斧の真髄、ここにあり―爽快“脳天カチ割りダイナミック”SRPG『斧娘 プリティアックス』の2作+αで、レッツAAAAXE!
斧(AXE)というものは、その高い威力とは裏腹にとことん不遇にされやすい武器だ。とりわけ剣に槍、弓矢などの別の武器と混在した状況になれば、決まって斧はそれらとの強さの兼ね合いから、イマドキの言葉で言うところの“ナーフ”にさらされる。
この傾向が最も顕著に現れるゲームこそ、シミュレーションRPG(SRPG)だろう。古今東西にあふれるSRPG作品をご覧になられよ。
斧という武器は大抵、威力が高いのに命中率が低くて使い勝手が悪いものにされているではないか。また、剣に槍、弓などの武器に高威力な伝説級とも称せる武器が多数用意される中で、斧だけはごく少数しか用意されない。それどころか、作品によっては敵専用のものにされていて、プレイヤーがその恩恵にあずかれない始末だ。なげかわしい。
そして、まとわりつく「斧使い=荒くれ者(強面)」というイメージ。もちろん、中にはバリエーション豊かな斧を用意すると同時に、価格の安さからコストパフォーマンスに優れた武器としてスポットライトを当てているSRPGも存在する。
SRPG以外にも、どんなに変な所へ投げ飛ばしちゃっても、必ず持ち主の元へと帰ってきてくれる、アメイジングマーベラスな斧さんが登場するアクションゲームがある。
とは言え、斧という武器に不遇なイメージはまとわりついてしまっている。正直、斧の使い手たちは、この長年にわたって続く不遇極まりない処遇に対してRAGEの声をあげ、身のほどをわきまえさせる時ではないのだろうか。
そう、「ヴァルハ……」……違った。「AAAAAAAAXE!!」と。
そんな訳で斧による斧のためのAXEのSRPG『斧娘 プリティアックス』ご登場です。
出てくる武器は斧!斧!AXE!力こそパワーのSRPGが2作と外伝のRPGが1作
2024年1月6日、当もぐらゲームス掲載の「もぐらゲームス執筆陣の選ぶ 2023年おすすめフリゲ・インディーゲーム17選」にJUST AXEされてしまった『斧娘 プリティアックス』は、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」において配信中のWindows PC向けフリーゲームである。しかも、本作は1作だけにあらず。
2024年現在は続編『斧娘 プリティアックス 紋章の斧』も「ふりーむ!」で配信されている。もちろん、Windows PC向けフリーゲームである。さらに『プリティアックス外伝 ~斧姫~』なる外伝も存在。
こちらは2023年開催の「WOLF RPGエディターコンテスト」(ウディコン)のWEBサイト限定で配信されている作品。ジャンルはSRPGではなく、短編RPGとなっている。制作ツールも「SRPG Studio」ではなく、コンテストがコンテストゆえに「WOLF RPGエディター」だ。しかし、どういうわけかゲーム内グラフィックは「RPGツクール2000」などでお馴染みの画像素材である。なぜと言われても聞くな。
ちなみに続編『斧娘 プリティアックス 紋章の斧』は2023年12月31日に配信された。よって2023年オススメのひとつには選ばれなかった……というか、おそらく不意打ちだったと思われるのだが、そこんところどうなんでしょうか、選出者どの。
とにもかくにも、本稿は『斧娘 プリティアックス』2作にフォーカスする形になるが、内容としてはターン制のSRPGである。カーソルを操作して各ユニットに移動や攻撃などの指示を出し、敵対するユニットへの攻撃を実施しながらマップのクリアを目指す。
最大の特徴はズバリ“斧”である。2作いずれも全ユニットが用いる武器は斧しかない。他の剣、槍、弓矢といった武器はすべて敵の所有物であり、コナゴナに破壊され尽くす運命(さだめ)を背負いし存在(ワレモノ)である。
ただし、魔法だけは一部、味方側も使える。それでも主力は斧である。理由?斧(AXE)のゲームだからだ。それ以外に何があるというのか。
斧しか武器がない以外の特徴としては、ユニットそれぞれの持ち物枠(スロット)が非常に少ないというのがある。1作目は2つ、2作目は3つまでしか武器、アイテム類を所持できない。それを踏まえてか、武器には耐久度および破損の概念がなく、使用回数はインフィニティである。だが、本編には多種多様な斧が登場することから、それらを使いたいとなればどうあがいても厳選することになる。
また「バフカード」と呼ばれる、所持しているだけで特定のステータスを底上げするアイテムもあるのだが、これも持ち物枠をお構いなしに占領する。1作目だと、持てるにしても1個だけ。2個装備したところで、攻撃手段が無くなってしまう。2作目なら3枠に増えているので、ギリギリ持ち歩くことはできなくもない。しかし、そうすれば他の斧やら回復アイテムが持てなくなる制約が生じる。
