これぞ”おどるドッグファイト”。本物の疑似3Dシューティングとしての作りも光る『Missile Dancer 2(ミサイルダンサー2)』

インディーゲーム,シューティング

ミサイルのミサイルによる、ミサイルのためのシューティングゲーム。それが2018年にスマートフォン、PC向けに販売された『MissileDancer(ミサイルダンサー)』(紹介記事だ。2020年にはグラフィックと一部仕様の変更、ローカル協力プレイモードの追加を施したNintendo Switch版も展開された。

そんな『ミサイルダンサー』のオリジナル版配信から6年近くが立つ2024年3月28日。その続編がNintendo Switch、PC(Steam)向けに販売開始となった。

その名もズバリ『Missile Dancer 2(ミサイルダンサー2)』である。

作者も(当然のごとく)前作に引き続きてらりん氏。1980年代開催の全国規模のゲーム大会「ハドソン全国キャラバン」で、競技用タイトルとして選出されたシューティングゲームに影響を受けた作品を数多く手がけてきた個人ゲーム開発者だ。

今回はNintendo Switch、PC版ともに氏のセルフパブリッシングによる展開で、初の2プラットフォーム同時発売となる。

2Dゲーム専用エンジンで作られた、本物の疑似3Dシューティングゲーム!

ゲームの内容も前作と同じ……ではない。一応、ステージクリア型のシューティングゲームであることは共通している。

違うのはスクロール方向。前作は2Dの縦スクロール形式という、シューティングゲームの王道を地で行くものだった。対する今作は3Dの奥スクロール形式。

そう、今回は3Dシューティングゲームに全面刷新されているのである。しかも、3Dは3Dでも疑似3D。自機、敵機、背景、仕掛け、そしてスクロール表現などのすべてが3DCGではなく2Dのドット絵で、それらを拡大・縮小させる形で奥行き感を表現している。

この種の疑似3Dのゲームは、3D技術が発展途上だった1980年代後期から1990年代初期にアーケード、家庭用ゲーム機などで見られた。後の3D技術の発展とともに、疑似3Dのゲームは数を減らしていき、令和の時代では稀少な存在となっている。そもそも、3D技術は今やインディーゲーム界隈でも用いられるほど浸透し、成熟しきっている。3Dのゲームなら、3Dの技術を用いて作るのが定説となっているほどだ。

そんな時代に今作は疑似3Dの手法を採用!それも前作のほか、てらりん氏の過去作と同じ2Dゲーム専用エンジン「GameMaker Studio 2」を用いて作られている。なので、内部処理もまごうことなき2Dであり、正真正銘の疑似3Dとなっている。

この設計上の特徴だけでも、今作の価値の大きさと珍しさは語るまでもないだろう。すべてにおいて本物なのだ。同時に令和ならでは手法を用いて作られた、”現代の疑似3Dゲーム”とも言える作品になっている。

ジャンルの全面刷新に伴い、システム周りも大幅に変更。特に大きいのは主装備の「ミサイル」。前作は対応するボタンを押しっぱなしにして自機周囲に円状のロックオンレーダーを展開し、敵を補足してからボタンを離すと発射される仕組みだった。

今作は自機と連動して動く「ロックオンカーソル」で敵をロックオンし、ミサイルを発射するボタンを押せばターゲットめがけて放たれる、スタンダードなロックオン形式に変更された。そのため、ロックオンレーダーの展開自体も廃止されている。

敵ミサイルを撃ち落とす役割に特化していた副装備「バルカン砲」の仕組みも変更。ミサイルのみならず、敵機、ボスにもダメージを与えられる真っ当な武器に改められた。並行して装備の名称も「ショット」に改められている。

ただし、ダメージを与えられるのは近距離の敵などに限定。自機から遠く離れた敵などにはダメージを与えられず、そちらはミサイルで対応する形になる。つまるところ、今回はミサイルとショットを併用するのが基本戦術になっているのだ。そのため、メインはミサイル、その補助にバルカン砲という前作とは若干異なる立ち回りが全編で求められてくる。

また、前作は敵の攻撃すべてがミサイルという徹底ぶりだったが、今作ではミサイル以外の攻撃も繰り出してくるようになった

ショットでは撃ち落とせないため、ちゃんと自機を操縦して避けなくてはならない。これに関連して、速やかな回避を実施するアクション「ローリング」も追加されている。

さらにステージ内に現れるアイテムを獲得することで、異なるミサイルを撃てるようにもなった。ミサイルは全3種類で、多数の敵をロックオンできる「マルチミサイル」、敵に大きなダメージを与える「ナパームミサイル」、ロックオン後に速やかに発射する「スピアミサイル」を用意。これらの追加により、今回は状況に応じてミサイルを持ち替えて対処する戦術性も生まれている。(特にボス戦において顕著)

ほかに今回はダメージ制も採用されており、最大3回までの被弾が許されるようになった。

ゲームモードも「アーケード」「キャラバン」という、てらりん氏の作品お馴染みのラインナップだが、前者のステージ数は16と大幅に増量。ただ、Nintendo Switch版を除く前作同様、クリア済みステージをスキップしての再開が可能なステージセレクト機能を搭載しているので、エンディングを目指すだけなら通しプレイは必要とされない設計だ。

ジャンルの全面刷新、疑似3Dの採用の時点でインパクト絶大だが、実はゲーム部分も色んな所が前作から変更。そのため、続編というよりはほとんど完全新作に等しい内容で、前作未経験者に限らず、経験者も新鮮な気持ちで遊べる作品になっている。

もはや完全新作そのもの。そして、ドッグファイトでは”ダンサー感”が倍増!?

