霊的現象が生じる墜落宇宙船内を霊媒師が駆ける。恐怖と選択の探索ホラーアクション『MEDIUM-NAUT』
あなたはこれから
後戻りのできない選択に
何度も迫られます。あなたの選択に
後悔の無いことを……
思わず身構えてしまう注意喚起と共に始まる本作、『MEDIUM-NAUT』は「アクションゲームツクールMV」製探索型SFホラーアクションゲーム。
高難易度の探索型アクションゲームとして名高い傑作『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』シリーズ(紹介記事)の作者で、インディーゲーム制作チーム「NIGORO」のボス、楢村匠氏が個人(Blue Boss名義)で作り上げた完全新作である。
2021年12月よりNintendo Switch、PC(Steam)向けに販売中だ。
霊的現象を潜り抜け、2つの目標物回収に挑む探索型アクション
前述の通り、本作は迷路のように入り組んだ広大なマップを進み、敵と戦ったり謎を解いたりしていく横スクロールのアクションゲームである。
本編の舞台となるのは、宇宙開拓船「オストラシーダ号」。
ある日、「オストラシーダ号」は未開拓の惑星へと墜落する大事故を起こしてしまう。乗船者救出のため、急ぎ調査団が墜落現場へと向かうのだが、彼らは何の成果もあげずに帰還。いわく”霊的な現象”の影響で船内に入れなかったという。
この事態を受け、霊媒師「ユーミ・キサラ」に調査が依頼された。
プレイヤーはそんな彼女に扮し、墜落した「オストラシーダ号」へと潜入。事故の状況からして、生存者はいないと思われるが、遺体の回収が困難を極めることから、彼らが生きた証となる「IDチップ」を回収するため、内部の調査を進めていく……というのが、大まかなストーリーおよびゲームの流れとなる。
なお、IDチップ回収以外に、船内の”霊的な現象”に関係する情報を記した「サイモン博士のレポート」の回収も目的のひとつになる。これらをなるべく多く集め、船内のどこかに設けられた出口から外に脱出すればゲームクリア。エンディングを迎える感じだ。
”なるべく”と表したように、チップもレポートも全て回収する必要はない。いざとなれば、ひとつも回収せずクリアするのも可能となっている。しかし、それがいかなる結末に繋がるのかは大体察せるはずである。
……これ以上はゲーム本編でお確かめを。
そんな2つの目的物だが、「IDチップ」は乗船者当人に「祈り」を捧げる、「レポート」はセーブポイントの端末を調べることで回収できる。
前者のケースには思わず、「何か特殊な手順を踏むのか?」と思うかもしれないが、単純に乗船者の近くで動作に対応したボタンを1回押すだけ。ビックリするほど簡単だ。
なぜなら、主人公は霊媒師ですから!お茶の子さいさいというヤツである。
そんな霊媒師のユーミ、銃火器で船内にはびこる敵と戦います。
未来にはこんな霊媒師がいるのですね。
……って、脱線はこの辺にして。
乗船者の一部にはユーミをパワーアップさせる「アイテム」をくれたり、船内環境を変化させてくれる者もいる。これが探索型アクションゲームでお馴染みのアップグレードシステムに該当し、本作ではこれをもらうか、変化させてもらう形で行動範囲が広がる仕組みになっている。だが、どちらも実践すれば、ユーミの体力(ENERGY)最大値が減少してしまう。
これが本作のシステム的な特徴のひとつ。アップグレードの際に代償を払わねばならないのである。そのため、過度なパワーアップを図れば図るほど、ユーミがどんどん打たれ弱くなっていく。あまりにやり過ぎれば、体力の最大値は1まで減ってしまい、そうなれば船内にはびこる敵に接触したり、攻撃を1回受けるだけでゲームオーバー直行だ。
そのような危険があるため、アップグレードの際には常に選択が発生する。これがもうひとつの特徴にして、冒頭のメッセージが示すもの。強くなるか、ならないかをプレイヤーが判断して決めなければならないのである。
もし、アイテムをもらわない、変化を望まないならユーミの体力最大値は維持される。しかし、行動範囲は広がらない。逆の行いをすれば、体力の最大値は減るが、行動範囲は広がり、アクションも増えて機動性が増す。
まさに代償を払う行為そのものを体現した仕組みになっている。そして、アイテムなどの選択を拒否した後、乗船者のチップを回収してしまうと一連の決断は確定。後から「やっぱりアイテム欲しい!」と思っても、二度と手に入らなくなってしまうのだ。
