可愛いウサギの女の子になって居心地悪すぎの別荘から脱出だ!どこか懐かしい香り漂う短編3Dホラー『Rental』

フリーゲーム,ホラーゲーム

真夏のバカンスを過ごすため、ウサギの「ウミ」とその一家は、ビーチに近いキャビンをレンタルした。スポット的に見晴らしは抜群で、周囲の環境も自然豊かで申し分なし。まさに絶好のキャビンを借りられた感じだった。

しかし、いざ現地に着いてみると、キャビンの案内をしてくれるはずの管理人(大家さん)の姿が見えない。そこでウミは単身、大家さんを呼びにいく目的でキャビンの中へと足を踏み入れる。すると間もなく入口のドアが閉まり、外に出られなくなってしまった。

なぜ閉じ込められてしまったのか?そもそも、大家さんはどこへ行ったのか?
ウミは恐る恐る、内部を探検し始めるのだが……?

分かりやすいぐらいホラー全開なオープニングと共に始まる本作『Rental』は、2024年3月8日よりSteamで配信中のフリーゲームだ。元は2022年11月にインディー・フリーゲーム投稿サイト「itch.io」で配信されたタイトルで、短期間で32ビットのゲーム機で作られたかのようなゲームを作り上げるイベント「32bit jam 2022」を通して誕生した。

そんなitch.ioで先行公開されたバージョンが好評を博し、それを機に配信されたのがSteam版となる。なお、2024年4月12日にはアップデートにより、ゲーム内の字幕テキストが日本語にも対応した。

全編ローポリゴンで描写された3D探索型ホラーアドベンチャーゲーム

ジャンルとしては、探索メインのホラーアドベンチャーゲームとなる。プレイヤーは主人公でウサギの女の子「ウミ」を操作し、閉じ込められたキャビン内を探索。外へと繋がる出口を見つけ出すため、様々な仕掛けを解いたりしながら進めていく。

スクリーンショットの通り、グラフィックはキャラクター、地形ともにローポリゴンによる3DCGで描写。画面構成もそれを踏まえた3人称の視点を採用している。見た目はサバイバルホラーの金字塔こと”某バイオ”を思い起こさせるもので、部屋や特定の場所に移ると同時に視点が切り替わる仕様も採用されている。

ただし、カメラのアングルは固定ではなく、プレイヤーを追随する具合に自動で動く仕組み。アングルの調整は不可能ながら、常に適切な位置に動いてくれるようになっている。

また、ホラーアドベンチャーを称しているが、実はホラー要素はほとんどない。具体的には何の前触れもなく目前に幽霊が現れる、ガラスなどの物が壊れたり、石像が動き出すといった、ビックリさせる類の演出のことで、全くと言っていいほど存在しない。さらに言えば、ウミに危害を加える類の脅威に襲われたりするようなイベントもない。

そのため、ホラーゲーム嫌いでも安心して遊べるという、ジャンル的に矛盾した特徴を持つ。主人公のウミを始め、キャラクターたちが可愛らしいデザインなことから、そのようなキャラクターが残酷な仕打ちを受ける心抉るホラーを想像するかもしれないが、意外にも(?)その種のものはない。ちゃんと見た目に沿ったものになっているのだ。

逆に言えば、雰囲気周りの演出は容赦がなく、節々でゾワゾワさせてくる。ホラーゲーム嫌いが安心して遊べるホラーゲームとか、それは果たしてホラーゲームなのかと首をかしげたかもしれないが、ご安心あれ。ビックリさせること以外は徹底している。

ついでに言えば、本作は最初から最後まで一発勝負である。セーブなんてものはない。

ホラーゲームだけど怖くない!?けどその分、居心地の悪さと雰囲気の怖さで攻めてくる

本作の魅力は前述した、ホラーゲームなのにホラーゲーム嫌いでも遊びやすいことにある。

繰り返しになるが、探索中に予期せぬ出来事が発生し、心臓がドキッとするような演出はほとんどない。大事なことなのでもう一度言うが、ほとんどない。「ホラーゲームはドキッとさせられるのがどうしても……」というプレイヤーにも大変優しく、それでいて安心して閉じ込められた別荘から脱出する本筋に集中できる設計になっているのだ。

逆にドキッとさせられることが少ない分、”居心地の悪さ”に関しては徹底的に表現している。

別荘内は明かりがほとんどついていないので薄暗く、人の気配もないのでひたすらに静か。さらにバカンスを過ごすための別荘には、全くもって似つかわしくないものも至る所に置かれており、気味の悪さを大いに引き立てる。

さらに多少、ネタバレになるが、主人公のウミが別荘内に入った最大の理由たる大家さんを発見してからは、不可解なことに取り組む展開になる。

それと共に別荘内の探索も本格化し、思いもしなかった場所にも足を踏み入れることになって、先が見通せなくなっていく。それに合わせるように居心地の悪さも強まっていき、徐々に早くここから出たいという気持ちを喚起させられるのだ。