地味な要素ではあるが、このおかげで「何を持たせ、何を持たせないか?」と考える必然性があり、状況に応じた適切な戦術と戦略を練る楽しさを演出している。それもあって、プレイヤー独自の装備の組み合わせを持ったユニットを編み出す面白さもあったりする。
そして、さらなる2作共通の特色とも言えるのが斧の強みたる“威力の高さ”を存分に味わえる力押し上等のゲームバランス。序盤こそ使える斧の種類も少なく、慎重な進軍が必要とされるが、本編が進むにつれて強力かつ個性的な斧が続々と手に入っていき、気付いた頃には威力の高さを存分に振るうと同時に、殺(や)られる前に殺るの理念に基づく力押し粉骨血祭フィーバーが楽しめるようになる。
その傾向が顕著に表れているのが2作目。最大値が3桁を超えている各ステータス値、再行動スキル、レベルアップ手段の拡充もあって、力こそパワーな戦いがより一層楽しめやすくなっている。ある意味、SRPG特有の戦術性も戦略性もへったくれもないが、これこそがこの作品におけるジャスティス。異論を挟む者にはAXEのPAINが待つのだ。
まとめると、本作は「斧」と「斧」の「斧」なゲームデザインとゲームバランスを持ち味にしたSRPGということである。
ちなみに紹介だけに留めた外伝も、同時に8つまで装備可能な斧で敵を「OH NO」させまくれる、本流に近い爽快感を表現したRPGになっている。だって斧家族ですから(ただし、外伝は本編クリア後に解禁される「おまけ」だけ「斧」とは言い難いゲームになっているのだが、詳細は実際に見よ)。
斧だから止むなし!爽快感全振りのゲームバランスと意外な戦略性がクセになる
もはや語るまでもないかもしれないが、本作の魅力は斧と斧の斧がAXEである。
特に2作共通して、爽快感を堪能する体験にフォーカスしているのが面白い。剣、槍、弓矢などのほかの武器とのバランスの兼ね合いからの弱体化を一切施していないため、元来の強みたる威力の高さを存分に味わえるシチュエーションが多い。
1作目の場合は、ユニットがある程度成長し、使える斧の種類が増えると、まさに気分爽快&脳天かち割りダイナミックな爽快感が堪能できる。襲い来る剣、槍などの使い手たちから魔法使い、果てはドラゴンまでもが斧によって容赦なくかち割られていくその様たるや、まさに長年、不遇の扱いを受け続けた斧の逆襲劇である。
2作目に至っては、強力なスキルとクラスチェンジによる殺戮の宴が起こる。とりわけ前作より続投となるキャラクター「キャリー」は、クラスチェンジ以降、レベルアップのたびに移動力を含む全ステータスが上昇。ある程度のレベルに達すると、すべてが3桁を超えてしまう。
その結果、どんなことが起きるかはお察しの通りだ。また、レベルアップ自体の機会も2作目は増えていて、驚くほど簡単にユニットをレベル20以上にできてしまう。そこにクラスチェンジやら、バフカードの装備を加えれば、どんなことになるかは……まあ、分かりますわな。殺(や)られる前に殺れの嵐です。
SRPGからすれば、ユニットが成長しきってしまって、多くの敵がタダのカカシと化してしまうのはゲームバランス崩壊も同然だ。ただ、本作は斧しか使えない時点で実質、ネタに走り切ったゲームである。ストーリーだって1作、2作目ともにネタに次ぐネタとAXEのオンパレードだ。
それもあって「まあ、こういうのもアリだ」と納得してしまうものになっている。それに「SRPG Studio」製のゲームを少しでもプレイしたことのある人ならご存じと思われるが、このツールのデフォルト素材である必殺攻撃の効果音は結構、痛快なものになっている。
そのような音がバーンでウォアーのAAAXEと鳴りひびく瞬間を存分に味わえるのだ。それだけでも、本作はストレス解消に打ってつけのゲームである。
もし、なんか色々うっぷん溜まっていらっしゃるのであれば、どちらかをお手に取っていただきたく思う。最もストレス解消度が高いのは2作目だが、ストーリーがほんのちょっこり繋がっている部分があるため、1作目の後がいいかもしれない。
爽快感ばかりでなく、SRPGの醍醐味もきちんと押さえられている。特に持ち物枠の少ない1作目は、前述したようにどのキャラクターに何を持たせるかを都度、考えては実行に移す楽しさがある。
また、1作目は自軍メンバーも4人+αと少ないため、ひとりでもやられてしまうと大幅な戦力ダウンになる。一応、2作共通でやられたとしても永久ロストすることはないため、その点はご安心いただきたい。だが、十分にユニットが育っておらず、斧の種類も少ない序盤辺りはピンチを招きやすいので油断大敵だ。マップによっては時折、強力な“オマージュユニット”が紛れ込んでいるのもまた然り。
