行きて帰らぬ物語―いやプレイヤー的な意味で。 SilverSecond『片道勇者』レビュー
1、旅立つ前の、前置き
片道勇者(かたみちゆうしゃ)は、SmokingWOLFが制作した横スクロールローグRPGである。2012年9月6日に初版リリース。フリーウェアで制作ツールはWOLF RPGエディター。
――Wikipedia『片道勇者』より
『片道勇者』についてぎゅっと圧縮した文章はとりあえず上記のようになる。もうちょっとだけ詳細に書いておくと、SmokingWOLF氏によって制作された「強制スクロール」と「ローグライクRPG」を融合させたゲームだ。上述の引用にもある通り、Wikipediaにこのゲーム(と制作者自身の!)記事ができるほどの人気もあり、ファンからは熱烈に愛されている。開発ツールはSmokingWOLF氏自作のWOLF RPGエディターだ(一般公開もされている)。本作品は2012年の初秋にリリースされ、2014年3月にはSteamで英語対応版の販売が開始された。そして現在はさらなる海外展開も視野に入れつつ、機能・要素を追加したアペンド版である『片道勇者+』の開発が進行中だ。
概要はこのあたりにして、早速ゲームの内容へと切り込んでゆくとしよう。
2、ゲーム紹介――強制スクロール+ローグライク+世界の終わり
↑左端に見えるのが「闇」。プレイヤーは右へ右へとひたすら進む
上掲のスクリーンショットはゲーム開始から数分後のプレー画面だ。左端は強制スクロールの終端「闇」であり、これに呑み込まれると問答無用でゲームオーバーとなる。それに対しプレイヤーの進行方向は右で、基本的にはひたすら「闇」から逃げながら雪原や砂漠、山岳地帯やダンジョンを突破してゆくことになる。またゲームの進行はタイトル通り「片道」であり、一度「闇」に呑まれた地形やNPCは塵も残さず消滅してしまう。
ゲームの進行はローグライクRPGの「自分が動く→相手が動く→自分が動く→……」というターン制を採用しており、悩むような状況ではいったん立ち止まって思案することも可能だ。もちろん「闇」もそのターン制にのっとって迫ってくる。「闇」の侵攻ペースが急に加速するようなことはないが、もたもたしているうちに離れた場所にあるダンジョンや町が消滅してしまい、アイテムやNPCが……ということは多々ある。
というわけで、あなたが世界を救わない限り、町も山もNPCも世界も丸ごと「闇」に呑まれ、消える。そんな中プレイヤーは戦いを挑んでくる魔王を倒し世界に平和をもたらすもよし、まだ見ぬ仲間やアイテムを求め先へ進むもよし、ひたすら右へ右へ進んで世界の果てを目指すもよし、とプレースタイルは多様だ――ただひとつ、「闇」から逃げることだけを除いて。
3、強制スクロールとターン制――世界の果てのダイナミクス
さて、先述した通り、『片道勇者』の根幹を成すシステムは横スクロールゲームとローグライクRPG(『シレン』や『トルネコ』)の要素だ。前者は「画面の左側から迫る闇」、後者の要素は「ターン制」に代表される。
ではこの二つが組み合わさった時に何が起こるのか? さっくり言ってしまえば、「極度の緊張感」と「それを切り抜ける快感」だ。例えば「闇」と強力なモンスターに挟まれたとき。この瞬間は『片道勇者』最大のヤマと言ってもいい。その緊張感と切迫感たるや、従来のローグライクRPGの与えてくれるそれの比ではない。敵の強さがどうこうではなく「闇」に呑まれた瞬間ゲームオーバーなのだ。そして『片道勇者』には復活の草も持ちかえりの巻物もない。
そんな時プレイヤーは、連続行動できるスキル「覚醒」を使って切り抜けるか、しかしそれは回数制限があるので普通に突破するか、でも間に合うか分からないし……と考える時間は自由だが、いざ動かせば「闇」が迫ってくるというギリギリ感を味わうことが(本当は避けたいのだけれど)できる。
実は『片道勇者』では、基本的に強制スクロールがそれほど気にならないようになっている。画面の右端とプレイヤーキャラクターの間は常に数マス空いているため、強制スクロールにありがちな「進行方向の画面端に立ってたらいつの間にか敵に接触して死んでた」という事故が起きにくい。しかも左端から来る「闇」の速度は一定なので、右へ右へとガンガン進んでいるだけなら「闇」がプレイヤーに追いつくことはない。それゆえに、上記のような「右へ進むのに手痛いコストを支払うことになるかもしれない……いや闇に呑まれるより先に死ぬじゃんこれどうすんの!?」という状況では何倍もの緊張感が生まれるわけだ。
そして皆さんご存じの通り、困難な状況を上手く突破できた時は本当に気持ちいい。
4、世界観とシステムの融合――行きて帰らぬ物語