今作の魅力は既に語った通りである。3D技術が成熟・浸透した時代に作られた、本物の疑似3Dシューティングゲーム新作としての価値の大きさだ。

そんな訳で、疑似3Dという特徴からして興味津々のそこのアナタ。すぐにでも遊ぼう。前作の経験?要りませぬ。ほとんど別物だから、今作からでも全然大丈夫だ。そもそもストーリーだって繋がっていない。(ストーリー自体はおまけである)

遊ぶ過程で前作がどんなものなのか気になったら、後でさかのぼってみるといいだろう。ちなみに前作も前作で、大変個性的なシューティングゲームに仕上がっている。詳しくは当もぐらゲームスの前作について紹介&レビューした記事を参照いただければと思う。

続編として見ても、前作の経験がまるで通用しないのがインパクト抜群。そもそもゲームコンセプトにシステムからして違うので当然のことなのだが、前作の印象が強いほど、「こんなに変えちゃうのってアリか!?」と戸惑うこと必至。同時に常に新しい展開が繰り広げられるからこそ刺激も非常に強く、色んな意味で記憶に刻み込まれるだろう。

純粋な疑似3Dシューティングの新作として見た魅力は、ハイテンポでスピーディな遊び心地だ。元々、てらりん氏が手がけたシューティングゲームは、1ステージ当たりの規模を小さくする分、密度を濃くしてテンポを重視するという思想が強く現れた作りが持ち味になっている。今作でもそれは健在で、どこのステージもハイテンポで展開されつつ、プレイヤーを退屈させない工夫が凝らされた構成でまとめられている。

特にステージの数が16と多めでありながら、そのテンポ感を維持しているのが素晴らしい。一部、敵にボス、仕掛けが使い回されたものも散見されるのだが、それも出現パターンや攻撃の規模を変えるなりして、単調さを抑え込んでいる。

なにより、そうした似通ったステージが出てくる展開がよくも悪くも昔の疑似3Dシューティングゲームっぽい。直撃世代なら、その流れにはニヤリとしてしまうだろう。逆に言えば、世代でない人は気になりやすいことを意味するが、長丁場のステージは基本存在せず、同じステージが連続することもない。全体的に適度な塩梅で構成されていることから、むしろバランスよくまとまっているとの印象が勝ってしまうはずだ。

単調さの防止に関しては、難易度も一役買っている。「ノーマル」「ハード」「エキスパート」の3段階から選べるのだが、今回は最も簡単な「ノーマル」でも”ちょっぴり”手ごわい。全体的に敵の攻撃が早く、疑似3D特有の距離感を掴むことも試されてくるためだ。特に初見時はその感覚に慣れていないことから、ゲームオーバーを何度か繰り返すことになるだろう。ダメージ制ゆえ、そう簡単に撃墜される心配はないだろうと思うかもしれないが、慣れない初見時はやられやすい。しかも、受けたダメージは次のステージで回復せず、持ち越しになる仕様なので、なるべく被弾を抑えることが求められてくる。

ただ、おかげでどのステージでも緊張感が維持される。また、基本的にミサイル以外の敵の攻撃は、自機を大きく動かすことで避けられるタイプが多いので、そのクセをつかめば被弾の頻度は結構減る。「ローリング」の活用、「ショット」による近距離の敵、ミサイルへの対処もできるようになれば尚更だ。そんな上達がきちんと現れるので、やればやるほど動きが洗練されてくる。手ごわくも、慣れてくるとスムーズに立ち回れるようになるバランスに調整されているのだ。

なにより、上達と共に踊るような動きになっていくのが、これぞ『ミサイルダンサー』な感じで面白い。前作も前作で、ミサイルを踊るような流れで撃っていく”ダンサー感”はあったが、今回は自機そのものが踊る”ダンサー感”と、対照的になっているのがユニーク。むしろ、前作以上に『ミサイルダンサー』の名が輝いていると感じてしまうほどだ。時と場合によっては、プレイヤーも自機と一緒に踊ることになったりするので尚更である。

そんな”おどるドッグファイト”を引き立てる3Dスクロールも、秒間60フレームを維持しているだけあって非常に滑らか。一部、レースゲームばりのスピード感で展開されるステージもあり、人によっては某反重力のハイスピードゲームが脳裏をよぎるかもしれない。筆者はそっちではなく、某雇われ遊撃隊が活躍する3Dシューティングゲーム第1作の最終ステージレベル2が脳裏を過ぎったりしたが。(妙に細かいのは気にしないでいただきたい)

