「誰でもゲームを作れるツールにしたい」 プログラミング不要のゲーム制作ツール『SMILE GAME BUILDER』 開発者インタビュー

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2016年9月8日(木)に株式会社スマイルブームからリリースされたWindows用RPG制作ソフト「SMILE GAME BUILDER(スマイルゲームビルダー)」。プログラミング不要で3DのRPGが作れることが特徴のツールとなっている。

今回、本ツールのプロダクトマネージャーである杉内賢次氏、プロダクトプランナーの重歳謙治氏にお話を伺った。実は両名ともに、フリーゲームに深く関わってきた経歴を持っている。そこで、お二人の経歴をお聞きしつつ、本ツールのコンセプトや込めた思い、今後のアップデート予定などを語って頂いた。

ゲーム制作に関するスマイルブーム社の取り組み

――まずはじめに、『SMILE GAME BUILDER』の開発元であるスマイルブーム社の取り組みについてお聞きしてもよろしいですか?

杉内賢次氏(以下、杉内氏)
もともと、弊社としては新しい時代のクリエイターのための制作支援ツールを作りたいという思いがありまして、主に「プチコン」シリーズなどを制作・販売しています。

また、ツールを作るだけではなくて、ゲーム開発者会議「CEDEC」にて講演なども行っています。ほかにも子供向けのゲーム制作ワークショックにプチコン3号SMILE BASIC(以下プチコン3号)とニンテンドー3DSを貸し出すことなども行っていますね。

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写真はさっぽろ市厚別区民センターにて開催された『オープンラボin厚別』でのプチコン3号 SmileBasicの展示実演の様子
 

杉内氏
プチコンもSMILE GAME BUILDERも、共通して海外からのお問い合わせも多いです。プチコンは現状、北米で販売していますが、最近はヨーロッパの方々から「いつこっちで出るんだ」というありがたい問い合わせも多いです(笑)

杉内氏、重歳氏のフリーゲーム文化への深い関わり

――なるほど、「制作の支援」という部分に注力されているのですね。SMILE GAME BUILDERの開発を担当されている杉内さんと重歳さんの、これまでのお仕事などを教えてもらってもよいですか?

杉内氏
前職の初期からの話になりますが、私はかつてアスキーから発行されていた「ログイン」という雑誌の読者投稿コーナーを担当していました。そこは、ユーザーが作ったゲームプログラムを掲載するコーナーです。パソコン通信の時代も追ってきていて、その関係でフリーソフト文化も黎明期から見てきました。

その後、「RPGツクール」シリーズの担当や、ユーザー投稿型のゲームコンテストも運営してきました。ディレクターの重歳と出会ったのはその時期ですね。2000年頃、彼は私の担当していたコンテストの投稿者のひとりだったのですが、ふとした縁があり一緒に働くことになったんです。

重歳謙治氏(以下、重歳氏)
私は杉内の担当していたコンテストで作品審査を行っていました。いまでも、先日開催された「フリゲ展」など、有志の行うフリーゲームコンテストの審査員などのお話を頂いています。審査とは言いますが、ひとりのプレイヤーとして楽しんでいることに近いですね(笑)

審査というと「ランキングを決める」イメージになりがちですが、個人的にはそれぞれの作品で良さがあると思っています。フリーゲームの面白さって、「作りたいものがむき出しになっている」という作家性にあると感じるんです。担当していたコンテストでは一度、バグで進行不能になる作品に賞をあげたことがあるのですが、作品を遊んだ方から「重大なバグが存在するのに、なぜ受賞させたのか」と怒られたことがありました。でも、それには理由があって、完成度の高さというよりはアイデアや作家性に素晴らしいものを感じたので、選出した次第ですね。

――お仕事としても趣味としても、これまでに多くのコンテンツを見られてきたのですね。お二人がこれまでプレイしてきた中で、心に残ったフリーゲーム・インディゲームはありましたか?

