あなたは今から犯人です。新感覚の”完全犯罪”ミステリーアドベンチャー『SHOCK-Last liquor ショック・ラストリッカー』
完全犯罪。犯行の実施証明ができず、決定的な証拠に当たるものも発見できず、加害者が逮捕・処罰されないまま終結してしまう犯罪のことを言う。主に推理小説、サスペンス系のテレビドラマにおいては定番の題材として扱われ、その中の僅かな糸口を探し出すべく、探偵や捜査官の主人公が奮闘する様子がよく描かれる。
中にはテレビドラマ『刑事コロンボ』、『古畑任三郎』のように、物語の冒頭で犯人が事件を起こし、様々な工作によって完全犯罪を確立させた後、主人公が事件解決のために捜査していく例もある。このような構成は、主人公が犯人にどのような形で接近していくのか、犯人側はどんな反応を見せるのかといった過程に一喜一憂するのが醍醐味となっている。
そんな物語でもし、主人公が犯人側だとしたら?
完全犯罪を成功させて、警察から逃げ延びるのが目的だとしたら?
そんな逆の構図を描いた作品が『SHOCK-Last liquor ショック・ラストリッカー』。2021年8月に「ゲームアツマール」、9月に「ふりーむ!」と「フリーゲーム夢現」の2つのサイトで公開されたブラウザ及びWindows PC用フリーゲームだ。
男は決意した。許しがたき上司を完全犯罪で殺す、と。
物語の主人公にして、事件の犯人となるのは「ハリゴウ シュン」という名の男性。
彼はビルの設備管理の仕事を請け負う「株式会社エンショージ」の社員。エンショージは伸び盛りの元気な企業で、近頃は鉄道会社ながら、レジャー施設から大手デパートまで所有する「SOSOグループ」の案件も担っていた。
だが、そんな「SOSOグループ」との間で大きな問題が起きた。
ハリゴウたちが担当した「SOSOグループ」の建物で事故が発生したのである。幸い死人は出なかったものの、一歩間違えれば大惨事になっていたほどの大きな事故だった。
原因は設備内に置かれた機械の設定ミス。
件の機械の設定を担当したのは、ハリゴウの上司で部長の「カクズ」だった。
事故の前日、ハリゴウは間違いがないよう、最終チェックを実施するようカクズに何度も進言していた。だが、カクズは自分が早く帰宅したかったため、十分な見直しをせず、現場から引き上げてしまった。その結果、事故が起きてしまったのである。
しかもあろうことに、カクズは報告書で自分のミスはハリゴウのミスであると記述していた。ただ、件の報告書は提出されていなかった。普段から重要書類の作成を担当していたハリゴウの手元にあったからだ。
ハリゴウはそんな普段の仕事の流れから、カクズの嘘の報告を知ることになった。
人の命に関わる仕事ゆえに間違いが起きてはいけない。そんな誇りを持って仕事に当たるハリゴウにとって、カクズの行いは到底許されることではなかった。だが、カクズは会社上層部との付き合いがよいため、不正や真実を訴えても、結局は上手く逃げられてしまう。そして、最終的にハリゴウの責任にされてしまうのである。
理不尽極まりない現実に吐き気を催すハリゴウ。そして、彼は決意したのだ。
カクズを”完全犯罪”で殺すことを。
このような経緯と共に本作の物語は始まる。
なお、彼が目論む殺害方法とは毒殺。
付き合いのある会社からもらったとの”設定”の酒をカクズに渡し、杯を交わして飲みながら、その隙に毒を入れ、飲ませて殺すというものである。そのためにハリゴウは、カクズのサインが必要との嘘の口実を作り、彼の自宅へと向かう。そして、細かい流れはゲーム本編で確かめていただきたいため割愛するが、最終的に……
カクズの殺害に成功するのである。
ここからがゲームの本番。殺人事件を自殺に見せかけるため、現場に様々な細工を加え、完全犯罪を確立させるのだ。そのためにプレイヤーはハリゴウを操作し、現場であるカクズの自宅内を行き来しながら、残された物品や指紋の処理、窓や扉の施錠といったことをしていく。そして、細工が完了したら、その場から急ぎ撤収。基本的な流れはそのような感じだ。