2作目はメンバーが8人に増えていることから、戦力ダウンは起きにくくい。しかし、混乱の状態異常を付与する敵など、場合によっては深刻な状況に追い込まれる危険も付きまとうので、それなりに考える場面はある。クラスチェンジの実施タイミング、斧の調達と装備の切り替えも、有利な状況を作り出すに当たっては重要だ。まあ、2作目は前述した通りレベルアップが行き過ぎると、すべてがAXE(ゼロ)になるのだが。
いずれにせよ、体験してみれば、意外にSRPGとして個性的な戦術・戦略性があることが分かるはずである。中でも1作目は、2作目よりも無双にひと手間がかかるのもあって、思いのほか手応え十分なマップ攻略が楽しめるはずだ。
既視感ラッシュのマップとストーリーがアナタの脳内をAXEにする
なお、1作目のマップは、既視感に次ぐ既視感の連続である。
2作目はオリジナルのマップが多くなっており、既視感は1作目よりも薄れている。代わりにストーリーで既視感からの既視感が相次ぐ。前述したストランディングなオープニングもそうだが、ほかにも雇われ遊撃隊やらスレイヤーやらのオンパレードである。正直、むせ返るレベルで描写されているため、苦手な人には抵抗感を覚えるかもしれない。
ボリュームに関しては1作目は1~2時間、2作目は2~3時間の短編に収まっている。なお、外伝は10分である。
密度で行くと2作目が特に充実していて、本編とは別に用意された外伝マップ、ふりーまっぷ(原文ママ)に加え、斧を持たぬ者たちの阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれる難易度「斧貴族」、外伝の主人公が単騎で戦う(!?)特殊難易度「しんどい」などのやり込み要素があるため、クリア後の周回も楽しい作りだ。
1作目は3種類の難易度それぞれへの挑戦ぐらいしかない。ただ、件の既視感マップがなかなか攻略しがいのあるマップになっているので、物足りなさは感じさせられないだろう。また、持ち物枠の少なさから、様々な組み合わせと攻略法を編み出せるので、それを周回プレイで試してみるのも面白い。なんとなく試したい気持ちが起きたら、挑んでみることをオススメする。
全体的に勢いのまま作られている節もあって、とりわけタイトル画面に関してはなんとタイトルロゴもなければ、そのデザインもツールのデフォルトである。また、1作目に関しては3種類の難易度の差分が分かりにくかったり、拠点メニューに設けられた「経験値配分」が意味を成していないといった箇所がある(2作目では「経験値配分」の要素があることから意味を成している)。さらに2作目固有の現象として、Windows 11環境ではターン終了のたびに強制終了バグが生じるというものも。
筆者の場合、Windows 10環境でプレイしたところだと、そのようなバグには遭遇しなかったのだが、なぜかWindows 11では互換モードを設定してもバグが生じ、ゲームを進めることができなかった。そのため、もし今後プレイされる方で、Windows 11環境の人はご注意いただきたい。そして、願わくば今後、このバグが直されるのを待ちたいところだ。
そういった荒っぽさもいかにも斧をテーマにしたゲームらしくあるが、ゲーム本編もとてもいい意味で荒っぽさと勢いの良さが現れた仕上がりだ。爽快感重視の問答無用なゲームバランスにバリエーション豊かな斧、既視感に次ぐ既視感が襲うマップやストーリー、前頭前野が斧に侵されているとしか思えないセリフ回しの数々。
すべてが斧に染まり切った衝撃の短編SRPGだ。ストレス解消にももってこい。アクションゲームのような操作技術も一切求められないのでお手軽だ。さあ、長年の不遇からの怒りを爆発させた斧たちの勇姿と魅力を味わおう。合言葉は、
金!暴力!AXE!(そのための斧)
[基本AXE情報]
AXE1:『斧娘 プリティアックス』
AXE2:『斧娘 プリティアックス 紋章の斧』
AXEα:『プリティアックス外伝 ~斧姫~』
SAXESHA:HOT・W
クリAXE時間:1~2時間(1作目)、2~3時間(紋章の斧)、10分(斧姫)
対AXE応プラットフォーム:Windows
価AXE格(税込):無料
◇ダウンロードはAXE
・ふりーむ!(斧娘 プリティアックス)
https://www.freem.ne.jp/win/game/30143
・ふりーむ!(斧娘 プリティアックス 紋章の斧)
https://www.freem.ne.jp/win/game/31949
・第15回 WOLF RPGエディターコンテスト 部門別順位表(プリティアックス外伝 ~斧姫~)
https://silversecond.com/WolfRPGEditor/Contest/result15.shtml