杉内氏
私はホラーゲーム『コープスパーティー』ですね。当時のゲーム制作ツールの制限の中で、非常に多くの工夫をされていた作品だと思います。製作者のチームグリグリさんには、SMILE GAME BUILDERのダウンロードコンテンツとして、『コープスパーティー』キャラクターの3Dモデル制作などもお願いしています。

もうひとつは『To The Moon』ですね。海外発の作品で、RPGツクール製です。いまでは日本語翻訳もされており、海外のインディゲームの賞も複数取っていました。このゲームは戦闘が存在しないので、RPGというよりはインタラクティブなストーリーテリングですが、余命幾ばくもない人の精神世界を2人組が冒険するというSF的な物語です。続編も作られているようで、楽しみですね。

――たしかに両作品ともに、ゲーム制作ツールを上手く使いこなした作品ですよね。重歳さんはいかがですか?

重歳氏
私は『青鬼』ですね!運よく、ゲーム実況などでブレイクする前に遊ぶことができて、とにかく当時は「演出の巧みさ」に驚かされました。以前からグラフィックなどに凝った作品は出始めていましたが、見せ方ひとつで、こんなにも怖くなるのかと。たとえば、細かいですが青鬼の出現と同時にBGMの切り替えが行われる部分とか、雰囲気の出し方に一役買っていると感じました。総合的な作りこみが凄いなと思います。

常日頃、私もゲームを作りたいと思っているので、ゲームを楽しむのももちろんですが、これはどうやって作ったんだろう?と作者さんの気持ちになって分析してしまいますね(笑)

「SMILE GAME BUILDER」に込めた想いとは?

――お二人とも、ながらくフリーゲームに携わってきたのですね。ここからは、本題のSMILE GAME BUILDERについてお聞きしたいと思います。このツールはプログラミング不要の3DRPG制作ツールですが、2Dのゲームエンジンが多い中、「3D」で「お手軽に」という特徴に珍しさがあると思います。どういった経緯で開発されたのでしょうか。

杉内氏
当初、ベースは2Dで作ることを考えていました。しかし、2Dのゲーム制作ツールはすでにたくさんある状況。そんな中、自社の「KMY」という3D描画エンジンがあったため、それを使用して実験的にマップなどを作ってみたんです。そこで良い具合のサンプルを制作できたので、3Dの方向に舵を切りました。

2015年5月頃から開発をスタートして、今年9月に第一段階としては完成、Steamで販売開始しました。今後、さらにアップデートやダウンロードコンテンツの追加などを続けていきます。

Steam内 SMILE GAME BUILDER公式ページ

杉内氏
このツールは「RPGを作る」ことももちろんですが、まずは複雑な作品ではなく「お話を楽しめるようなゲーム」をつくってもらうこともコンセプトです。

それゆえ、既にほかのツールを使いこなしてきた人からは、高度な機能が少ないために「少し物足りない」という感想を持たれるかもしれません。しかし、現在のバージョンでも、当初の予定よりはやや高機能化に寄っているかなと感じています。今後も、プログラム技術なしで作れることを意識したアップデートを行っていく方針です。

――なるほど。それでは、今後の具体的なアップデートの内容はどういったものになるのでしょうか。

重歳氏
現在は、「表現力の向上」という点で、12月23日にリリースされた「3D戦闘システム」や、さらなる機能追加などを考えています。

私の考えとしては、10人中、熟練者の2、3人が楽しめるハイレベルなツールも面白いとは思うのですが、その例で言うと、SMILE GAME BUILDERは「10人中9人が楽しめる」ということを目標にしたツールです。

このツールは「ユーザーが努力しなくても楽しめる」とを重視したいんです。もちろん「ゼロから努力して3Dモデルを作る」といった楽しみもキープしたいですが、そこを強いてはいけないと思っています。努力の差はあってもいいけど、技術の差はなるべくだしたくないんですね。難易度が高かったり、プログラミングスキルが必要だったりすると、ゲームを作れなかった時に、ユーザーの方が「やっぱり、難しいからだめだ」となってしまうかもしれない。それは避けたいんです。