一部、”例外”もあるが、このような苦悩必至な判断を下しつつ、プレイヤーは船内の調査と探索を繰り広げていかねばならない。さながらアドベンチャーゲームの分岐、それに伴う展開変化の要素を探索型へと落とし込んだような作りで、まさに選択を題材にしたゆえの独自性が光るシステムに仕上げられている。
また、肝心の乗船者もそう簡単には発見できない。多くは船内の小部屋などを隈なく調べていく必要がある。さらに船内では”霊的な現象”により、異形の怪物たちが調査の邪魔をしてくる。そして、霊的な現象は乗船者にも影響を及ぼしている。
どういうことかと言うと一部、悪霊に取りつかれた乗船者が存在するのだ。この乗船者と遭遇するとボス戦が開始。撃退するまではチップもアイテムも回収できなくなるのである。本作は調査に主軸を置いているが、それでも根っ子はアクションゲーム。こうしたイベントも設けられており、油断ならない展開を演出する。
悪霊も乗船者ごとに異なる上、特定の順序を辿らないと出現しない個体などもいる。中には、それまでに回収した「チップ」や「レポート」などから得られた情報を元に推理しないと出てこないという厄介な存在も。それだけに、チップの全回収を目指そうとすれば、本当に隙間なく調べて考える根気が必要。
船内のマップ構造もしっかり把握しなければならないなど、そう易々とはいかないのだ。こうした探索型アクションゲームとしての手応えも申し分なく、プレイヤーの挑戦意欲を刺激する設計が図られている。
そして、その確かな遊び応えに『LA-MULANA』の作者が作っているなりの”らしさ”が全開。方向性は全く異なるが、極めて近い”味”と、このアイディアならではの体験が詰まっていて、非常に意欲的な探索型アクションゲームに仕上げられている。
”選択”の題材に則った適度な難易度と、確かな手応え
本作の魅力は”選択”というシステム上の特徴、題材に適した難易度。攻略スタイルに応じて易しくなったり、難しくもなったりする柔軟性が見事に表現された調整になっている。
その秀逸さを物語るのが、作中の目標を絶対に完遂する必要がないことである。「IDチップ」や「レポート」を全部集めなくても、一部の乗船者を発見できずとも、出口から脱出してしまえば、それでゲームクリアなのだ。妥協できる余地が設けられているので、まさに易しくするのも難しするのも自在な設計になっている。
もちろん、出口がどこにあるのかゲーム中に一切教えてくれず、マップ上にも記されていないので、自力で見つけ出さなければならない。それに、そこまで到達するにも一部、必要となるアイテムが存在するので、何人かの乗船者は発見する必要もある。
逆を言えば、出口がどこか分かって、必要なものが揃えば、あとは無理して探索を続ける必要がなくなってしまう。実質、クリアしたも同然の状況になるのである。
それもあってか、多少ネタバレになるが、本作にはいわゆるラスボス(最終ボス)がいない。一応、それらしい存在自体はいるのだが、対決するか否かはプレイヤーの選択に委ねられているので、嫌なら出口に向かってしまってもいいのだ。
なので本当に本作、多少探索する必要こそあるが、ゲームクリアを目指すだけなら血を吐く程度の難しさはない。人によっては”易しい”とすら感じるほどの難易度なのだ。
とは言え、どれも分かった前提でのことのため、そこに辿り付くまでは結構難しいが。ただ、マップを隅々まで探索することを心がければ、必ず誰かが見つかり、行き先も見えてくる設計なので、理不尽さはない。
『LA-MULANA』シリーズの作者の新作ということで、もしや本作も高難易度なのか……と警戒する方がいるかもしれないが、ご安心いただきたい。
もの凄く簡単という訳ではないが、そこまでの難しさではない。じっくり周囲に気を配り、慎重に行動すれば着実に攻略可能なバランスなので、そのような先入観を持ってプレイすれば、いい意味で裏切られるだろう。
また、乗船者全員の発見とチップ、レポート回収を目指した場合の難しさも適切である。一部、『LA-MULANA』シリーズのように「チップ」と「レポート」に記された情報などを元にした推理、隠し部屋の発見も求められるが、慎重に精査すれば自然に発見可能。あまり「そんなの分かるか!」みたいな感情は湧きにくい。それらの数もほんの一部に限定しているので、(個人差はあるものの)概ね許容範囲に留まっている感じだ。
戦闘も雑魚敵は基本、無理して倒す必要はない。悪霊とは「チップ」やアイテムなど入手の際、どうしても戦うことになるが、攻撃パターンはシンプルで読みやすく、位置取りによってはゴリ押しも効く。高度な立ち回りが試される機会も少ないので、アクションゲームが得意でない人も自信を保ちつつ立ち向かえるだろう。