もし、細工した現場に少しでも見落とし、誤りがあると警察に証拠を掴まれ、ハリゴウが逮捕されてゲームオーバー。何事もなければ、そのまま完全犯罪が確立される。仕組みとしては、脱出ゲームにやや近いものになっている。
なお、完全犯罪の確立に成功したとしても物語は続行。次は警察の取り調べから逃れるパートへと移行するのである。もちろん、ここで下手な受け応えをしてしまえば、”牢屋行き”という名のゲームオーバー。
最大の目的を成し遂げたとしても、犯罪者となったハリゴウには試練が続くのだ。
このように、本作は犯罪者の置かれた立場、環境というものをストーリーに沿って疑似的に体験する作りを最大の特色としている。そして、この設定ならではの背徳感と緊張感を存分に味わえる、稀有な魅力を持つゲームに仕上げられている。
具体的にはこのまま何事もなく、事態が過ぎ去るのを”待つ”というものだ。
犯罪者に降りかかる不安と恐怖。そして、意識させられる”視点”
待つだけなら大したことは無さそう、と思うかもしれない。
だが、改めて言及しよう。本作の主人公は殺人事件の犯人である。
事件解決のために奮闘する警察、正義の側ではない。悪の側だ。
さらに言えば、本作のプレイヤーが成すべき最終目標は完全犯罪。
なので、無事に全てが成り立ち、時が過ぎ去るまでは冷静で居られない。完全犯罪が確立されて物語が続行しても、本当にこのままプレイヤーが扮している主人公は罰せられず終われるのかと、不安と緊張が付きまとい続けるのだ。
また主人公の行動、言動にも所々でヒヤヒヤさせられる。とりわけオープニングから殺害後の細工完了までに関しては、「この主人公、本当に大丈夫か?」と言いたくなることがたびたび起こる。もちろん、最終的には成功するので問題ないのだが、扮するプレイヤー側からすれば安心できたものではない。
そのような「先行きの分からなさ」というものが、本作の物語では突き抜けている。僅かな台詞すら見逃せないほど、夢中になって事の推移に見入ってしまう訴求力に秀でているのだ。同時に犯罪者の立場特有の恐怖も存分に体験させられる。中でも取り調べで炸裂する警察側の台詞の数々には、目前のハリゴウと同じぐらい焦燥感に駆られるだろう。そして、思い知らされるのだ。「犯罪は絶対に犯してはいけない!」……と。
いや、普通に犯罪はダメだろう、という指摘はごもっともだが、実際にその場を体験してみれば、嫌になるほど思い知らされる。よほど心が強くて、所詮これはゲームだと割り切れる人なら、受け取る印象は異なるかもしれないが、ハリゴウになり切ってプレイすれば、犯罪を犯す愚かさについて考えさせられるはずだ。
そんな啓発作品としての一面もあって、様々な問いかけを残すのである。
特に取り調べを乗り越えた後の物語はその極みだ。取り調べ後の物語では、警察側に焦点を当てたイベントが繰り広げられていくのだが、これが非常に印象深いものになっている。詳細は実際に見てのお楽しみだが、一連のイベントを経た末にプレイヤーは”視点”というものを強く認識させられるはずである。
また、警察がいかなる信念を持って完全犯罪と対峙し、その解決に尽力するのかといった凄味も思い知らされるだろう。警察側の主要キャラクターである女性捜査官「コーメイ」は、そんな2つのテーマを強く感じさせられるキャラクターとして描かれているので、その一挙一動に注目いただきたい。
そして、このような物語を経た後に訪れるエンディングに関しても。
無事にハリゴウの完全犯罪は成立し、彼の穏やかなる日々が訪れるのか。警察側が逆転の一手を下すのか。全ては実際に本編をプレイして確かめていただきたい。
そして、不安を保ったままその瞬間を迎えて欲しい。
きっとその締め方に拍手を送りたくなるはずだ。
実はギャグ要素も満載。見所たっぷりの意欲作にして良作
前述の紹介から、物語に対してはシリアスなイメージを抱いたかもしれないが、実は意外に笑える場面が沢山あるのも見所。