もちろん、『片道勇者』の魅力はシステムの組み合わせによって生まれた緊張感だけではない。その世界観やキャラクターにも、プレイヤーを惹きつける要素は多分にある。
例えば、大きな町やフィールドで仲間にできるキャラクターは十人十色の個性を持っており、行動パターンや戦闘時のアクション、そして好感度の上昇方法にキャラクターの設定が反映されている。会話イベントもキャラごとに用意されていて、このゲームの世界観や仲間の背景について知識を深めることができる。こうした断片的な知識やキャラの設定を収集するのも、RPGの(そして本作の)楽しみのひとつだ。
↑仲間候補のひとり、薬師のネムリ。攻撃はできないが回復アイテムでサポートしてくれる。カワイイ。ちなみにBitSummit2014では、制作者によるキャラストラップも販売された
そして、本作においてはそのようにして収集される世界観とシステムが見事に接合されている。前章で取り上げた「闇」ひとつとってもそうだ。RPGのお約束「世界が滅びへと向かっている」ことをタイムリミットとして画面に表示しつつ、ゲームのシステム=強制スクロール・タイムリミットとして無理なく落とし込まれている。そして、「闇」はプレイヤーが魔王を倒さない限り止まることはない。上で書いた通り、プレイヤーの行動に紐づけられた時間経過(=ターン制)に伴う世界の滅びの表現として「闇」は存在している。
プレイヤーキャラクターの設定もその例に加えることができるだろう。複数のクラスや外見・性別・特徴を選べること、旅の舞台となる世界をランダムに生成できること、そしてプレイヤーがゲームオーバーになった際は、いわゆる「ループもの」のように、生まれ変わりのような存在として再びゲームを開始できること。これに加えて、積極的なリトライを促すシステムも、そうした状況への没入をドライブしている(ゲームオーバーやクリアに関わらず、一回のプレイが終了すると「勇者ポイント」が手に入り、それを消費して追加のクラスや特徴のロック解放、アイテム倉庫の拡張etcができる)。
つまり、ここでは「つよくてニューゲーム」的なプレーをシステムと物語や世界観の双方の面から肯定・推奨しているのだ。そして、タイトル『片道勇者』のとおり、プレイヤーは原則として引き返すことができない。私たちにできるのは次のプレーのために勇者ポイントを消費するなり溜めるなりし、クラスと特徴を選び、名前をつけ、新たな世界を生み出すことだけだ。本作はそのような繰り返しプレーを行うことへの強力な後押しを無数に備えているのだ。
5、 おわりに――『片道勇者』そのほかいろいろ
最後は『片道勇者』に関する情報や最近の動向をまとめて本稿をしめくくりたいと思う。
まず、『片道勇者』は制作者であるSmokingWOLF氏のサイトでダウンロードできる。現在は機能・要素を追加したアペンド版『片道勇者+』の開発が進められており、氏のブログでときおり進捗状況や追加要素についての記事がアップされるので、気になる方は要チェックだ。Steamでは英語対応(と機能改善が行われた)バージョンが数ドルで購入できる。基本的にはフリー版と変わらないのだが、ロード時間が早くなっていたり、Steamのクラウドセーブ機能が利用できたり、『+』用のプレーデータの統計がこっそり仕込まれていたりする。『+』に備えてちょっとやっておこう……という方はぜひこちらを。
直近では日本最大規模のインディーゲームの祭典であるBitSummit2014に出展、『片道勇者+』のプロトタイプを披露していた(筆者は残念ながら参加することができなかったのだが)。英語版の発表やこうした活動から、日本のみならず海外でも今後の展開への期待が高まっていることは間違いない。(ちなみにBitSummitでは、上掲のスクリーンショットに写っている仲間キャラ「ネムリ」のストラップを制作者自ら販売していた。通販も予定しているとのことなので、欲しい方はお早めに)
さて、そろそろ紙幅という「闇」が筆者にも迫ってきたので、このあたりで筆を置くとしよう。
読者のあなたにもぜひ、行きっぱなしの旅へ出てほしい。
【ゲーム概要】
[タイトル]
片道勇者
[ソフトウェアタイプ]
フリーウェア(Steam版は有料)
[対応OS]
Windows2000/XP/Vista/7
[ダウンロード]
制作者サイト内の公式ページ:片道勇者 公式ページ
Steam版(有料):One Way Heroics on Steam
[制作者]
SmokingWOLF 氏
[プレイ時間]
世界ひとつにつき最短5分~その気になればいくらでも
(※装備、クラス、世界の状況etcによって大きく変動します)