「“遊べる”文字のない絵本」なゲームデザインを持ち味とする短編ポイント&クリックADV『リルミネイト』

アドベンチャー,フリーゲーム

絵と文章の2つで構成される「絵本」。そんな絵本の中には、文章(文字、言葉)がいっさい存在しない、絵だけで表現された「文字のない絵本」というものがある。

このような絵本では、描かれている物語、その主人公となる人物の名前もいっさい知ることはできない。ゆえに読み手は、唯一の情報である絵からそれぞれの物語を想像し、一連の流れを感じるがままに辿っていく……。

このような絵本は、まだ文字を読めない年齢の子どもでも楽しめるという強みがある。また、読むに当たって想像力が必要とされると同時に、感性を豊かにもしてくれる長所もあることから、大人でも楽しめる特徴も持ちあわせている。

そんな「文字のない絵本」にゲームならではの「遊び」を足すと、どんなものになるのか。
そのひとつの答えとも言える作品が、本記事で紹介する『リルミネイト』である。

さまざまな仕掛けが行く手を阻む、横スクロールマップを進むポイント&クリック型アドベンチャーゲーム

「文字のない絵本」の話題を出した通りだが、本作も文字は一切使われていない。厳密にはタイトルとそのメニュー、オプションの項目など、一部においては文字が存在する。しかし、ゲーム本編では一切使われていない。

よって、ここから紹介するオープニングストーリーは、すべて筆者の想像によるものだとお断りしておく。

本作の舞台となるのは、とある神殿。ここに人の傷を癒す神秘的な力を駆使する「聖なる人」がいた。聖なる人が駆使する神秘的な力……「癒しの光」とも言えそうなそれは、神殿に祀られたクリスタルをその源としている。

ある日、そんなクリスタルが祀られた神殿に邪悪なる闇が襲来。闇は神殿をまたたくまに侵蝕し、クリスタルを飲みこもうとする。聖なる人は自らの力を駆使してそれを払いのけようと奮闘するも、闇の圧倒的な力の前に敗北。クリスタルもバラバラになってしまう。

だが、バラバラになったクリスタルのかけらはまだその力を残していた。かくして聖なる人は、まだ力を残したクリスタルを持って、他のバラバラになったクリスタルのかけらに光を灯し、闇を払うために神殿内部を進む。

……というオープニングと共に本作は幕を開ける。念のためだが、これらはすべて筆者が勝手に想像したものである。「聖なる人って呼び方は変じゃないか?」と思ったら、別の名に変えていただいて構わない。そもそも、正確な名前は設定されていないので、どう名付けたところで絶対的な答えとはならないのだ。その辺はまさに「文字のない絵本」といったところだ。

ゲームとしては、ポイント&クリック型のアドベンチャーゲームになる。プレイヤーは主人公の聖なる人に移動、物を動かすといった指示を与えながら、マップ右端にある出口(ゴール)まで導いていく。

画面構成は横スクロールスタイルで、フィールドマップ上に表示されたポイントアイコンをクリックすると、指定した場所を目指して主人公が移動。

すると、立ち止まった周囲にある新しいポイントアイコンが表示される。そのままアイコンをクリックすれば、さらにそちらを目指して主人公が移動する。この動作を繰り返しながら、プレイヤーはマップ右端にある出口まで導く。出口に到達すればマップクリアになって、そのまま次のマップが開始。そしてまた、出口を目指して主人公を導いていく……ということの繰り返しだ。ちなみに本編はチャプター単位で区切られていて、基本的にそれぞれに用意されたマップを順に辿っていく流れとなる。

マップの規模は1画面に収まった小さなサイズで、そこまで広くない。ただ、出口に至る道には閉ざされた扉、段差といった仕掛けが行く手を阻むため、それぞれに適した対応を取っていくことになる。扉ならカギを回収する、段差なら踏み台になるものを持ち運ぶ、といった具合だ。

扉の中には、カギでは開けられない特殊なタイプも。このような扉は、主人公の能力である「癒しの光」を当てることで開けられる。光の出し方は簡単で、画面左上に表示されたアイコン一覧、左から2番目のものをクリックすればいい。ちなみに「癒しの光」は扉に限らず、一部の仕掛けを動かすに当たっても使うことがある。

そして、本編開始時点では主人公ひとりだけを導く形になるが、途中から少女が仲間として加入。仲間になって以降は、2人それぞれを個別に行動させられるように。また、少女を肩車し、高い足場へと登らせることも可能になる。少女にも狭い通路を通れるという主人公にはない特技が。逆に癒しの光は使えないほか、重いものも動かせないので、それらは主人公が担う形となる。

このようにポイント&クリック型アドベンチャーとしては、仕掛けの解除および突破に焦点を当てていて、そこに2人のキャラクターによる共同作業の遊びを採り入れた内容に仕上げられている。見た目が横スクロールなので、少しアクションゲームを想像してしまう部分もあるが、そのような要素は皆無。反射神経が試されるイベントもないため、まったり遊べる作りだ。

絵本を読み進めているような感覚を呼び起こす、ユニークなゲームデザイン

本作の魅力はズバリ、「遊べる文字のない絵本」を表現しきったその作りにある。

ストーリーが文字をいっさい使わず描かれるという時点で、紛うことなき文字のない絵本だが、一番“らしさ”が出ているのはそこではない。ポイント&クリックアドベンチャーゲームとしての本編、横スクロールのマップを攻略していく根幹部分だ。ここが最も「文字のない絵本」としてのらしさがあると同時に、「遊べる文字のない絵本」を体現した箇所となっている。

