代名詞となった、『Love Letter』。そのきっかけとなったのは500円ゲームズの企画である。こうした「縛り」は時として、本作のような無駄を切り詰めた濃厚なゲームを生む。
今回のゲームマーケット2014秋でも、ポストカードゲームという企画が行われていた。これもまた、ゲームクリエイターの方々の創意工夫を生む素晴らしい仕掛けといえるだろう。
ゲームマーケット2014秋の自主企画「ポストカードゲーム」が熱い!
本作『Love Letter』の、そのシンプルで洗練されたデザインの美しさは、まるで日本文化における「禅」や「侘び寂び」のようでもある。その意味で、本作は、極限までゲームの本質に迫ったストイックな「日本的恋文」と言えるだろう。是非、入手して皆で堪能して欲しい。
[基本情報]
タイトル Love Letter
制作者 カナイセイジ 氏(カナイ製作所)
プレイ人数 2~4人
プレイ時間 5~10分
価格 1,850円 (アークライトゲームズより出ている製品版)