斧と世知辛さの短編アクションRPG『三十路だけど狂戦士やってます』私、30歳を機にバーサーカーになりました。
ある企業で営業として勤務する「尾野神恭子(おのがみ きょうこ)」は、その日も上司の「水舞珠理(みずまい じゅり)」から仕事のミスを指摘されるなど、トホホな働きぶりを見せていた。そんな彼女は、近々30歳を迎えようとしていた。
そして、迎えた誕生日。恭子は自宅のベッドで音楽を聴きながら眠りについた。それとともに現れる謎の老人。その者は恭子に「本日、めでたくお主は魔法使いになった」と告げ、パンパカパーンのノリでクラッカーを鳴らした。
さらに老人は魔法使いの村の村長であり、自分たちの暮らす世界に魔王が現れたこと、魔王を倒して自分たちの世界を救ってほしいと恭子に伝える。なお、魔法使いは福利厚生良し、社会保険完備、土日祝日休み、未経験者歓迎で制服もカワイイとのこと。
うさん臭さ全開で警戒する恭子だったが、村長はお構いなしに彼女を「魔法使いの村」へと招待。かくして恭子は異世界で魔法使いとして、魔王退治に取り組むことになってしまうのだった。
だが、実際は魔法使いではなくて狂戦士(バーサーカー)として戦うのであった。
そんな訳で『三十路だけど狂戦士やってます』!
上記スクリーンショットの通り、正式な作品名です。
武器は斧ただひとつ!迫りくるモンスターと魔王“たち”を一刀両断だ!
「なんでバーサーカーなのよ」だが、理由はシンプルだ。村長から渡された「木こりの斧」でモンスターに戦いを仕掛けたところ、簡単に倒せてしまったので、バーサーカーとして頑張ることになった。それだけである。
より詳しい経緯については、ゲーム本編をお確かめいただきたく。
とにもかくにも、基本的な内容(兼ジャンル)としてはアクションRPGとなる。プレイヤーは魔法使いじゃなく、バーサーカーとして頑張る主人公の恭子を操作。魔法使いたちが暮らす世界を支配しようと目論む魔王の討伐を目指す。なお、魔王は複数体いる。
遊び方としては、拠点に当たる「魔法使いの村」から、魔王が待ち受けるエリアへとワープ。行く手を阻むモンスターたちを蹴散らしながら道中を進み、各エリア最深部で待ち受ける魔王(という名のボス)を倒すことを繰り返し、ストーリーを進めていく感じだ。
エリアへのワープは、拠点の村に居る「テレポーター」なる魔法使いに話しかけて実施。選べるエリアはストーリーの進展に応じて増えてい……かない。なんと最初から全エリアへ行けてしまう。だが、魔王を倒す順番は決められているため、先に別の魔王を倒すみたいな進め方は無理(※マップ自体には訪問できるが、途中で進入制限がかかって先に進められない)。村長の命にはちゃんと従いましょう。
エリアには魔王の配下であるモンスターたちが多数徘徊。近づくと、恭子への攻撃を仕掛けてくる。それに対し、こちらがやることはただひとつ。唯一の武器たる斧でしばく!それだけだ。副装備もなければ、剣に槍、弓矢といった武器もない。斧だけである。
それもあって、基本アクションは移動と斧による斬撃のみと少なめ。システム面でも、レベルアップは敵を倒した際に得られる経験値が一定量に達すれば、恭子のステータスが上昇するという伝統的な仕組みを踏襲。プレイヤーが各種能力をカスタマイズできるみたいな機能はないので、敵を倒して稼げば稼ぐほど強くなるだけ。大変分かりやすい。
ある程度、ゲームが進むと一時的な能力アップを図る「スキル」が解禁されるが、その種類もたったの1種。しかも、強化対象は攻撃力ただひとつ。「なるほど。攻めるのがジャスティスか」と即座に察せるほどに分かりやすい。
そんな具合にアクションRPGとしては、「シンプル・イズ・ベスト」に全振りの設計になっている。基本、斧を振り回して力でねじ伏せることに集中すれば、大抵のことは解決する。戦闘で手に入れたお金を費やし、回復アイテムをしこたま溜め込む作戦も活用すれば、絵にかいたような無問題である。実質、勢い任せのコンセプトで貫き通したアクションRPG。それが本作なのだ。
勢い任せに突き進む……と思いきや、ストーリーは妙な世知辛さと闇に満ちていた
例によって、本作の魅力は斧との力でモノを言わせた戦術で乗り越える爽快感……ではない。そこも魅力のひとつとして挙げられるのだが、実はそれ以上の見所がストーリーである。
そもそも、30歳の誕生日を迎えた営業職の女性が異世界でバーサーカーになって世界を救う設定の時点で斬新の極みである。
その設定が物語るかのように、ストーリーのノリそのものはユルくてツッコミどころ満載。そもそも、オープニングにおいて、主人公が来客対応時にお茶ではなくてカレーを出してしまったことを叱責される時点で「あ、そういう……」となってしまうだろう。
そもそも、「どうしてカレーなんだよ」という話だが、古来から「カレーは飲み物」という至言がございまして、主人公の恭子はそれに従っただけなのです。
異世界に転移してからの本番を迎えても、色々とユルい感じの展開が繰り広げられる。ただ、途中からこの手の異世界転移(転生)作品としてはなかなか珍しい、現実世界の状況を交えた展開が描かれるようになる。
