視聴者の欲求を満たすべく、理不尽の洗礼を浴びろ。誰もがクリアできる闇深きアクションゲーム『ワンミニッツチャレンジャー』
芸人による身体を張ったチャレンジ、大規模な仕掛けを施して対象を驚かせるドッキリ、軽妙な掛け合いを醍醐味とするコント。かつてのバラエティ番組は、見る者に笑いと刺激を提供するものが多かったが、時代と価値観の変化と同時にそのようなネタを展開することが困難を極めるようになり、次第にトーンを落ち着かせた内容のものが増えていった。
だがもし、更なる刺激が求められる時代になっていたら…?
そんな未来の世界で誕生した、一つのバラエティ番組を追体験できるフリーゲームが今回紹介する『ワンミニッツチャレンジャー』である。2018年8月31日より、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」でリリースされた。制作にはRPGの制作ツールとして知られる「WOLF RPG Editor」が用いられている。
舞台となるのは不思議とファンタジーに満ち溢れた架空の未来。人々の快楽に対する欲求は上昇の一途を辿っていた。そんな彼らの心を満たすべく『ワンミニッツチャレンジャー』なる番組が企画され、一人の挑戦者が招集された……というのが大まかなあらすじだ。
60秒以内に10個の理不尽なミッションを制覇せよ!
ゲームジャンルとしてはアクションゲームに該当する。プレイヤーは『ワンミニッツチャレンジャー』なるバラエティ番組に何故か出演することになってしまった挑戦者となり、「ミスター・デスマッチ」なる番組のMCによる進行の下、全部で10個のミッションに挑戦するというものである。最終目標は10個のミッションの制覇となる。
操作に用いるのは(キーボード操作の場合)方向キーとZキーの二つだけ。これで見下ろし視点で構成されたマップ上を移動し、行く手を阻む穴を飛び越えたり、仕掛けを潜り抜けながらミッション達成を目指していく。
穴に落ちたり、マップ上を徘徊するキュートな猫ちゃんに襲撃されるとミス。しかし、ゲームオーバーにはならず、ミッションのスタート、或いは中間に当たる「リスポーン地点」へと戻されて復活。基本、何度同じようにやられようが、必ずリスポーン地点へと戻される仕組みになっている。
ゲームオーバーの条件は時間切れ。タイトルの通り、本作で挑戦するミッションの制限時間はワンミニッツこと1分。その時間が来てしまうとゲームオーバーになり、最初からやり直しになってしまうのだ。
そのため、どのミッションにおいても迅速且つ、的確な行動が要求されてくる。だが、ミッションはいずれもクセモノ揃いだ。
基本、アクションゲームという事で、どのミッションもゴールへの到達を目指すことになるが、穴を飛び越え、猫ちゃんを回避してゴールを目指すものばかりにあらず。むしろ、そのようなミッションはごく僅かで、他は無茶苦茶なもの揃いだ。
フィールド上に仕掛けられたスイッチの全解除を目指す。
ゴールへの道を開く為に謎を解く。
暗闇の中を進む。
そして、毒を盛った犯人を探し出す。
いずれもアクションゲームの範疇に捉われない個性的なもの揃いとなっている。更に言うなら、本作のゲームバランスは理不尽気味。初見クリアは無理と言ってもよいほど、意地悪で罠満載の難易度になっている。
スタンダードなゴールを目指すミッションも意外に難しい。先述の通り、本作はRPG用のツールを用いて制作されている。そのため、タイミングの計算が一般的なアクションゲームとは全く違う。キャラクターが次に動くという一歩先を見据えながら行動しなければ、奈落一直線か、猫ちゃんに首を掻っ切られて地獄行きとなるのだ。
▲ジャンプ操作も基本、穴の近くに来たらZキーを押せば向いている方向を問わずジャンプしてくれるが、初めて間もない頃は方向転換操作をして奈落行きとなりがち。
それもあって、結構な頻度でやられまくる。それも、プレイヤーが納得のいかない形でミスに繋がることばかりなので、非常にストレスが溜まる。プレイするのに変則的なコツが要求されるバランスなのだ。
こんな内容であることからして、大変なゲームであるというのは想像に難くないだろう。そして、クリアすること自体が至難の業なゲームだと思うだろう。
しかしながら、本作は誰もがクリアできる難易度になっている。
大事なことなので、もう一度言おう。
誰でもクリアでき、エンディングを迎えられる難易度になっている。
実は誰でもクリアできる難易度。そして、その裏に潜む闇。