他にも距離に応じてショット、ミサイルを使い分ける戦術面も単純ながら心が熱くなる面白さがある。敵やステージも、その面白さを引き立てる工夫(攻撃、仕掛けの投入)などが凝らされていて、時々、踊るような動きを誘発してくるのもユニークだ。

ミサイルという題材にこだわり尽くしていた前作を踏まえると、ゲームデザインとバランス周りの個性はやや薄まった側面もある。しかし、今回は今回で別方向で”ダンサー”としての遊び心地や気持ちよさを突き詰めており、独自の魅力を持った作品へと昇華させている。

特に難易度とテンポ感の塩梅は絶妙で、やればやるほど、神経を注いで調整・設計されていることが伝わってくる。疑似3Dならではの攻略が試されたり、それっぽさ溢れる演出が適時挿入されるのにもこだわりが感じられ、令和の疑似3Dシューティングゲーム新作としての意地を思い知らされるはずだ。

今回はミサイルのみならず、自機と一緒になって踊れ!

グラフィックも敵のミサイル、通常攻撃などをハッキリ見分けられる視認性の良さが光る。トンネルなど、一部背景がチカチカする場面もあるのだが、色遣いはそこまで激しくないので、負担は感じにくい。

音楽もスピード感のある本編にマッチしたノリのいい楽曲が揃っている。一部、露骨に某”バーナー”のゲームをオマージュしたと思しき楽曲があるのにも注目である。

他に3分の制限時間内でハイスコアを目指す「キャラバンモード」も、今回は一風変わった面白さと新しさがある。そもそも、3Dシューティングゲームでの「キャラバンモード」という組み合わせ自体が非常に珍しい。

それも遠近の距離を踏まえて敵を迎え撃ったり、仕掛けを潜り抜けてボーナススコアを獲得していく、3Dならではの展開が繰り広げられるのだ。それがまさにありそうでなかった面白さで、強く印象に残るものになっている。ある意味、令和で疑似3Dという特徴と肩を並べる見所になっているので、これも興味を抱いたのならお試しいただきたい。「意外にアリだな」と、遊べば遊ぶほどに納得感を覚えるだろう。

以上のように意欲的な作品に仕上がっているが、一方で疑似3D特有の宿命も一部、背負ってしまっている。それは何かと言うと距離感だ。

特に敵弾、アイテムは自機に接触するまでの感覚(間隔)がやや短く、3Dのゲームに慣れているほど「接触判定が早すぎでは?」と感じやすい。実際は画面左上の自機と敵弾の距離を平面で表したレーダーの通り早いのだが、メイン画面側の視点からだと、主に接近時に遅くなっているかのようなズレを感じやすい。この辺は本当に疑似3Dならではの難しさと言えるのだが、できることなら、弾速と接触判定はもう少し遅く(緩く)しても良かったように思えた。

そもそも、レーダーに関してはチュートリアルで一切解説されていないのが疑問。敵弾の位置関係や速度を把握できる機能で、これを知っているか否かで回避行動にも差が生まれやすいため、説明は入れておく意義があったように思える。
同じことは自機ダメージの持ち越しも同じで、前述の接触判定の早さを踏まえると、持ち越しなしの方がバランス的にも安定感が増したのではないかと思う。(しかし、これのおかげで緊張感を持って遊べるというメリットもある)

オプションで設定できる「オートニュートラル」(大きく動いても、自機が必ず画面中央に戻るようになる)機能も、ONだと一部ステージに設けられたゲート通過の際、意図しない接触ダメージを招きやすくなるのも気になるところだ。

距離感については今後、アップデートが入る可能性もあり得るが、基本的には弾道から外れるように大きく動けば被弾はかなり抑え込める。なので、これからプレイするに当たっては、敵弾は大きく動いて避ける、ローリングも積極的に使うの2つを意識することを強くおススメするところだ。

そのような粗が惜しくもあるが、完成度は申し分ない。本物の疑似3D表現、スピーディでテンポがよくて遊び応えもある全16ステージ、ジャンル的にも珍しい遊び心地の「キャラバンモード」が異彩を放つ作品に仕上がっている。『ミサイルダンサー』の続編としても別物感の凄さは言うまでもなく、やり込めばやり込むほど”ダンサーな動き”をするようになっていくバランス調整が光る内容である。

本物の疑似3Dという特徴に惹かれた人はもちろん、当時発売されたそれらのシューティングゲームを楽しんだ人にも強くおススメできる意欲作。前作とは別物ながら、疑似3Dで描かれる”おどるドッグファイト”に身を投じてみよう。さあ、自機とミサイルと共に舞え!

[基本情報]
タイトル:『Missile Dancer 2(ミサイルダンサー2)』
開発:TERARIN GAMES
クリア時間:1~2時間
対応プラットフォーム:Nintendo Switch、Windows
価格(税込):1,700円

◇購入はこちら
・PC(Steam)

・Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000072395.html

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence