「欲しい」と思われるものを作る―ゲーム開発者SmokingWOLF氏インタビュー(後編)

インタビュー,インディーゲーム,フリーゲーム

前編に続いてお送りするゲーム開発者SmokingWOLF氏のインタビュー。インディゲーム開発者としてSteamなどでゲームを販売しての気付き、そしてゲームエディタであるWOLF RPGエディターについての話を伺った。

インタビュー前編はこちら
ゲームの半分はフリーゲームとして作り続けたい ―開発者SmokingWolf氏インタビュー(前編)

「欲しいものかどうか」が一番重要

――片道勇者は、Steamでの販売も開始しています。海外販売もそういった意味では収益化の方法の1つだとは思いますが、最近徐々に増えてきている日本のインディゲームの海外展開についてはどうお考えでしょうか

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『片道勇者』はSteam版も現在販売されている

SmokingWolf
海外で売りやすいジャンルとそうでないジャンルもあると思いますが、ローカライズコストより儲かりそうな予感がするならぜひ挑戦していくと面白いと思います!

とはいえ、私は一人では海外展開していなかったでしょうね。英語を学ぶモチベーションや法律知識、企業としての看板などあらゆるものを持っていなかったので、PLAYISMさんに間に入ってもらってとても助かってます。

なお、Steam市場は片道勇者販売当時よりも門戸が開かれた分、新規参入が難しくなっている印象があります。作品が毎日たくさん登録されてしまうので、Steamトップページに載る新作ゲームは人気のものだけに限定されるようになったのです。

昔は「Steamにさえ載れば一定以上売れる」という雰囲気が強い印象だったんですが、今はもはやそうではないですね。Steamで8月発売予定の『片道勇者プラス(DLC)』について「ヤバいかも……!」と私がつぶやいてるのもそこで、もはやSteamは楽園ではなくなっているので、結果がどうなるか本当に分かりません。うまくいくといいんですけれどね。

――門戸が開かれたというと、たしかに数年前ですと、「日本のインディゲームが、海外向けにSteamで販売開始した」という事例自体が話題になっていましたね、いまとは事情がかなり変わっている印象です。

SmokingWolf
はい、まさにここ1年くらいで状況が激変したように思います。『片道勇者(One Way Heroics)』はいいタイミングでSteamに滑り込めたと言えるかもしれません。

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『片道勇者プラス』では既存の要素のほかに追加された要素もあり、既存プレイヤーでも楽しめる内容になっている

――片道勇者は結構いい感じに売れているということでしょうか?セールなどの後押しもあるかと思いますが。

SmokingWolf
Steamで売れてる『片道勇者』そのものはけっこう健闘しているようです。海外のセールは値段を半分以下にすると2倍以上売れたりするので、セールのタイミングは本当に助けになってます。

――おおー。半額セールは、しっかりと効果があるんですね!!

SmokingWolf
はい、海外だとゲームの価格弾力性が大きいんですよ。一方で、日本だとそれが非常に小さいようなんです。海外では安売りして日本では企業さんがゲームを高値で売ってたりするのは、それなりの理由があるんですね。

――そこはやはり国の違いがあるのですね…。そういった環境も視野に入れる必要があると

SmokingWolf
ユーザの方には申し訳ないんですが、私はこれから日本専売のゲームに関しては1000~2000円くらいのお値段で販売させていただくことを心に決めました。もちろん、開発期間や内容によってこの幅は変わると思いますけれどね。

――逆に言うと日本の場合は安売りをしなくても、欲しいゲームにはお金を出す土壌があるのかもしれないですけどね。海外はとりあえず買うみたいな流れもありますから…

SmokingWolf
はい、日本で売るためにはまず「欲しいものかどうか」が一番重要な気がしています。それを満たすのが本当に難しいんですけれどね!

――ほしいと思われる、ことですね(笑)その根源的な部分はしっかりと変わらないわけですね。

ウディタ誕生の経緯

――そのようなゲームを制作に挑まれる方々に提供するツールということでそろそろ、ウディタ(WOLF RPG エディター)の話題に移っていきたいと思います。こちらも色々なインタビューで既にお答えいただいてると思いますが、ウディタ誕生の経緯を教えていただけますでしょうか。

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ゲーム制作ツール「WOLF RPG エディター」の制作画面

SmokingWolf
誕生のきっかけとして一番大きいのはRPGツクールXPが出た後、しばらく次のツクールが出る気配がなかったことでしょうか。

どちらにせよ自分が長くゲーム開発を続けるつもりなら、ゲーム資産を維持するためにもいつか自分用の開発ツールを作った方がいいと考えていたので、ちょうどそのタイミングでウディタを作り始めたんです。たとえ普及OSがWindowsでなくなったとしても自作であれば動作プログラムを差し替えるだけで動かせるようになるわけで、半永久的にゲーム資産を活かせますからね。

――なるほど、いまでこそ一般ユーザーに広く使われていますが、当初はご自身の開発ツール用として考えていたんですね

SmokingWolf
はい、完全に自分専用のつもりでした。結果として皆さんにもご利用いただけているのは本当に嬉しい限りです。何より、皆さまのバグ報告やご意見などがなければここまでの機能向上はなかったでしょうね。

――ユーザさんのフィードバックがあってこそだったのですね。自分専用のツールから、webに公開してユーザに広く提供しよう!と考えたきっかけなどはあったりしますか?