何故、そんなことができるのかと言うと、10回ゲームオーバーになると自動的にクリアしたことになる。要は無理してミッションのクリアを目指さなくても進められる救済機能が備え付けられているのだ。しかも、この救済機能を用いてクリアしたとしても、エンディングが見れない、特定のミッションが遊べないなどのペナルティなし。サービス旺盛な仕様になっているのだ。
それはゲームとして破綻しているのでは、と思うかもしれないが、本作は視聴者に刺激を与え続けることを目的としたバラエティ番組が舞台の作品。やられてゲームオーバーになることが番組を面白くするための演出との設定になっているので、逆にそれ自体が望まれているのだ。もちろん、真面目にクリアすることに取り組み、達成することも番組の盛り上がりに貢献するが、実際のバラエティ番組、特にチャレンジをテーマにした内容なら、失敗して挑戦者が面白おかしい目に遭うことが最大の笑い所。ゆえに失敗を重ね続けることが理想的で、基本でもあるプレイスタイルとなるのだ。
このような設定と救済措置が凝らされているのもあり、理不尽気味な難易度が問題点として機能していないのが本作の面白い所。更にちゃんと10個のミッションはクリア可能。ただし、謎解きを題材にしたミッションはかなりの高難易度。「そんなの気づくか!」と物申したくなる、意地悪の極致とも言えるものになっている。場合によっては、長時間行き詰まることも起こり得るほどだ。そして、あえてそんな難易度にしていることからも、視聴者に刺激を与える目的で作られたバラエティ番組としての意義が込められている。
そんな10個のミッションを全て終えると、何が起こるのか。ネタバレしてしまえば、番組が放送終了となる。「また来週!」である。しかしながら、こんなにも挑戦者を苦しめることに終始した内容だけに、想像の斜め上をいく展開が待っている。
そして、エンディングを迎えると、一つのエリアが解禁される。
そこでは本作の舞台裏を明かした”あるもの”が置かれているのだが、率直に言って、確認したその時にゾッとするものを感じるだろう。
▲何かが解禁される…。(※ネタバレになるため、伏せています)
同時に本作がアクションゲームの姿を借りた別の”なにか”であることも分かる。
それが何であるのかは、エンディングまで辿り着いてから確認してみて頂きたい。ゲームに慣れ親しんだプレイヤーなら、ゲーム配信プラットフォーム「Steam」で配信中のとある有名なパズルゲームが脳裏を過ぎるかもしれない。
どんな人でもクリアできる怪作アクションゲーム現る。
随所で炸裂するブラックな雰囲気も本作の特色。特に番組のMCで進行役の「ミスター・デスマッチ」は見た目からしてうさん臭さ全開。台詞回しも番組のヤバさを実感させる存在感を放っている。更に本作はステージセレクトシステムが導入されており、全10個のミッションはゲームスタート時からプレイヤーの好きなところから始めることができる。
だが、そのステージセレクト画面では妙なキャラクターが沢山動き回っていて、怪しい雰囲気を引き立てている。ミッションごとに用意された解説文もうさん臭さに満ちていて、この作品(番組)のヤバさが伝わってくる。
他にミスする度に派手な出血エフェクトが表示されたり、クリアした際にはチャレンジ系のバラエティ番組らしい(いい意味で)古臭いエフェクトが差し込まれるなど、演出面も番組全体の怪しさを表現している。
率直に言って、プレイしていて楽しい気持ちになれるゲームではない。やられ続けることにも意義がある内容なので、達成感や爽快感は希薄だ。また、そう言った特徴とは別にシステム周りでポーズができない、リスタートができないという不便さを感じさせる難点もある。
しかしながら、”ブラック”であることにこだわり尽くした設定と怪しげな雰囲気、クリア後に判明する舞台裏など、本作でしか味わえない刺激が詰まった作品に完成されている。
まさに怪作というに相応しい一本だ。視聴者の欲求を満たすべく、ブラックな仕掛けに翻弄されながらエンディングを目指そう。
大丈夫、誰でもクリアできます!私もできました!試したことはありませんけど、筆者の親でもクリアできちゃうゲームです!さあ、レッツ・ワンミニッツ!
[基本情報]
タイトル: 『ワンミニッツチャレンジャー』
制作者:HMKEY14代目
クリア時間: 1~2時間
難易度:初~上級者向け
対応OS: PC(Windows)
備考:暴力・出血表現あり(※推奨年齢:15歳以上)
価格: 無料
ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/18392