これが過剰にハードでスプラッタで、蛾に萌えちゃう(!?)忍者アクションゲーム『Mute Crimzon DX』である

アクション,インディーゲーム

上のスクリーンショットにデカデカと映るこの者は「忍者」(NINJA)。
本稿で紹介する『Mute Crimzon DX』の主人公である。

おそらくだが、ゲームに精通されている方々は思ったはずである。
この者、忍者ではなくて、爆弾の使い手たる「あの者」じゃないのか、と。

それに対する答えはシンプルだ。忍者である。誰がどう思うが、事実揺るぎなき忍者。道着をまとい、カタナで戦う忍者だ。爆弾なんぞ持っておらぬ。そういうことなので、これ以上はなにも考えてはいけない。ちなみに手裏剣も持っていない。あしからず。

なお、先んじてお伝えしておくと、本作は18歳以上対象のタイトルだ。
実際はいささか仰々しいレーティングでもあるのだが、詳しくはのちほど。

2015年発売のオリジナル版に多数の追加要素と、便利機能を実装したデラックス版

本作『Mute Crimzon DX』は、2024年8月17日よりPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で販売中の横スクロールアクションゲームだ。Steam以外では、家庭用ゲーム機版としてXbox One、Xbox Series X|S版がMicrosoft Storeで販売されている。また、海外ではNintendo Switch版も販売中だが、本稿執筆時点で日本では未発売。

開発は『CometStriker DX』(紹介記事)と同じIced Lizard Games。元は『Mute Crimzon』(Mute Crimzon+)という、2015年にSteamで発売されたタイトルで、Iced Lizard Gamesのデビュー作でもある。

本作はそんな『Mute Crimzon』に新要素の追加と、グラフィックや演出全般の強化、ゲームバランスの刷新を図った文字通りのデラックス版となっている。コンセプト的にはIced Lizard Games開発の『CometStriker DX』と同じ感じだ。

前置きが長くなったが、ゲームの内容は前述した通り、横スクロールのアクションゲーム。種類としてはステージクリア型で、主人公の忍者を操作し、複数のエリアが地続きで構成された「レベル(LEVEL)」の攻略に挑むというものだ。

レベル1を例に具体的な流れを紹介すれば、「1-1」「1-2」「1-3」の順序でエリアを進んでいく感じである。エリアのクリア条件は単純明快で、出口に到達するだけ。そして、各レベルの最後はボス戦になっていて、倒すとレベルクリア。次のレベルが始まり、同じ流れが繰り返される形だ。まさにステージクリア型としては伝統的な構成を踏襲している。

プレイヤーが動かす忍者のアクションも、絵に描いたような正統派。移動にジャンプ、カタナによる斬撃、壁への張りつきとよじ登り、うんていをつかんでの移動、そしてダブルジャンプ(二段ジャンプ)だ。

そして、手裏剣は投げられない。そもそも、持っていない。「忍者でありながらなにごとだ!」と言っても、持っていないのだから仕方がない。そのため、道中に現れる雑魚敵、レベル最後に現れるボスにはカタナによる斬撃、近接攻撃で立ち向かう感じだ。

▲爆散!(そして、もの凄い血しぶき)

また、雑魚敵やボスの攻撃を受ける、あるいは当人やトラップに接触すれば、忍者は大量の血をまき散らしながら爆散する。言い方を変えれば、即アウトだ。「ひでぶ」とも言う。本作は体力制を採用しておらず、どのエリアも(レベルも)ノーミスによる突破が要求される。いわゆる精密系とも称されるアクションゲームのルールを採用しているのだ。

それにちなんで残機、ゲームオーバーの概念もなく、無限にリトライし放題。ただ、再開地点となるチェックポイントの数は少なめで、エリアによっては大きく巻き戻される。その辺のシビアさは本作特有で、心して挑むことが必要となる辛口仕様になっている。

ただし、デラックス版では新たに「リワインドモード」なる難易度が追加。その名の通り、「巻き戻し機能」が使える難易度で、ミスした時に(Xboxコントローラ仕様時)LTボタンを長押しすると、時間が直前にまで戻されていき、ボタンを離せばその時点からやり直すことができる。戻せる時間には制限こそあるが、これによってある程度ながら、大らかな遊び方も容認された作りになっている。もちろん、このモードでも最終レベルおよびエンディングを迎えることは可能だ。