SmokingWolf
そこがよく思い出せないんですが、公開することでバグ修正の効率が格段に上がるだろうという見込みはありました。その点に関しては本当に皆さまにはお世話になっております。

――そんなウディタですが、今では作品もどんどん増えてきて、有名作も増えてきていますよね。もぐらゲームスで取り上げる作品もウディタ製のものが多くなってきました

SmokingWolf
ありがとうございます!他にも色々いいツールあるんじゃないのという思いも少しありつつ、ウディタを使って作ってくださっているのは素直に嬉しいですね。

――ウディタで作られたゲームの投稿イベントである「ウディコン(WOLF RPGエディター コンテスト)」を今も開催されていますが、ウディコンを始めたのは感謝祭的な意味合いだったのでしょうか?

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ウディタで制作されたゲームの投稿コンテスト「ウディコン」。ユーザー投稿によって、質の高いゲームが数多く投稿される

SmokingWolf
確かその当時、非公式で行われていたウディタのコンテストが面白そうだったので、ぜひ公式でもやってみようという話になった記憶があります。実際やってみると、多くの作品に触れることで自分のゲーム開発にも使えそうな様々な知見を得られる元になったので、とても有用なことが分かりました。今も続けているのは、半分以上は自分のためです。

―― なんと最初は非公式だったんですね。確かに自分で作った制作ツールでどんなゲームが作られているかを把握するためにはピッタリの企画ですね。

SmokingWolf
そうですね。それに加えて、「どういうゲームを作るとどういう反応が得られるのか」というパターンを俯瞰的な目で何十作品分も見ることができるので、それがものすごくゲーム開発経験値につながっています。普通は自分が1本作ったら1本分の反応しか得られませんからね。ウディコンのおかげで視野が広がった気がしています。

――作品とそれに対するフィードバックは公開されているので、参加されている皆さんもそうですし、見ているだけの方も見れますから、ウディコンはゲーム開発のヒントに満ちているということですね・・・!

SmokingWolf
はい、同じタイミングで遊んで、並べて比較できるというのはとてもいい勉強になっています。比較される側としてはたまったものじゃないよという感じかもしれませんが!ただ、ゲーム開発は少なからず競争の側面がありますから、自分でも取り入れられそうないいところはどんどん学んでいきたいですね。

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2015年開催された第7回ウディコンの総合1位を獲得したお菓子屋さん経営シミュレーション『キャンディリミット』。一筋縄ではいかない独自性が込められているゲームだ

――現状、WOLFさんご自身の創作とウディタのサポートを並行していますが、今後はどちらに注力していきたいですか?

SmokingWolf
実はウディタのサポートがここ数年完全に途絶えちゃっているんですよね。食べていくためにも今は自分の創作のほうが重要です。その途上でウディタの修正が必要になったら随時修正を行っていくスタイルです。

とはいえ、さすがに今やってることがひと段落したら山ほど積もり積もったウディタのバグ修正やアップデートなど行っていく予定です。ユーザの皆さまには長らくお待たせして申し訳ございませんが、もう少々お待ちいただけると幸いです。

――となるとウディタのアップデートなどはしばらくはないということなんですかね。先になってしまうとは思いますが、実装したい機能などあったりしますでしょうか。

SmokingWolf
P2P接続で通信できるような機能をいずれ付けたいなと思っていたんですが、しばらくサポートが行われていない間に世間がほぼ完全に16:9のディスプレイに入れ替わってきてしまったので、ウディタで選択できる解像度をまずどうにかしたいなと思っています。

というのも、ウディタはいまだに4:3の画面表示のみしかできないんです。さすがに時代遅れだと『片道勇者』でも言われてしまいました。そういうわけで、選択可能な解像度を増やすのが当面の目標になるかなと考えています。

――後に、一人のゲーム制作者でもありゲーム制作ツールを通した支援者として、現状の日本のフリーゲーム、インディゲームの状況について、何か思うところはありますか?

SmokingWolf
今は自分が生きていくのに精一杯で、全体の状況に注視する時間が確保できておらず何とも言えません。たとえばフリーゲーム一つ取っても、私の時間で現状をまともに知るには世界が広すぎて追いついてない状況です。さらにその内のウディタ製のものですら、作られたソフトや情勢を把握することが不可能に近くなっていますしね。

ただ逆に言うと、トレンドが分からなくても開発者としてはあまり困らないのかな、という気もしています。今の時代に片道勇者みたいな2D RPGを作ったりしていますが、想定よりもたくさんの方々に評価していただけていて、遊んでくださった皆さまにはとても感謝しています。周りのトレンドを読む必要がない点は本当にフリーゲーム、インディゲームの世界のいいところかもしれません。

ということで、ゲームを作ってみたい皆さまも、ぜひ自分の信じたゲームを作っていただければと思います!

――ありがとうございました。

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。

  • すんくぼ(@tyranusii

    学生時代、MMORPG「リネージュ」で朝から晩まで飽くことなきレベル上げと戦争に没頭する毎日を送る。本業では廃人卒業後、国家公務員を経て、再びゲームの世界へ。「もぐらゲームス」を立ち上げました。ハマったゲームはライブアライブ、ファイアーエムブレム 聖戦の系譜、デモンズソウルなど。
    個人ブログもやってます:もぐらかペンギンか