てんこ盛りな戦闘システムとストーリーで送るSFアクション&シューティングコマンド型RPG『LunarLux(ルナーラックス)』

RPG,インディーゲーム

2023年はインディーゲーム界隈において、話題性の高いターン制ロールプレイングゲーム(RPG)の新作が相次いだ1年であったように思える。
特に日本時間12月8日に開催された「The Game Awards」で「Best Independent Game」に輝いた『Sea of Stars』は、まさに象徴的一作と言ってもいいだろう。

同作の他にも発売は2022年だが、2023年2月に日本語対応アップデートが実施され、12月からはNintendo Switch、PlayStation 4版の販売も開始された『Chained Echoes』、長らく開発中にあった変身&冒険RPG『Cassette Beasts』といった新作が出ている。

そして、もうひとつが『LunarLux(ルナーラックス)』。本作は2023年9月26日より、Steam、Epic Games Storeにて販売中のWIndows PC向けRPGだ。

元々は「RPGツクール2003」製の新作RPGとして作られ、2020年3月にインディーゲーム投稿・販売サイト「itch.io」で無料の体験版が公開された(※2023年12月現在は終了)。後にゲームエンジンを「Game Maker Studio 2」に改め、1からの作り直しが決定。同時にパブリッシャーの支援を取り付け、日本語を含む複数の言語に対応することにもなった。また、2022年には発売を前にしたKickstarterキャンペーンも実施。その成功により今後Nintendo Switch版も発売されることが決定している。(※本稿執筆時点では発売日未定)

衛星「ルナー」に迫りくる危機に立ち向かえ!

改めて内容紹介に入ろう。本作はストーリー主導型の構成を取ったRPGである。

プレイヤーは衛星「ルナー」の治安を守る戦闘部隊「ルナーフォース」所属の戦士「ベラ・グレイ」になり、謎のモンスター「マーク」との戦いを繰り広げながら、ルナーに迫りくる大きな危機に立ち向かっていく。

本編は「チャプター」ごとに展開されるストーリーに沿って発生するイベント(ミッション)をこなしていく形で進行。行動範囲の制限(縛り)は控え目。一部チャプターでは他のエリア(セクター)への自由な移動も許された設計となっている。


▲ワールドマップから目的地に向かい、降り立ったフィールドでイベントを進めるというのが基本の流れ。

また、次の目的地に関しては主人公ベラの相棒で、(自称)スーパーアシスタントロボの「テトラ」が常時教えてくれる。

そのため、行き先が分からなくなるようなことも滅多になく、スムーズにストーリーを進めていけるようにもなっている。

ただ、その途中では敵モンスター「マーク」との戦闘が発生する都合、終始、順風満帆とは行かないが。加えて本作は戦闘システムが非常に個性的で、その仕組みを踏まえた戦略(戦術)が求められてくる。

そんな戦闘システムだが、基本は「プレイヤー(ベラ)⇒敵(マーク)」の順で進行する、RPG伝統のターン制である。ただ、それぞれのターンにおいてプレイヤーに要求される行動がユニーク。まずプレイヤーのターンだが、ここは普通にモンスターへの攻撃、アイテムの使用といったコマンドを選ぶ形となる。

ただ、攻撃が少し変わっていて、「わざ」を選んだ後、数種類ある「アクティブスキル」の中からひとつを選択。その後、「アクティブスキル」にボーナス効果を付与する「サポートスキル」を3つある中から1つ選ぶことで、モンスターへの攻撃が実施されるのだ。

なお、サポートスキルは装備中のものからランダムで3つ選出。サポートスキルは最低10個まで装備しなくてはならず、戦闘中に有用な効果を発揮する種類を選別する必要がある。そんなカードゲームを思わせるデッキ構築要素も実装されている。

また、アクティブスキル使用時は「SP」が必要。このSPが不足しているとアクティブスキルは選べず、敵への攻撃ができなくなる。再びアクティブスキルを使えるようにするには、「チャージ」のコマンドを選んでSPを回復するか、回復アイテムを使うしかない。アクティブスキルが使えれば、サポートスキルでSP回復を図るという手もあるが、使えない場合は前述2つのどちらかになる。なお、チャージは使うと1ターンを消費。アイテムは使ってもターンを消費しないが、それ以上のアイテムは使用不可能になる。基本、1ターンにつき使えるアイテムは1つだけという決まりなのである。