例えば先ほど詳細は省いたハリゴウがカクズを毒殺するまでの流れ。さぞ巧みな手さばきで進むのだろう、と思いきや。実際は(いい意味で)大変残念なものになっている。どう残念かは伏せるが、結構な確率で横にズッコケてしまうかもしれない。そして、こう言いたくなるだろう。「お前、本当にこれから完全犯罪に挑む人間かよ!」……と。
また、完全犯罪失敗時のゲームオーバー、具体的には発覚までの過程もユニーク。中には「そんなのあり!?」と言いたくなる想定外なものも混じっていて、不意に笑わせてくる。そのゲームオーバー時にも、作中に登場するキャラクターたちの漫才(?)が繰り広げられるというこだわりよう。しかもこの漫才、失敗した原因についても詳しく言及してくれる優秀なヒント機能にもなっている。
それもあって、何度か失敗してもいつかは完全犯罪に成功するというバランスが実現しているのも面白いところだ。バリエーションも多彩なので、これからプレイする人はぜひ、最初は完全犯罪の失敗を存分に楽しんでみていただきたい。
というか、作中屈指の見所でもあるのでお見逃しなきよう。(力説)
本編のボリュームも順調に進んで大よそ2時間。現場の細工、聞き取りの場面においてゲームオーバーの概念こそ存在するが、前述のヒント周りが優秀なので、エンディングまでは特に詰むことなく進めていけるバランスだ。
また、演出面も重要な台詞の際には独特なジングルが流れたり、文字の色が変わったり、サイズが大きくなったりなどの工夫が凝らされていて、非常に盛り上がる。中でも終盤は色々と突き抜けているので必見だ。
個性的なアイディアが光る本作だが、プレイヤーが直接干渉できる場面は前述の現場の細工、聞き取りなどの一部で、後半になるとストーリー主導で本編が進んでいくのには、人によっては若干の物足りなさを覚えるかもしれない。もう少し、犯人側たるハリゴウが関与できる場面があっても良かったように思える。
また、この手の作品にありがちだが、ハリゴウの行動、警察の捜査といった部分には細かい突っ込み所もある。ただ、作中の舞台となる国は日本ではないという設定があるので、あまり細かいことは考えず、流れるがままに一連の流れを楽しむのがおすすめだ。
さらにもうひとつ、深刻な難点がある。PCダウンロード版に限り、動作全般が不安定というものだ。具体的にはゲームの起動なのだが、一度閉じた後、また起動させようとするとゲームが始まらなくなってしまう。
環境によっては高頻度で発生し、筆者の場合はWindows 10、Windows 8.1の2つでこの現象が生じ、何度かPC本体を再起動する手間が生じた。執筆時点でもこの現象は続いており、起動するにも抵抗を抱くほどになっている。
なぜ、この現象が生じるのか、原因の特定には至っていない模様。また、修正にも時間がかかると思われる可能性が高いため、本作を安定して遊びたい場合は「ゲームアツマール」で公開中のブラウザ版を強く推奨する。念のため、PCダウンロード版の現象は決して全ての環境で生じる訳ではない。人によっては問題なくプレイ可能な場合もある。ただ実際のゲームデータ(フォルダ)内にも、この動作問題に関して言及されたテキストファイルが同梱されているので、今後プレイ予定のある方はよく検討の上で判断いただきたい。
そんなPCダウンロード版限定の難点が惜しまれるが、ゲーム自体はなかなかの良作だ。事故の責任をなすり付けようとする度し難い上司を毒殺し、現場に細工を加えて完全犯罪を確立させ、警察の捜査から逃げ延びよう。
そして、殺人を犯すことの意味と、その怖さをこの独特な立場から体験してみよう。
[基本情報]
タイトル:『SHOCK-Last liquor ショック・ラストリッカー』
作者:ダイヤアーモンド
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料
プレイはこちら(ブラウザ版)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm21941
ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/26457