実は本作、転移後も現実世界で何が起きているのかがスマートフォンを介して語られるのである。「スマホで!?」となってしまうが、普通に繋がる設定になっているのだ。正直、これもユルさ全開だが、あるタイミングで現実世界側の奇妙な情勢が判明すると同時に、異世界側での冒険に影がかかるようになる。
具体的にその影が何かは見てのお楽しみだが、その辺りからストーリー全体に漂っていたユルさが薄れ、徐々にバーサーカーの意味を思い知らされる事態へと向かっていくのだ。
それもまた、見てのお楽しみということで詳細は伏せるが、きっと「こんなストーリーだったの……?」と強烈な戸惑いを覚えてしまうだろう。同時に笑う気持ちが消え失せるかもしれない。というのも、そこで語られるやり取りが現実にもあり得るもので、妙な生々しさがあるのだ。そこにオープニングで語られる恭子の振る舞いと、異世界に来てからの恭子の活躍を重ねることによって、ひとつのテーマが露わになる。
正直、人によっては気味悪さすら抱いてしまうだろう。そんな思いもしない展開が途中に待ち構えている。そして、以降の結末が気になってノンストップで進めてしまう。そのような興味を加速させる仕掛けが凝らされた内容にまとめられているのだ。
「こんなギャグみたいなタイトルで……?」と思うかもしれないが、やれば分かる。そして、冗談でも「そのための斧」なんて言ってはいけないという気持ちになるだろう。
とは言え、件の出来事が起きてからもちょっと笑ってしまったり、勢い任せすぎるイベントなどは用意されている。また、そこまでストーリーに込められたテーマを深刻に受け止めなければ、斧の圧倒的な力と爽快感に振り切ったアクションRPGとして楽しめる。実際、アクションRPGとしても要素の少なさから手軽に遊べる設計で、難しいことを考えずに楽しめる特色はある。
ただし、ストーリーは人によって異様なまでに心へと深々と刺さる。同時に、その刺さった周辺に闇が広がる恐れがある。そのような粘り気のある“なにか”を本作は秘めていて、ネタに振り切ったゲームとは言い難い仕上がりになっているのだ。
そのため、ストーリーへの関心から今後遊ぶという場合は多少ながら心の準備を。それ以上に斧と金の力を振りたい放題な作りに関心があるなら、そちらに集中して遊ぶのがいいだろう。さすれば身も心もバーサーカーになれるはずだ。
……全然いい意味を含んでいないことだけは言っておく。
狂戦士(バーサーカー)は世界を救う英雄なのか、それとも……
ストーリーについてフォーカスしたが、アクションRPGとしても「シンプル・イズ・ベスト」に振り切ったゲームシステムの遊びやすさと、力押しが正義の難易度が心地よさを提供する仕上がりである。
特に難易度は、中盤辺りからヒット&アウェイを意識した立ち回りも必要となるなど、終始ゴリ押しで行ける訳ではない工夫もあって、遊び応えもきちんと担保されている。回復アイテムをため込む戦術が使えるとは言え、その回復量が意外に少ないことから、枯渇の危険にさらされる可能性を残しているのも上手い調整である。
また、本編は大体2~3時間ほどでクリアできる規模だが、クリア後の高難易度エリアや、特殊な装備を作り出すレシピと素材を集めるやり込み要素も完備。それらのコンプリートを目指そうとすれば、結構長く遊べてしまうのも本作における魅力のひとつになっている。
中でもクリア後の高難易度エリアには、追加のストーリーも用意されている。さりげなく、エンディングで語られない“ある設定”の答えについて言及される部分もあるので、要チェックである。
ほかにグラフィックは一部登場人物のデザインはオリジナルで、一部に大きく表示されるカットもあるなど手が込んでいる。演出に関しても、前述したイベントはそんなグラフィックの特色が最も発揮されている箇所なので必見だ。
タイトルからしてネタに走った作品と思わせながら、実はストーリーに妙な現実味と闇が含まれているという、よくも悪くも意表を突く内容に仕上げられた本作。一部、直前のイベントで起きた状況が反映されていない不可解な描写があったり、特殊装備の作成に必要な素材アイテムのドロップ率が低すぎるなどの粗も見受けられるが、シンプルなアクションRPGとしても、ストーリー重視の作品としても見所のある出来だ。
30歳を機に異世界への転移を果たしたこの主人公は、斧の使い手になって何を経験するのか。そして、斧特有の勢い任せの力は本当に救いをもたらすのか。
少しでも各要素に気になるものがあれば、ぜひとも本編を遊ぶべし。
そして、さまざまな意味を含んだ狂戦士の“強み”を知ろう。
[基本情報]
タイトル:『三十路だけど狂戦士やってます』
作者:プラネット
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:ブラウザ
価格(税込):無料
◇プレイはこちら
・PLiCy
https://plicy.net/GamePlay/183287