そして、スキルによる攻撃を完了させると敵のターンに移るのだが、この時に移動可能なマス目(パネル)で構成されたフィールドが出現。パネルの数は攻撃の種類に応じて変わり、1パネルは移動が不可能、3パネルは上下方向のみ移動可能、9パネルは上下左右方向の移動が可能といった具合になっている。
このパネルの種類に応じてプレイヤーはベラを直接動かし、敵の攻撃を防ぐ、もしくは避けることになる。要はアクションゲーム的な操作が要求されるのだ。

なお、1パネルでは回避行動が取れないため、「シールド」による防御で対処することになる。ただし、シールドには回数制限があり、0だと展開できないことからダメージ確定になる。シールドの回数はアクティブスキル、サポートスキルの一部種類を使うか、アイテムを使えば回復できるので、枯渇しないように気を配ることが試される。

また、敵の攻撃の中には「ソウルアタック」、「ウェーブアタック」なる特殊タイプもある。前者は上下左右、斜め方向へと動かせるハートを操作して敵の弾幕攻撃を避ける、後者は左右に方向キーを入力してシールドの向きを変え、攻撃を防ぐ形だ。ちなみに「ウェーブアタック」のシールドは通常時と違って、消耗しない仕組みとなっている。

この敵ターンを乗り越えれば、再びプレイヤーのターンになり、以降はその繰り返しになる。以上の通り基本はターン制なのだが、カードゲームとアクションゲーム、そしてごく一部ながらシューティングゲームの要素を持ち合わせた、非常に盛り沢山かつ入り組んだシステムになっている。同時に一部の人は敵ターンにおけるアクションゲーム、シューティングゲーム的な展開に既視感を覚えるかもしれない。

あえて名を出してしまうが、その既視感は正しい。本作の戦闘システムはカプコンの看板タイトル『ロックマン』の派生作のひとつ、『ロックマンエグゼ』とその後継作『流星のロックマン』、そして当もぐらゲームスにも記事が掲載されている『Undertale(アンダーテイル)』(紹介記事)をモチーフにしているのだ。
特に「ソウルアタック」は、『Undertale』を知っている人ならば前述のスクリーンショットを見て、ニヤリとしたかもしれない。

ただし、あくまでも各種要素はモチーフの域を超えず、戦闘システム自体は完全な別物。「味方⇒敵」の順序で行動するターン制である所から、特に『ロックマンエグゼ』と『流星のロックマン』と同じ戦闘システムと思って挑むと、しっぺ返しを食らうので注意いただきたい。

細かい部分でも経験値取得によるレベルの概念、各種スキルの強化要素もモチーフ元との違いを表する部分だ。戦闘も基本、ベラひとりで戦う。加えて本作は、戦闘の多くがイベント進行による強制発生で、通常探索時には自主的に挑もうとしない限り絶対に発生しない。これについては後ほど、詳しく紹介する。

このように本作は戦闘システムが異様な個性を放つRPGに仕上げられている。本編の流れはストーリー主導型なのだが、かと言ってシステム側が薄い訳でもない。むしろ、”濃すぎる”といってもいいほど手の込んだ内容に仕上げられているのだ。

”てんこ盛り”の表現が似合う戦闘システムとイベントの数々

前述の戦闘システム解説からも、本作の魅力が何かは明らかだろう。カードゲームのような戦略を練る楽しさがあり、アクションゲームとシューティングゲームのスリルも凝縮されているという、”至れり尽くせり”がすぎるものに完成されている。

秀逸なのが本編が進むにつれ、戦略を練る楽しさから敵の攻撃に対処するスリルまで、右肩上がりで面白くなっていくこと。それはアクティブとサポート、それぞれのスキルの種類が増えて戦略の幅が広がるのもあるのだが、実は本作にはまだ多くの要素が存在する。

