最後の1分間を繰り返し、真相を暴け。可愛さと残酷さ入り混じるSF探索ゲーム『MinuteGlass』
念願の宇宙旅行を楽しんでいた少女リリアン。
だがその最中、宇宙船の酸素供給装置が故障。
1分後に船内の酸素が消失するという緊急状態に陥る。
だが、船は宇宙のど真ん中。救助を呼ぼうにも時間がない。
この絶望的な状況で、リリアンはどう行動するのか。
そして、何を得るのか。
リリアンの命運を握るのは……”あなた”だ。
そんなどう足掻いても絶望なオープニングと共に始まるのが、これより紹介する短編探索ゲーム『MinuteGlass』。2021年8月27日より、「ふりーむ!」にて公開中のWindows PC用フリーゲームである。
行動すれば全てが終わる。そして、繰り返される。
その内容は単純明快だ。
酸素が尽きるまでの1分間の内に何らかの行動を取る。
さすればストーリーが進み、酸素が尽きてゲーム終了である。
「おいおい、無慈悲すぎるだろ!」と言われても、実際そうなのだから仕方がない!
何らかの行動を取れば、その時点で”死”という名の「THE END」!
正確には「DEAD END」!
主人公の置かれた状況をこの上なく表した作りになっている。
もう少し具体的に掘り下げていくと、システム的には横スクロール型マップを移動しながらプレイするアドベンチャーゲーム。キーボードの方向キーを押すとリリアンが移動し、船内のコントロールパネルなどの物に近づいてEnterキーを押せば、対象を調べられる。また、Vキーを押すと重力が反転。天井を歩けるようになる。再度、Vキーを押せば重力が元に戻り、地上を歩けるようになるという具合だ。
さながらアクションゲームの仕組みだが、本編に罠や仕掛けを避けるような要素はない。厳密には一部に”若干”存在するが、基本は船内を歩き回り、気になる物や場所を調べること。移動可能な船内も区画が2つだけという狭さで、アクションゲーム的な手触りは皆無。アドベンチャーゲームらしい遊びに特化した作りになっている。
ちなみに前述の行動とは、気になる物、場所を調べた時に現れる選択肢を選んで決定することを指す。それを実行すると最期の1分が経過して酸素が尽き、リリアンがお察しの通りのことになる。それすなわち、行動しなければいいのではと思うかもしれないが、それだとストーリーが進まない。ストーリーを進めるには行動しなければならないのだ。
どういうことかと言えば、本作のストーリーはループ構造なのである。つまり、酸素が尽きる様々な結末を経験しながら、この緊急事態を脱するための手がかりに迫っていくのが基本的な流れということだ。
言うなれば、本作は最期の1分間を繰り返すゲーム。
ループ構造ならではの構成を取った内容にまとめられているのである。
徐々に謎が明らかになっていくストーリー。しかし……?
作品の魅力も明瞭。ループ構造で描かれるストーリーだ。
1分後に酸素が尽きる宇宙船内で、できる限りのことを試す!
だが、1分しか時間がないので、やれることはごく一部。
そして、大抵は状況を打破する一手とならず、残酷な結末を迎える。
一体、どうやってこんな状況から逃れればいいのかと、プレイヤーの関心を嫌でも引っ張る内容だ。また、よく掘り下げてみると、ストーリーの節々には非常に多くの謎がちりばめられている。あまり紹介するとネタバレになってしまうので、一部に留めるが、例えばある場所を調べてみたら、不釣り合いな”何か”が見つかる、といった感じだ。船を制御するコントロールパネルにも、「なぜそのようなものが……?」と、思わず呟いてしまうものが隠されており、プレイヤーの関心をグッとひきつける。
また、何より最大の謎がリリアンの乗った宇宙船が突然故障したことである。途中までは順調に航行していたことがオープニングでは語られるのだが、どういう訳か異常をきたして、リリアンを窮地に追い込んでしまう。単なる偶然、不運な出来事と思うかもしれない。だが、それならば船内に散らばった謎の数々は何を意味するのか?