ゲーム作りに挫折することは辛いことなので、なるべくそういった苦しさを無くす方向を目指したいです。なので、SMILE GAME BUILDERを使う中で「特定の知識がないと作れない」という格差はつけたくなく、高機能化は要望として考慮しつつも、誰でも手軽に楽しめるバランスを考えていきたいです。

杉内氏
もちろん、開発を行う中で頂いたご意見や、SNS上でのユーザーさんとのやりとりなどは開発に反映していまして、アップデートの方向性や優先度も調整しつつ制作しています。

ゲームの中身を見て実装を学べる仕様や、ユーザ支援策など

――「誰でも楽しめるツールである」ことを目指したいのですね。現在、公式ページには、『ドラゴンクエスト』の堀井雄二氏の元スタッフであった折尾一則氏の制作したRPG『グランブーム国物語』も公開されていますね。

杉内氏
この作品は3-4時間ほどでクリアできる王道RPGとなっていて、ゲーム制作の見本としても遊んでほしい作品です。ゲームの実装自体は、ツールを使用したゲーム制作を得意とする吉村信彦氏に組んでもらいました。

SMILE GAME BUILDERを持っている人であれば、本作の中身を覗いて編集できるゲームファイルも配信しているので、ゲームの作り方、マップの作り方など、参考にしてほしいです。また、本作自体を改造してより良い作品に仕上げてもらってもいいですし、物語を膨らませて、自分だけの続編など自由に作ってもらってもOKです。

 
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『グランブーム国物語 ~ スマイルと目覚めし力 ~』
 
――これまでにユーザーの方が制作したゲームの中で「これは面白いぞ」と思った作品はありますか?

杉内氏
いまはツールがリリースされてから日が浅いので、みなさん試行錯誤して作っている段階だと思います。さいきん、アイデアを感じた作品は『暗闇ヘブン』ですね。要バランス調整な面も見られるのですが、魔物が近づいてくるとアラートが鳴るシステムなどが面白かったです。

このゲームは、通常のマス目移動ではなく、FPSゲームのような主観視点で自由な移動が可能です。先日のツール本体のアップデートで、主観視点時のカメラの自由制御が可能となったので、その機能を使って制作されているようです。紹介動画では、このゲームをどうやって作ったのかという実装説明などもありますね。

『暗闇ヘブン☆』紹介動画

――RPGという枠に留まらない自由な制作ができるのですね。主観視点で3Dマップを探索するホラーゲーム『私はここにいます』や、視点を切り替えながらダンジョンを脱出するアドベンチャー『魔王の城とキアラ姫』 といったユーザーゲームも増えてきています。

『私はここにいます』紹介動画

重歳氏
アイデア次第で様々なゲームを作って欲しいですね。機能を全て使う必要はなくて、ツールの機能ひとつひとつがヒントになればと思っています。編集可能なゲームファイルがあれば作品の中身を見ることができるので、実装はどうなってるんだろう?と気になったら、中を見て参考にするのもいいかもしれません。

 
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『魔王の城とキアラ姫』
 
――現在もいくつかのダウンロードコンテンツがリリースされていますが、今後に関してはいかがでしょう。

杉内氏
現在リリースされているDLCは3Dモデルや音楽素材がありますが、一番売れてるのはやはり3Dモデルですね。今後も継続して、先ほども話した『コープスパーティー』のキャラクターの3Dモデルなど販売予定です。

また、DLCに関しては、3Dデータや音楽を提供してくださる方を募集しています!実は、海外のユーザの方からは既に提供のお話をいただいてまして、SteamストアでDLCとして販売させて頂く予定です。

販売方式については、基本、売上に応じて利益を分配するレベニューシェア形式でお願いしております。また、3D、音楽だけでなく、SMILE GAME BUILDERで利用可能なデータならなんでも大丈夫です。開発補助ツールもありですね。今後も、お声がけ頂ければ、ご相談の上で販売させていただきたいです。

――ユーザーに対する制作支援などについてはいかがでしょうか?