そのような難易度が設けられたのもあって、オリジナル版『Mute Crimzon』以上に遊びやすい作りとなっている。デラックス版の要素を除いた場合だと、アクションゲームとしてはシステム的に大きな個性はない。まさに正統派を突き詰めた感じの作品な訳だが、そんな本作の魅力はなんなのかと言われれば、全編から炸裂するハードでスプラッタ、そしてコミカルで萌えな作風だ。

「忍者だから和の世界?」「違います」「じゃあ、SF?」「それも違うんです……」

ハードでスプラッタに関しては、前述したチェックポイント少なめで大きく巻き戻される危険を意識して挑む難易度や、仰々しいにも程がある血しぶき表現がそれを物語っている。

では、コミカルと萌えはいったいどこを指しているのか……?キャラクターである。実はこんなに難易度がハードで、血しぶきもブシャブシャ飛び散る内容でありながら、キャラクターが妙に可愛らしくデザインされているのだ

(ツッコミどころ満載だが)忍者の容姿に限らず、レベルの最後に現れるボスたちも、妙に可愛らしい。なのに、皆が皆、血しぶきを仰々しいほどにまき散らして爆散する様を見せる。

それがなんとも異様な雰囲気を醸し出していて、強い印象を残すのだ。中でも本作において、飛び抜けてカワイイ存在がレベル2のボスとして登場する「MOTH」……である。

どんな容姿をしているかは、上のスクリーンショットの通りだ。人によってはキュンとしてしまう可能性もあるのだが、どうだろうか。こんなキャラクターもボスとして現れ、忍者との死闘を演じるのだ。どんな世界観やねん、と思ったかもしれない。

そもそも本作、忍者が主人公のゲームだが、世界観は和でもなければ、SFでもない。強いて言うなら“ゴチャ混ぜ”。まさになんでもありな世界がレベルごとに登場しては、プレイヤーに試練と戸惑いを与えつつ、驚愕(?)のストーリーを紡いでいくのだ。

▲本作は日本語未対応だが、スチルを見ているだけでもストーリーのムチャクチャさは分かる

一体、どんな展開が描かれるのかは体験してのお楽しみだ。きっと困惑するだろう。そして、おそらくは蛾に恋してしまうかもしれない。「なんのこっちゃ!?」だが、ワリと真面目に蛾が可愛いのだ。どういうことか、それもまた体験してのお楽しみだ。前代未聞の“蛾に萌える”体験をしてしまうだろう、たぶん。

ごちゃ混ぜなストーリーは、レベルごとのロケーションにも色濃く反映されている。とにかく「なんじゃここ!?」となってしまう場所が続々登場しては、プレイヤーに試練を課してくる。レベル内のエリアに設けられた仕掛けも豊富。なんと時々、プレイヤーのコントロールを奪う反則まがいなものもあったりして、退屈する暇がない。

レベル最後に対峙するボスも個性的で、後半になるとエリア内移動も挟んだ入り組んだ展開が繰り広げられる。そして、このような展開になろうとも、攻撃を受けたり、トラップに接触したりすれば問答無用でミス。まさに冷や汗モノで激辛なスリルを堪能できる。

ただ、リワインドモードであれば、そうしたスリルも大幅に緩和できる。このモードへの切り替えはプレイ中、いつでも可能なので、辛いと感じた時は迷わず使うことをオススメしたい。

正直、このモードを使ったとしても、本作は手ごわい。むしろリワインド無しのノーマルモードは、アクションゲーム好きすら心が折れかねないほどだ。

その意味でも、デラックス版はオリジナル版からより一層、遊びやすいゲームになっている。同時に、前述した世界観が醸し出す魅力も気軽に味わえるだろう。

ただ、手ごわいとは言え、調整そのものは理不尽さを極力取り除いている。敵の攻撃、仕掛けの動きにはいずれも予備動作があるので、不意打ちには遭いにくい。

序盤から中盤に限れば、厳密な操作と判断が試される場面も少なく、ある程度ながら“あそび”が効く。そして、忍者のアクション全般の挙動もキビキビしており、動かしていてストレスを感じることは皆無だ。