このような興味を抱かせる要素が随所にあって、プレイヤーを真実の追求へと誘っていくのである。そして、全ての謎に直面した後、ストーリーは急展開を迎え、いくつかの真実判明と同時に”理想的なエンディング”へと向かう。
それがどのようなものかはもちろん、実際にゲームをプレイしてのお楽しみである。ただ、様々な謎が一点に収束していく流れには、きっと唸ってしまうだろう。そんな伏線回収に醍醐味が集約されているストーリーにまとめられている。
何より面白いのが、理想的なエンディングを迎えるのが完全なゲームクリアではないということ。理想的なのにゲームクリアにならないとはこれいかにだが、実際にプレイすればどういうことかよく分かる。そして、本当のゲームクリアを迎えた時、真実を追求するのは果たして正しかったのかと、思わず自問自答したくなる余韻が残るのである。その理由も例によって、プレイしてのお楽しみである。その場に直面すれば、きっと色んな意味でこのストーリーの落としどころが忘れられなくなってしまうはずだ。
ストーリーの魅力に焦点を当てたが、本編の構成も凝っている。1分間内に取る行動を決める、という点で基本は選択と決断の繰り返しに終始すると思うかもしれない。だが、幾つかの行動を発見していくと、なんとゲームジャンルが変わる展開も起きるのだ。詳細は省くが、宇宙船内外のマップがある、というだけでも何となく察せるかもしれない。
正直、筆者は最初、まさに選択と決断に終始する内容と想像していたので、この展開にはいい意味で裏切られた。また、ちゃんとこのイベントにストーリー上の意味が込められているのにも、「なるほど!」と衝動的に手のひらを叩いてしまった。
この一連のイベントには”難易度の概念”も存在するのだが、それも丁度良い塩梅で、ストーリー進行を邪魔しすぎず、かといって手応えが全くない訳ではないバランスに落ち着いているのも素晴らしい。単調な展開に終始しないよう、制約下で見事に工夫された構成になっているので、こちらもストーリー展開ともども要チェックだ。
設定が物語る通り、ボリュームは大きくない。件の本当のゲームクリアまでは大よそ1時間ほどだ。ただ、前述の特色もあって物足りなさはほとんど感じさせない。疑わしく思うかもしれないが、実際にストーリーの運び方からイベントまで、その意味を感じさせられる仕上がりなので、気になれば本編を始めていただきたい。
それほど、よく考えられた短編作品なのである。
可愛さと残酷さが入り混じった、懐かしくも新しい一作
スクリーンショットを一目見れば分かるが、オリジナルのドット絵で彩られたグラフィックも素晴らしい出来。背景からキャラクターまで、細かい所まで丁寧に描き込まれている。特にキャラクターは主人公のリリアンも含め、可愛らしくデザインされているので必見である。このようなキャラクターが極限状態下でもがく、というのもまた然り。
さらに音楽は全編、一曲だけ流れる仕組みなのだが、こちらもオリジナルであり、どこか儚げな旋律が強烈な印象を残す楽曲に完成されている。ストーリー全体の雰囲気にもよくマッチしているほか、演出面との親和性も高いものになっているので、こちらもグラフィック共々注目である。人によっては、少し昔懐かしいゲーム音楽との印象も抱くかもしれない。
昔懐かしさは、ひらがな主体の台詞(テキスト全般)、それらを刻む際の効果音でも世代によっては感じること請け合い。もちろん、テキストのフォントもドット感が押し出されたものなので、「これこれ」となってしまうはずだ。
総じてゲームシステム、ストーリー共に単純明快さが強く出ているが、キモを押さえた作り込みと工夫が光る仕上がりになっている本作。
気にかかる点として、操作がキーボード主体で、ゲームパッド操作に非対応というのがあるが、別に高度なアクションが要求される場面はないので、そんなに大きな難点にはなっていない。宇宙船外のマップに待ち受けるイベントも、妙に凝った構成に戸惑うかもしれないが、”メモさえあれば十分なんとかなる”と記述しておく。
この世界観と設定、ゲームコンセプトに惹かれたなら、相応の期待に応えてくれる内容だ。数多くの謎がちりばめられた小さな宇宙船内を舞台に、選択と決断を繰り返し、窮地に陥った少女を救うための真実を見つけ出そう。
そして、それを求めすぎることへの弊害も同時に味わおう……?
[基本情報]
タイトル:『MinuteGlass』
作者:ゆきみや
クリア時間:1時間~1時間半
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/26418