重歳氏
例えば、ゲーム投稿サイトのような、ユーザー作品を手軽に公開できるサービスなどを作りたいと思っていますが、まずはツールのアップデートを優先したいと考えています。現状は面白いと思った作品を、公式のユーザーページでピックアップしていくことから始めたいです。

――インディゲーム販売イベント「デジゲー博」に出展されていた際は、VR対応のデモも展示されていましたね。

杉内氏
VRコンテンツ制作を教えている学校関係者の方から「制作用のツールを難しく感じる学生もおり、VRコンテンツが中々作れない。SMILE GAME BUILDERで手軽に作れるようにならないか」という話がありまして、それがきっかけですね。VRは表現の一つとしてはアリだと思いますが、このツールのユーザーが一番求めているものかというとそうではないと思うので、これに注力するかはまだわからない状況ですね。

本日行われたアップデートでの新機能を紹介!

――12月23日に、SMILE GAME BUILDER本体のアップデートが行われました。その中で目玉となる新機能などがありましたら教えてください。

杉内氏
「3D戦闘システム」ですね。この機能によって、敵味方ともに3Dのモデルを使った戦闘シーンを作ることができます。

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これまでの2D戦闘画面

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アップデートで追加された3D戦闘画面
 
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杉内氏
これまで戦闘画面の敵グラフィックは2Dイラストでしたが、このアップデートで3Dモデルも使用できるようになります。ゲーム全体の設定として、戦闘シーンを2Dか3Dにするかを選択可能です。

戦闘中のカメラワークも設定できるので、作る人によって戦闘シーンに個性を出すこともできるかなと。カメラアングルを変えるだけでも、さまざまな演出のバリエーションが作れるようになっています。

重歳氏
3D戦闘での背景画面も、プリセットで用意されたものもありますが、マップエディタでユーザーが作った背景や画像を使うこともできます。その際はマップの中心がバトルシーンとして表示されますね。

3D戦闘画面ではキャラの持ってる武器も表示されるので、武器によって表示を変えることもできます。武器のモデルも加工することができます。

――なるほど。バトルシーンでの表現力を上げることができる機能なのですね

重歳氏
また、3Dモデルのバリエーションはこちらでも増やしていく予定ですが、3Dモデルやパーツ自体を作ってくれる人も増えてくれると嬉しいので、ユーザーが手軽に作れるような仕組みを考えています。
杉内氏
そのほか、今回のアップデートにて「デジゲー博」で出展したVRモードのβ版を追加しました。VRヘッドマウントディスプレイのHTC ViveかOculus Riftを持っていれば、SMILE GAME BUILDER本体から自作ゲームを起動してVR体験可能です。建物内を一人称視点で歩くことや、箱庭のようなマップを俯瞰視点で見回すことができます。

今後もさまざまなアップデートを行っていく予定ですので、ぜひ、ご期待いただければと思います!

今後、SMILE GAME BUILDERに関する連載を掲載予定!

今回伺ったお話では、杉内氏、重歳氏の両名のフリーゲームとの関わりから、ツールに込めた思い、今後の展開までを語って頂いた。これからのアップデートなども楽しみにしたいところだ。

今回、紹介したSMILE GAME BUILDERは下記のページから購入可能となっている。ご興味持った方はぜひ購入してみてはいかがだろうか。

Steam内 SMILE GAME BUILDER公式ページ

なお、もぐらゲームスでは来春まで、SMILE GAME BUILDERに関する連載企画を予定している。詳細を順次お伝えしたいと思うので、こちらもお楽しみ頂ければ幸いだ。

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。