そもそも、1画面に収められたマップの右側に設けられた出口を目指す展開からして、絵本のページをめくることも同然なのである。そこに至るまでに行く手を阻む仕掛けを解除し、時に仲間の少女と協力しながら右へ右へと進んでいくという“遊び”が発生する。そして、この場面においても文字が使われることはいっさいなく、すべてがキャラクターたちの動作だけで描かれていく。

まさしく、遊びながら楽しむ文字のない絵本としての体験が確立されているのである。これに加えて素晴らしいのが、難易度が低めに設定されていること。

行く手を阻む仕掛けを解除しながら、主人公と女の子を出口まで導くというその内容から、パズル的な手ごわさをイメージするかもしれない。実際、マップによってはパズル性のある仕掛けも登場し、一筋縄ではいかない展開になる。

ただ、そこまで頭をひねる必要のあるパズルが出てくることはない。基本の仕掛けも含め、多くは見た瞬間に解き方がイメージできるものになっていて、ある程度、直感に頼ったやり方でなんとかなってしまう易しい塩梅になっているのだ。

少女と連携するタイプの仕掛けにしても、露骨なほど「ここは少女に任せる場所だな」と分かるものになっていて、判断に迷うことが少ない。一点、肩車については初回プレイ時だと、「そもそもできるの?」との迷いが生じやすいが、基本的には直感の赴くがままに試せばなんとかなる。

手応えのあるパズルを求める思いが強いと、この低難易度には物足りなさを覚えるかもしれない。しかし、絵本としての作りを踏まえれば、このバランスは適切。特に「文字のない絵本」であれば、文字を読む必要がないからこそ、思い切ってページをめくっていける。時間を費やさずとも、先へ進めていけてしまう余地があるのだ。

そんな時間を要さないなりのテンポが低難易度によって実現しており、絵本を読んでいる時に近い体験を作り出しているのである。もし、これが手応えのある難易度であれば、むしろ絵本を読んでいるような体験にはなっていなかったと思われる。むしろゲームブックっぽさが出ていたかもしれない(それはそれで面白いのだが)。

そのような体験が確立されているだけでも、難易度を低めにしたのは大正解で、本作の魅力にベストマッチしているのだ。もしかすると、本当は幅広いプレイヤーに楽しんでもらうことを想定し、設定した線も無きにしも非ずだが、それでも結果として絵本らしい体験を引き立てているので、ナイス判断と言えるだろう。

一連のゲームデザインや、低めの難易度と絡み合いながら描かれていくストーリーもキャラクターの可愛さもあって、微笑ましい気分にさせてくれる内容だ。それでいて、起承転結も抜かりなく表現されており、特に終盤はなかなかにグッとくる展開が繰り広げられる。

突如現れた闇に浸食されたクリスタルと神殿は元通りにできるのか。主人公と少女はその冒険を通してどんな関係になっていくのか。

いずれも文字のないデモシーンとゲーム本編を通し、各々が想像しながら読み取っていく形だが、きっとそれはプレイヤーそれぞれの頭と心に残る唯一のストーリーとして残るだろう。そして、素敵な絵本を読ませてもらったとの満足感も得られるはずだ。

小さな子供を持つ親御さんに特にオススメしたい、神秘的でかわいい作品

ボリュームもひと通り終えるまで、大体30分ほどと絵本らしさを感じさせる程度の短さになっている。ただ、用意されているマップの数はそれなりに多い。マップの作りも進行に応じて新たな仕掛けを登場させたり、主人公と少女で別々の仕掛けを動かす場面を設けるなど、変化を付ける工夫が抜かりなくなされているので、単調さはほどんと感じさせないだろう。

ここまでのスクリーンショットの通り、キャラクターから背景まで、ドット絵で描かれたグラフィックも素晴らしい出来。特にキャラクターのアニメーションが見事で、見ているだけでも微笑ましい気持ちになるものに仕上げられている。開かない扉に悩んだり、手を繋いで少女が笑ったりといった表情と挙動の細かさにもこだわりがにじみ出ている。ごく一部の場面でしか見られない動きもあるので、要チェックである。

演出も節目ごとにドット絵で描かれたデモシーンが挿入されるほか、そのカットも豊富で手の込んだ仕上がり。音楽も神殿らしさを感じさせる楽曲を中心としており、探索主体のゲーム本編ともマッチしている。ほかにこれは作品全体での話になるが、ノベルゲームの制作に特化していることで知られる「ティラノスクリプト」で、横スクロール型のポイント&クリックアドベンチャーゲームを確立させているのもちょっとした見所だ。

正直言うと、もう1チャプターあると良かった……と思うところもあったのだが、この規模だからこそ絵本らしい体験が確立されている面もあるので難しい話である。何にしても、「遊べる文字のない絵本」というゲームデザインを強く感じさせる作りと、易しくも遊び応えを持った探索要素、美しいドット絵と演出が輝きを発する小さくも力強い作品に仕上がっている。特に小さな子供を持つ親御さんに強くオススメできる作品になっている。生まれて初めて遊ぶゲームのひとつとしていかがだろうか。

短い時間で、探索の遊びを気軽に味わえる内容でもあるので、そのようなゲームが好きな方やドット絵好きもぜひ。文字で一切語られない不思議で神秘的なストーリーと冒険の旅を感じるがままに味わってみよう。

[基本情報]
タイトル:『リルミネイト』
作者:桃源フォートレス
クリア時間:20~30分
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
https://novelgame.jp/games/show/10381

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