もっとも、悪霊たちはプレイヤーをドキッとさせるのを狙い、唐突に出現するので、そこで甚大な精神的ダメージを受けるかもしれないが。
そんな一面こそあるが、基本的に本作は超絶な高難易度ではない。探索は序盤から広範囲に動ける構造のため、それなりに難易度は高いが、隈なく調べるのを心がければ、自然にユーミを強化でき、行動範囲も広げていける。最初から船内の全体図が分かっていて、確認しながら進めていけるほか、セーブポイントもホドホドに設置されている。
ゲームオーバー後、タイトル画面に戻されてしまうのは若干、ストレスを感じるかもしれないが。また、このタイトル画面に戻った時、カーソルが最初から本編を始める「START」を指定しているのも厄介。(※なお、これはNintendo Switch版だけのことで、SteamのPC版ではアップデートで「CONTINUE」が指定されるように修正済みである)
ただ、全体としては不親切になりすぎず、親切になりすぎずの塩梅。また、様々な選択に応じて、難易度から探索の順序まで変化する作りも検証し甲斐があり、探索型アクションに探索を何よりも求める人なら、心躍る体験が楽しめるだろう。
その意味でも本作は非常に見所が多く、いい意味で先入観を裏切る面白さがある。ひとつの探索型アクションゲームとしても、バランスの取り方からマップの構造まで、興味深い試みが多いのでジャンル好きには見逃せない。
アドベンチャーゲームの要素を落とし込んだゲームデザインもまた然りで、難易度の設定も含め、考え抜かれて作られた作品であることを実感させられるだろう。
ホラー作品らしい”ドッキリ”も満載の意欲作にして良作
細かい部分でも操作性、グラフィック、音楽、演出周りの完成度も高い。操作性はキー配置もさることながら、挙動に癖がないので、思うがままにユーミを動かせる安心感と楽しさがある。特にアイテムおよび、環境変化などの強化で実現するハイジャンプの気持ちよさは格別。霊媒師が華麗に宙を舞う様子にも、妙なシュールさがあるので必見だ。
グラフィックもユーミが悪霊の出現で腰を抜かしたり、撃退と同時に乗船者が床に倒れ伏す
など、細かなアニメーションと描き込み具合が光る。音楽も霊的な現象が生じている宇宙船内の設定にマッチした、不気味な楽曲が満載。雰囲気重視という訳ではなく、いかにもゲーム音楽らしい耳に残る楽曲を用意しているのもニクい配慮だ。
演出も特に恐怖系が際立って強烈。前述でも言及したが、悪霊の出現には誇張抜きに心臓に衝撃が走るほどドッキリさせられるだろう。
逆に苦手な人には、かなり応える演出になっているので要注意。
ストーリーも「チップ」と「レポート」の回収に応じてひも解かれていく作りで、霊的現象の真実と最後のレポートに記されたコメントには、ホラーを題材にした作品らしい納得感を得られるはず。乗船者たちも一人ひとり、固有の設定と過去が設定されていたりと、その作り込みの深さには唸らされるはずだ。
総じて『LA-MULANA』とは全く似て非なる魅力がありながら、同作を思わせる手応えも最小限残す配慮が光る本作。割とホラー要素が強烈な点で人を選ぶかもしれないが、探索型アクションゲームとしては適度なバランスでまとめられた仕上がり。この種のゲームが好きな人から、題材とシステム上の特徴に興味を持った人も存分に楽しめる意欲作にして良作だ。
ただ、最後にひとつ、本作はPC(Steam)版を推奨する。Nintendo Switch版は前述のゲームオーバー後のタイトル画面に関する問題の修正が行われていないほか、敵が沢山出現すると処理が重くなる独自の難点がある。
後者はツールの仕様が関係しているようで、致し方がない部分だが、もしそれを許容しがたいのであれば、ある程度は動作が安定して遊べるPC(Steam)版がお薦めだ。
決してNintendo Switch版が遊べない訳ではないが……念のためである。
今後、購入を考えるに当たっての参考になれば幸いだ。
[基本情報]
タイトル:『MEDIUM-NAUT』(ツクールシリーズ MEDIUM-NAUT)
作者・販売元:Blue Boss(楢村匠)、Gotcha Gotcha Games
クリア時間:5~7時間
対応プラットフォーム:Windows、Nintendo Switch
価格(税込):¥1,520(Steam)、¥1,500(Nintendo Switch)
IARC:7歳以上対象(暴力、出血表現あり)
購入はこちら
※PC(Steam)
※Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000048711.html