これに加えて、本作はシステムや操作面でも居心地の悪さを表現。プレイヤーが扮するウミを例に出せば、移動速度が遅く、走ることができない(そもそも走るアクション自体がない)。このため、探索に要する時間も気持ち間延びしやすくなっていて、早く脱出したいのにそうもいかないというもどかしい気持ちを呼び起こす。

システムに関しても、本作は探索の過程でアイテムを集め、それを特定の場所で使ったりする展開があるのだが、現在、何のアイテムを所持しているかを確認する機能がない。適時、覚えるしかないのだ。

そうした不便に感じる部分もまた、別荘内の探索における居心地の悪さを演出すると同時に、焦りも呼び起こす仕掛けになっている。この不便さを逆手に取った手法は、本作が見た目の面で影響を受けたと思しき某バイオでも見られたが、まさにそれをオマージュしたかのようなまとまり方で、制作チームのこだわりをほのかに感じさせられるものになっている。

セーブができない点もまた然りだ。その分、クリアに要する時間は短めで、早ければ10~15分ほどでエンディングまで到達できるのだが、それを見越した展開も設けられている。それがまさに前述した”思いもしなかった場所”で、途中からの再開ができない、後戻りもできない恐怖を表現しているのだ。

そして、本作はエンディングを迎えてもそれで一区切りとはならない。進め方によっては異なるエンディングを迎えるという分岐が仕掛けられているのだ。

また、最終的に迎えるエンディングはなかなかに不気味で、可愛らしいキャラクターデザインも相まって、おぞましさが滲み出たものになっている。一体、探索をすべて終えた後、ウミはどうなってしまうのか。ハッピーエンドはあるのか?その行く末は見てのお楽しみである。気になれば、ウミになりきって別荘内に足を踏み入れよう。

ただし、足を踏み入れたら後戻りはできないし、途中からの再開もできない。そして、進め方によっては居心地の悪さをしこたま浴びることにもなる。ビックリさせられることはない反面、その辺の恐怖はあるため、覚悟の上で挑んでいただきたいところだ。

一部、三半規管にダメージを与えるパートに注意!短編ながらも独特の怖さを持った作品

居心地の悪さを引き立てている見所としては、昔懐かしのローポリゴンで表現されたグラフィックもそのひとつ。

現代のゲームほどの現実味が表現されていない分、プレイヤーの脳内補完という名の想像力が働きやすく、それが別荘内全体の不気味さを際立たせている。この種の想像力が勝手に働いて不気味さが増すホラーゲームは、1980年代から1990年代のアドベンチャーゲームでも見られたものだが、本作もその特色がいかんなく発揮されている。

それとは対照的すぎる、可愛らしいデザインのキャラクターたちが醸し出すミスマッチ感も印象的。特に主人公のウミは、その挙動に加えて表情面でも豊かなものを見せてくれるので必見である。人によっては、親心も刺激させられるかもしれない。

このように居心地の悪さにフォーカスしたホラーゲームとして完成されている本作だが、いささかやり過ぎてしまっている部分も見られる。

それが”思いもしなかった場所”。プレイヤーごとに顕著な感じ方の差が現れることからネタバレするが、この場面、3人視点ではなく1人称の主観視点、いわゆるFPS(ファースト・パーソン・シューター)視点で探索することになるのだ。

しかも、三半規管に相当なダメージを与える仕掛けまで凝らされているのに加え、場合によっては30分以上、突破に時間を要することにもなる。作りからして、見た目のインパクトを狙って仕掛けたのかもしれないが、さすがにここに限ってはやり過ぎた印象が否めない。一応、ルートが分かればスムーズに突破できるのだが、なまじ仕掛けが仕掛け。人によっては肉体的な大惨事に至るおそれがある。

よって本作をこれから遊ぶ場合、FPS耐性があるかないかに注意いただきたい。もし、耐性が無ければ大変なことになる。耐性のある人でも地味に応える表現になっているので、異変を感じた際は小休止を挟むことをお薦めする。ただし、ゲームを終了させてしまうと最初からのやり直しを強いられてしまうので、その点はご用心を。

加えて、そんなゲームの終了手順に関しても、ゲーム側でサポートされていない難点がある。一応、「Alt+F4」で対処可能とは言え、最低限用意して欲しかった。他に4月に実装された日本語テキストも、翻訳の質はお世辞にも良いとは言えず、所々言い回しがおかしかったり、漢字のフォントが日本語でなかったりするのも気になるところだ。

そんな行き過ぎた部分などで、賛否が分かれやすい面もあるが、可愛らしさと居心地の悪さにフォーカスした作風という点でも非常に個性的なホラーゲームである。一部、三半規管的な意味で注意が必要だが、ビックリさせられることがない特徴に惹かれたホラー嫌いの人なら、ぜひお試しいただきたい作品だ。

キャラクターも可愛らしいため、入門編とするのも申し分ないだろう。ウサギの女の子になり、不気味な別荘の探検に挑んでみよう。そして、たっぷりと居心地の悪さを味わってみよう。

[基本情報]
タイトル:『Rental』
作者:Lonely House
クリア時間:15~20分
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
・Steam

・itch.io
https://smarto-club.itch.io/rental

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