最も大きいのは中盤に解禁されるシステムで、戦術と戦略のすべてが一変する紛うことなき”転機”になっている。どんなシステムかは見てのお楽しみだが、RPGとしては特段斬新なものではない。ただ、かなりの変化をもたらす。そして、この転機到来後はますます戦闘中に気が抜けなくなる。そもそも、アクションとシューティングの要素がある時点で気が抜けないのだが、恐らくより集中して取り組むことになるはずだ。そして、この戦闘システムの規格外の”濃さ”に圧倒させられるだろう。「てんこ盛りにもほどがある!」と。

また、戦闘システムにはひとつ”興味深い”難点がある。それは時間がかかること。敵のターンにおいてアクションやシューティングが発生することもあり、必然的に戦闘時間は長くなってしまうのだ。プレイヤー側も前述の”転機”の後、(ネタバレを伏せつつの紹介になるが)”やることが増える”ため、より時間がかかるようになる。

ただ、本作が面白いのはそれによる水増しがないこと。前述したが、基本的に本編の戦闘はイベント進行に応じた強制発生、ストーリーの流れに乗じて発生する戦闘が大半を占める。RPGと言えば、イベント以外にもフィールドを歩いていた時の戦闘発生(エンカウント)があり、それを通して経験値やお金を稼いだりする流れが一種の定番だ。

だが、本作はフィールド探索中に戦闘が発生することがない。その最中に戦闘を発生させるか否かは、完全にプレイヤーの自主判断に委ねられている。具体的にはフィールドの1ヶ所にしか敵のシンボルが登場しないのに加え、シンボルそのものが動かないのだ。なので、接触しない限り、絶対に戦闘が発生しない。戦闘に挑むか否かはプレイヤーにお任せ。かなり思い切った措置が取られているのだ。

おかげで本作は戦闘の長さによって、ストーリー進行が遅延するみたいなことも起きない。しかも、長いなりに得られる経験値も多く、簡単にレベルアップ可能。逆にお金絡みは渋いのだが、その分、イベントでの強制発生の方で得られる額が大きめで、単純にストーリーを最後まで進めるだけなら、あまり稼ぎには取り組まなくていい。ある程度、回復アイテムを溜めたいなら稼ぎは必要になってくるが、そこまで時間を取られすぎることはなく、比較的スムーズにこなしていけるのだ。

このような配慮を凝らしているのが素晴らしい。戦闘システムが個性的だと、より長く触れてもらうための工夫を凝らしがちだが、本作は逆に大きなストレスになり得る懸念から、押し付けないことを徹底し、プレイヤーの心境を考慮した工夫がされているのである。実際にプレイすれば、戦闘の長さは気になるかもしれない。だが、不思議とストーリー進行の邪魔にならない。しかも制御できるから、例えストレスを感じたとしても、結果的にそれはプレイヤーの判断から生じたものと見なされる。まさに自主性を尊重させたまとめ方に徹しているのである。

アクション要素のある戦闘システムは、下手に凝りすぎるとテンポが必要以上に悪化して水増し感が高まる側面がある。そのような課題に対するこのアプローチには、アクション要素のある戦闘システムに思うところがある人ほど「そういう割り振り方もあるか……」と声を出してしまうはずだ。同時に独自の戦闘システムを無理に押し付けようとしない、制作チームの配慮にもグッとくるかもしれない。

他に話題を右肩上がりで面白くなっていくことに戻すと、本編のイベントと探索もその象徴的な例として挙げられる。パズル的な仕掛けが登場したり、突然の回避アクションが要求されたりなど、個性豊かなネタが続々と繰り出される。

とりわけ「ネットワークダイブ」なる、相棒のテトラを操作するパートには驚かされるだろう。見下ろし視点の全方位型アクションシューティングをプレイすることになるからだ。

おまけにパートの開始直前には、「プラグイン!テトラ.EXE トランスミッション!」と叫びたくなる演出まで挿入される。ここまでくると「そこまでやるか!」である。

まあ、「そこまでやるか!」と言いたくなるのは戦闘システムもそうなのだが。とにかく、やればやるほど、本作の盛り沢山ぶりには圧倒させられるだろう。しかも、エンディングまでに要する時間は8~10時間程度と短め。それなのに倍以上のものが詰まっているかのような濃さがあるので、興味が湧いたのならばぜひ、突撃してみていただきたいところだ。

