これがホントの“闇のアクションゲーム”『Lulu’s Temple』わずかな灯りを頼りに真っ暗ピラミッドから脱出せよ!
さまざまな文明の研究に明け暮れる考古学者の主人公は、謎多きピラミッドの調査に単身取り組んでいた。しかし調査の途中、ウッカリ転んでピラミッドの内部へと入り込んでしまい、そのままナゾの罠が発動して閉じ込められてしまった。
現在の手持ちはピストルと、トーチ(たいまつ)だけ。考古学者はそれらの少ない装備を頼りに、ピラミッドから脱出するための出口を探し始める。果たして無事、考古学者は脱出できるのか。そして、ピラミッドの奥で待つものとは。
『Lulu’s Temple』は2022年4月15日より、PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」とインディーゲーム投稿サイト「itch.io」で販売中のアクションゲームである。
本稿執筆時点で、2年以上も前に出た紛うことなき旧作だが、2024年6月13日に「Final game update」と称された大型アップデートが実施。ゲームバランス周りの刷新が図られたほか、ゲーム内言語の日本語対応も果たされた。
真っ暗なピラミッドからの脱出を目指す、正真正銘“闇のアクションゲーム”
改めて本作『Lulu’s Temple』のゲーム内容紹介を。
冒頭の通り、ジャンルはアクションゲーム。横スクロールのステージクリア型となる。
プレイヤーは主人公の考古学者となり、ピラミッドからの脱出を目指す。本編はピラミッド内のステージを順番に攻略していく流れで進行。各ステージはクリアすると後から再訪(再プレイ)不可能になる仕組みで、構成的には1本道となる。
ステージのクリア条件は次の階層(ステージ)へと繋がる階段への到達。そのために行く手を阻む仕掛けを突破したり、時には邪魔をする敵を手持ちのピストルで撃退しながら進めていく形になる。
ピラミッドが舞台。主人公が考古学者。これらの設定から、本作に対して探索型のアクションゲームを想像する人は少なくないかもしれない。だが、前述の通り、本作はステージクリア型のアクションゲーム。断じて探索型ではない。
しかし、探索型由来の要素はいくつかある。閉ざされた扉を開けるためのカギを探す展開、主人公の装備がパワーアップするイベントがその一例だ。ステージの構造もそれを踏まえて横に一直線ではなく、少しばかり入り組んだものになっている。
ただし、繰り返しになるが本作はステージクリア型アクションゲーム。Steam実績にもそれを意味するものが用意されているので、お間違いなきよう。
本作の特徴は、その舞台設定が象徴する通り、暗闇に覆われたステージ。基本的に主人公の近辺はトーチ(たいまつ)のおかげで明るい反面、その外側は真っ暗で、地形の構造などが確認できない作りになっている。確認するためには主人公を直接動かし、気になるところに近づくしかない。もしくはピラミッド内に設置された燭台、かがり火台に火を灯す、手持ちのトーチを投げるかだ。
そんな「暗中模索」を体現した展開が全編に渡って繰り広げられる。しかも、基本的にステージ全体が明るくなるようなことは絶対にない。どこも必ず暗闇に覆われていて、足場やトラップ、敵の存在を確かめながら進めていくことになるのだ。
暗闇に覆われたステージ(マップ)という題材自体は、古くからアクションゲームやアクションRPGなどのジャンルでも存在するもので、真新しいものではない。ただ、本作は全ステージが暗闇に覆われ、どこも灯りを頼りに足場、トラップ、敵を確認しながら進めていくという点で個性を出している。文字通り「闇のアクションゲーム」とも言える作りになっているのだ。念のためだが不穏な意味での“闇”という訳ではない。
ステージの構造に対し、プレイヤーのアクションは移動、ジャンプ、射撃とジャンルの定番を踏襲。唯一、特徴的なのはトーチを投げることで、これを暗闇に覆われた場所に投げて足場、トラップの存在を確かめられる。しかしながら、投げられるトーチは1個だけ。そのまま続けて2個目を投げるなんてことはできない。
再び投げたい場合はどうすればいいかと言えば、相棒に回収してもらえればいい。紹介が遅れたが、本作には主人公をサポートするキャラクターとして「黄金のスカラベ」が同行。投げたトーチを即座に回収するなど、活躍してくれるのだ。これでトーチを再度投げたりしながら、暗闇に覆われたピラミッド内を進めていくのだ。
また、トーチはゲームが進むと攻撃性能も追加され、第二の武器として使えるようにもなる。第一の武器たるピストルもなかなかに優秀で、弾数制限がないのに加え、照準を定めながらの狙い撃ちも可能。チャージすれば、マシンガンのように勢いよく弾丸を発射してくれる。見た目は明らかにリボルバーなのになぜ……というツッコミどころもあるが、その辺は「気にしたら負け」と言っておこう。
こんな具合に本作は全編、暗闇に覆われたステージとわずかな探索要素、そしてトーチを用いた攻略法を特色としたアクションゲームになっている。その仕組みから、ステージクリア型を基本にしつつ探索型の美味しいところを混ぜた作品とも言える。
なお、本作はトラップや敵に接触すれば、問答無用でミス確定になる、1発アウトの方式を採用している。
この1発アウトは、2024年の大型アップデートで標準仕様になったもの。その前は数回のダメージを許すライフ制を採用していたのだが、Steamコミュニティの投稿によれば、ライフ制だと温くなりすぎるとのフィードバックを受け、変更に至ったようである。
暗中模索な展開の連続……と思わせて、意外にテンポ良好。そして、納得感のある高難易度を実現
本作の魅力は既に紹介している通り。全編、暗闇に覆われたステージを攻略していくその内容である。ネタとしては古くからあるものだが、全編という点で珍しさを出すと同時に、他のアクションゲームとは異なるスリルと遊び応えを表現している。
ただ、暗中模索の四字熟語を体現するかのごとし、スローテンポなアクションゲームではないというのが本作の面白いところ。舞台設定とは裏腹に、ゲーム全体の進行は非常にテンポがよく、スピーディに展開されていく作りになっているのだ。
それを演出するのがプレイヤーの分身たる主人公で、移動にジャンプといったアクション全般の挙動が軽快。もたつくことも、重みを感じることもなく、思うがままに動かせるキャラクターになっているのだ。移動速度も舞台設定を踏まえると、「恐れ知らずにもほどがある」とツッコミを入れたくなるほど迅速に動いてくれる。
ジャンプに射撃、トーチを投げることについても同様に大変キビキビとしていて、単純に動かしているだけでも楽しい手触りになっている。もちろん、ゲームパッドのボタン配置も適切で違和感がない。
その手触りたるや、これぞアクションゲームと言わんばかりの軽快なもので、慎重に行動する気を起こさせない仕上がりになっているのだ。おかげでゲーム全体のテンポも速く、暗中模索な立ち回りが必要になっても、もたつかずに進行する。そして、地形もその魅力を損ねない設計が図られている。
特筆すべき点は初見殺しがあっても、それなりの納得感があること。暗闇という環境は、その印象通り「闇討ち」の危険が付きまとう場所。それを警戒しながら進めていくことが想像されるが、意外に危険の多くは即座に察知できるようになっている。
というのも、敵の目を赤く表示するといった、危険を予測できる気配りが徹底されているのだ。また、トーチを投げることで危険を事前に察知できるのも初見殺しの軽減に貢献。そもそも、仮に暗闇に飛び込んで敵、トラップなどに接触してミスとなった時、トーチを投げての事前確認を怠ったという事実が、プレイヤーに対して突きつけられるのである。なので、ミスになってもそれは完全にプレイヤーの確認ミス。納得感のあるものになっているのだ。
さすがに本編が後半に差し掛かると、「それは気付かん!」となる敵や場面も出てくるが、それでもトーチによる事前確認が可能なことで理不尽さを感じにくくしている。プレイヤー側からすれば不利な暗闇という環境を採用しながら、ここまで気を遣ったものに仕立て上げているのには素直に驚かされるところだ。
さらにステージクリア型のアクションゲームとしたことも、結果として遊びやすさを引き立てている。前述したが、本作の世界観と題材は、明らかに探索型向きだ。現実に考古学者が主人公の探索型アクションゲームも存在するだけに尚更である。
それでありながら本作はステージクリア型を選んでいるのだが、この判断は正解だった。探索型の場合、マップの構造を把握するというのは本編の攻略に当たって欠かせない。迷路の中を進むかのように、色んな場所を巡り歩いていくのが基本となる。
しかし、本作は暗闇に覆われている関係で、構造が把握しにくい。そして、これによって大きな問題となるのが、主人公のパワーアップ(アクションや武器の追加など)によって通行可能になるポイント。目に見える範囲が限られているからこそ、そういったポイントがどこに存在するかの印象が残りにくくなってしまう。ましてや、本作の場合は暗闇。その存在を見過ごしてしまう恐れも大きく、逆にプレイ時間の水増しへと繋がりかねない。
そのような問題が想像されることを踏まえれば、本作がステージクリア型を選んだのは正解だった。おかげで前述した問題に直面することなく、純粋に暗闇の中で出口を探す遊びを楽しめる。
装備のパワーアップがある点から、もしかすると本作も制作当初は探索型を想定していたのかもしれない。だが、仮に探索型のままだったら、非常にストレスフルな内容になっていただろう。そのことを踏まえると、ステージクリア型を選んだのは正解で、結果的に軽快なアクションと、テンポのいい展開といった魅力が一層引き立つ形になっている。
「でも、この題材なら探索型が良かったんじゃ……?」と、題材の第一印象から思ってしまうところもあるが、遊べばそうしなかった判断がいかに適切であったかを痛感させられる。同時にステージクリア型だからこそ、ここまで魅力あるアクションゲームになったとも分かる。
その意味では本作、面白さを左右するゲームデザインの真理を痛感させられる作品と言えるかもしれない。
飛び込む覚悟と慎重さの塩梅が脱出のカギ!短編ながら手応え十分の良作
難易度も大型アップデートで1発アウト方式という、厳しい仕様になったものの、過度な上昇には繋がっておらず、むしろ適度なスリルを味わえるバランスに収まっている。これは癖のないアクション、初見殺しを抑える工夫あっての賜物だろう。
一点、ミスするとかがり火台まで大きく戻されてしまうのは若干、煩わしさを感じるかもしれないが。ただ、戻されても火を灯した燭台、回収したアイテムは維持され、状況によってはステージ攻略の時間を短縮できるメリットも得られる。
むしろ、明確に難点と言えるのは大型アップデートで実装された日本語テキスト。台詞の翻訳は概ね問題ないのだが、細かい表記が違和感バリバリ。
正直、本作はストーリー性の強いゲームではないので、デフォルトの英語でプレイしてもあまり支障はない。むしろ、その方が奇妙な日本語表記に気を取られる心配もないので、これからプレイするに当たってはそちらを選ぶことを薦めたい。
また、幽霊の敵の出現法則が初見時だと分かりにくいというのもある。ただ、プレイを重ねれば、かの有名な照れ屋の幽霊に近い仕組みが分かってくるはずだ。他に細かいところでは、敵を倒した時の出血表現が(なぜか)妙に激しくて生々しいというのもある。
しかし、その辺を除けば、グラフィック自体は1980年代のアーケードゲームを思わせる見た目と、揺らめく炎と灯りという最新の表現が融合した作りで完成度は高い。
音楽も雰囲気重視ながら、ピラミッドという舞台設定と見事にマッチ。効果音もゲーム的な爽快感を重視した仰々しい音が揃っており、敵を倒したり、仕掛けを解除した際の手応えを引き立てる。攻撃性能が備わったトーチが命中した際には一瞬、動きが止まる「ヒットストップ」もあったりと、派手さと爽快感を出す工夫が凝らされているのも見事だ。
クリアまで大体1時間半~2時間ほどの短編だが、全編真っ暗なステージを始めとする個性の強さと、アクションゲームとしての手触りの良さもあって結構な良作に仕上がっている。
アクションゲーム好きはもちろん、この舞台設定にワクワクするものを感じたなら、ぜひ挑んでみていただきたい。真っ暗なピラミッド内部を駆け抜け、光ある世界への脱出を目指そう。そして、まさかのパロディ展開を目撃せよ!?
[基本情報]
タイトル:『Lulu’s Temple』
作者:Agelvik
クリア時間:1時間半~2時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):580円
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