当たり判定がやや大きいのと、ジャンプの挙動が妙にカクカクとしているため、微細な接触とタイミングの誤りでミスに繋がりやすいのはストレスを感じやすいが。

レベルに関しても、後半になるとチェックポイントなしの場面が増え、精密系アクションゲーム全開なシビアな展開続きになるのも賛否が分かれるところだ。いずれもリワインドモードでフォローできるが。

そんなデラックス版の追加要素に助けられている側面もあるが、ハチャメチャ続きのレベルごとの展開、冷や汗モノのボス戦、そして軽快な手触りの忍者のアクションは、一度体験すれば強く印象に残る仕上がり。飛び抜けて斬新な要素はないが、その分、定番の良さを追求した出来栄えには安心感を抱くだろう。実際は安心どころか試練と挑戦と地獄がノンストップなのだが、そんなジャンルのツボを丁寧に押さえた仕上がりとなっている。

忍者の容姿が気になるかもしれないけど、手加減無用の辛口スタイルが異彩を放つアクションゲームでございます

ここまでのスクリーンショットからも分かるように、グラフィックも個性的。白と黒、そして赤で統一された独特な作風になっている。

レベルクリアのたびに挿入されるイベントデモもスチル(1枚絵)の数が豊富に加え、キャラクターがデカデカと描かれることもあってなかなかに迫力がある。とりわけ主人公の忍者は、頻繁にアップで表示されることもあって嫌でも忘れられなくなってしまうだろう。

そして、プレイヤーによってはこんな疑念が渦巻くことになるかもしれない。「お前、やっぱり爆弾の使い手じゃ?」と。繰り返しになるが、忍者だぞ。爆弾は持っていないぞ。

音楽もチップチューン全開な楽曲が揃っており、各レベルごとの展開を盛り上げる。効果音、演出周りもアクションゲームとしての手触りの良さと迫力を引き立てる工夫が図られた仕上がりだ。後者に関しては、それにしたって血が飛び散り過ぎだろうと、言いたくなるかもしれないが。

ちなみに18歳以上対象の本作だが、あくまでも敵を倒した時に過剰な血しぶきが飛び散るぐらいで、臓器が飛び散るみたいな過激な表現は一切ない(真っ二つはある)。

血しぶき自体も爆発エフェクトとほぼ同等なので、(個人差はあれど)そんなに残酷さは感じさせないだろう。それもあって、18歳以上対象はちょっと仰々しくないかとも思うのだが……やはり、血の量がいけなかったのか。

ほかに本作はレベルが9つ、エリアも90近くとボリュームも大きい。エリアごとに配置された「コイン」を集める収集要素、それに応じて解禁される「アーケードモード」を始めとした高難易度モードもあり、やり込もうとすればかなり長く遊べる作りだ。

細かいところで挙動にクセはあれど、操作全般は非常に良好。ボタン配置も適切で、動かすだけでも楽しい手触りになっている。

若干、バランス調整で疑問の残る箇所もあるが、アクションゲームとしての手触りと遊び応えは上々。システム的な個性は皆無ながら、ごちゃ混ぜな世界観とビジュアルで攻めた(色んな意味で)辛口な作品に仕上げられている。「リワインドモード」でも結構手ごわいことから、アクションゲームが極端に苦手な人へは薦めにくいが、それ以外の人ならぜひ挑戦してみて欲しい1本。誰かにそっくりな忍者となり、ハチャメチャな試練の数々に挑もう。

そして、前代未聞すぎる、蛾に萌える体験をしてみよう……?

[基本情報]
タイトル:『Mute Crimson DX』
開発:Iced Lizard Games
クリア時間:4~6時間
対応プラットフォーム:Windows、Xbox One、Xbox Series X|S
価格(税込):1,700円(Steam)、1,750円(Xbox)
IARCレーティング:18歳以上対象(過激な出血表現あり)

◇購入はこちら
・Steam

・Microsoft Store
https://www.xbox.com/ja-jp/games/store/mute-crimson-dx/9PM4DX0M36JT

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