個性的なキャラクターたちが織り成すストーリーにも注目の力作

戦闘システム、イベントを盛り上げるストーリーも、ベタながら熱い展開の数々で楽しませてくれる。そして、こちらにも中盤にちょっとした”転機”が設けられている。例によって、どんなものかは見てのお楽しみだ。

また、キャラクターも己のアシスタントロボとしての優秀さを主張しまくるテトラを始め、ベラの友人であるレイン、メロディー、ザラの3人、そしてキーパーソンのマークスレイヤーといった個性の強い面々が揃っている。

とりわけマークスレイヤーとベラの絡みは、色んな意味でニヤニヤしてしまうかもしれない。さらにストーリーに関しては、台詞などの日本語翻訳が完璧な仕上がりであることを声を大にしてお伝えしたい。素で日本のゲームではと思うほど、キャラクターの口調から小ネタまで見事に訳されているのだ。その自然すぎる言い回しの数々には、翻訳担当者の手腕の高さ、そしてローカライズに対する並々ならぬ熱量の高さを思い知らされるだろう。

システム以外の部分でもグラフィック、音楽も素晴らしく、後者に関してはやたらと熱くてテンションの高い戦闘曲(特にボス戦)が強烈な印象を残す。ボリュームも前述したストーリーは10時間以内で決着するものの、サイドクエストに隠しボスといった寄り道要素が豊富に用意されており、それらをすべてこなすとなれば長く遊べる。難易度もアクション周りで実力差が現れやすい部分があるものの、サポートスキルによっては大幅な緩和が可能など、柔軟性を持ったバランスにまとめられているのが見事だ。

一方で配慮されているとはいえ、戦闘に要する時間が長いのは人によって気になりやすい。また戦闘では、アクティブスキルを決定した後のキャンセルが不可能という謎めいた仕様がある。スキルを間違えて選んでしまった際のフォローがないのだ。これはさすがに擁護が難しく、なぜこんな仕様にしたのかの一言に尽きる。そのため、これからプレイされる場合は、戦闘中に選び直しができないことを留意してプレイすることを強く推奨する。

さらに本作はゲームオーバーになると、前回のセーブからのやり直しを強いられる。しかも、セーブはフィールド上の特定地点で行う形式のため、迂闊にし忘れれば大きく巻き戻される。これもオートセーブに慣れていると手痛い目に遭いやすいため、プレイするに当たっては要注意だ。それ以外では「ソウルアタック」の一部にランダム性の強すぎるパターンがあること、ストーリーが一部未完に終わることがある。後者は「次回に続く!」みたいな終わり方はしないので安心いただきたいが、人によってはモヤモヤするかもしれないのでご注意を。

そういった難点もあるが、個性の強い戦闘システムと起伏のあるイベントの”圧”は強く、作品自体は紛うことなき力作に仕上がっている。

また、本作は今後もアップデートが予定されており、クリア後のステータスを引き継いで遊べる2周目の追加などが検討されている。いつ頃の配信になるかは本稿執筆時点で不明だが、そのアップデート次第では前述した難点の一部が解消される可能性があるので、詳細の発表に期待したいところだ。

ボリュームはコンパクトだが、密度は濃く、戦闘システムのおかげで抜群の遊び応えを誇る本作。RPGと言えば戦闘が好きという人には言わずもがな、アニメ風のイメージビジュアルとキャラクターデザインに惹かれた人もぜひお試しいただきたい1本だ。そして、モチーフ元のひとつ、『流星のロックマン』好きにも強くお薦めしたい。

……って、なぜ『流星のロックマン』だけをピックアップしたのか?

答えは(↑)これだ!(ちなみに他にもギリギリなネタが満載ですのよ)

[基本情報]
タイトル:『LunarLux(ルナーラックス)』
開発:CosmicNobab Games(※販売:Freedom Games)
クリア時間:8~10時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):2,300円

◇購入はこちら
・Steam

・Epic Games Store
https://store.epicgames.com/ja/p/lunarlux-41403d

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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