新感覚“50音表”弾幕ローグライト『スペルトナエル』インフレ数字が飛び交う壮絶な魔法バトル勃発!?
主にロールプレイングゲーム(RPG)をよく遊ぶ人であれば、上記スクリーンショットの50音表を見て、「これは名前を入力する画面だな」と考えたと思われる。まさしくその通りだ。正確にはスクリーンショットにも記されているが、魔導書に記された「呪文」を入力する画面である。
そして、これこそが本作のメインゲーム画面にして、戦闘シーンである。
つまるところ本作、『スペルトナエル』というゲームは、カタカナ50音表の上を走り回って呪文を唱え、敵を倒すゲームということだ。
もうひとつ付け加えるなら、弾幕をよけながら……である。
そして、ローグライクのシステムを採用しているので、ゲームオーバーになれば最初からやり直しである。ただし、慈悲は多少ある。
50音表の上を走り、呪文を入力して魔法を放て!
改めて本作『スペルトナエル』は、2024年9月13日よりPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で販売中の50音表弾幕ローグライトである。公式には「デッキ構築文字盤弾幕ローグライト」のジャンル名が付けられている。
なお、最初にお伝えしておくと本作、割と素早い操作が必要されることから、キーボードによるプレイは非推奨。そのため今後、本作を遊ぶ予定のあるプレイヤーに向けては、なるべくゲームパッドを用意しておくようにと、大きな声で呼びかけておく。
話を戻して、ゲームの内容を簡単に紹介すると、1対1形式の戦闘を繰り返していくというもの。ローグライトと称したように、戦闘中に体力が尽きるとゲームオーバーとなり、最初の戦闘からやり直しになる。また、制限時間の概念もあり、これが0になってもゲームオーバー。最初の戦闘からやり直しになる。
戦闘を繰り返す構成に関しては、ノンフィールド型RPGとほぼ同じと言えばイメージしやすいだろう。なお、戦闘相手の順序はランダムではなく、固定パターンとなっている。
そして、本作最大の特徴が「呪文」。冒頭で言及したように、本作の戦闘ではカタカナの50音表が常時、画面中央に表示。その中央上部分の魔導書に記された「呪文」の文字を50音表から選んで入力し、魔法を発動して敵への攻撃を展開していくのである(※ちなみに魔法は2種類以上まとめて発動可能。呪文に被りとなる文字が存在することが条件)。
文字の入力は「ハート」を操作し、該当の文字のある場所まで動かす感じだ。戦闘画面の通り、画面左端には本作の主人公「ツーシュペート」も待機しているが、彼女は操作対象ではない。基本はハートを動かし、文字入力を実施していくのである。
しかし、文字の入力中には敵の攻撃(弾幕)が来る。ツーシュペートは当たっても無傷だが、ハートが当たってしまうとダメージ。それがそのままツーシュペートのダメージに変換されてしまう。よって、入力の際は弾幕をよけることが必須。そんなシューティングゲームばりの立ち回りをしながら、呪文の入力および魔法の発動をこなしていくのだ。
なお、魔法は攻撃のみならず、ツーシュペートの体力回復、ステータス強化を図るものもある。特にステータス強化は極めて重要で、魔法を使うたびに効果が永続する。それを重ねがけして十分な強化を図っていかないと、後々相手になる敵に全然ダメージを与えられなかったり、1発受けるだけで即ゲームオーバーといった“行き詰まり”を招く。
強力な魔法を増やしていくことも重要だ。本作は日数単位で本編が進行。1日は昼と夜の2つの時間帯があり、昼は戦闘、夜は魔法ショップの開店となる。時間帯を移行させる条件はシンプルで、戦闘に勝つだけ。勝てなければ夜は訪れぬ。
そんな夜の魔法ショップが新たな魔法の調達手段となる。ショップなので当然、手に入れる際にはお金が必要。お金自体は基本、戦闘に勝利するたびに手に入るが、購入可能な魔法は所持金の総数に応じて変化。基本、お金が少なければ弱い魔法しか購入できないという具合に選択肢が狭まる。よって、強力な魔法を買いたければ、金を稼いで貯め込むしかないわけである(なお、戦闘決着までの時間が短く、かつ与えたダメージ量が大きいほど得られるお金の額が増える)。
ただ、強い魔法を買ったからといって必ずしも戦闘が楽になりはしない。強い魔法ほど呪文の文字数が多く設定されているのだが、その分、入力に時間と手間を要するためである。さらに戦闘中に使える魔法は最大4種類まで。5種類以上の魔法を所持していると、残りはランダム切り替えになるため、戦術・戦略面で不確定性が増すのだ。ゆえに購入時にはそのデメリットも考慮しなくてはならない。
やること自体は50音表の上を移動し、呪文を唱えて魔法を繰り出すだけとカンタンだが、以上のような考える事柄が多く、容易にはいかない。むしろ、遊べば意外なほど頭を使う作りであることに驚かされるだろう。これこそがデッキ構築文字盤弾幕ローグライト、あるいは50音表弾幕ローグライトとも言われるゆえん。仕組みもさることながら、戦術・戦略面でも独自性を際立たせたゲームに仕上げられている。
飛び交うインフレ数字!それでいて、高い戦略性が表現された練られたゲームシステムとバランス
そんな本作の見所はインフレ数字の殴り合いである。
本作の戦闘は、主人公「ツーシュペート」のステータスの数値を可能な限り上げ、それを攻撃魔法とともに相手に直接ぶつけるのが基本戦術になる。まさにデカい数字を直接叩き込む殴り合いなのだ。そして、そのインフレぶりが凄い。
上記スクリーンショットの通り、普通に億を超える。それどころか、強化によっては兆超えすら起こす。
そんなにも桁数の大きな数字が画面いっぱいに仰々しく広がるのもあって、見ているだけでも楽しい。さながら“オモシロ気持ちいい”とも表せる、妙な爽快感と高揚感を味わえるものになっているのだ。
それでいて、ローグライト特有の戦略性もバッチリ。これが本作のゲームとしての大きな魅力に当たる。
そもそも桁数の大きな数値自体、最初から出せる訳ではない。そこまで行くには、前述したようにいくつかの戦闘でステータス上昇の魔法を何度も詠唱し、重ねがけしていく必要がある。また、敵も最初こそ1~2桁程度のステータスの相手が大半を占めるが、途中から一気に4桁までに上昇して急激に手ごわくなる。そのような相手に押し負けないためにも、魔法によるステータスアップは決して避けられない。
だが、戦闘には制限時間がある都合、延々と強化を図れない。魔法にしても、前述したが購入できる種類は所持金に応じて選択幅が決まる。そして、強い魔法を手に入れたいならお金を稼ぐことが必須だ。ところが、そのためには戦闘を早期に決着させる必要があることから、ステータス上昇の機会が狭まる恐れも付きまとう。
それらを乗り越え、いざ強い魔法を手に入れても盤石とはならず。魔法の呪文が長ければ、効率的な攻撃や強化がやりにくくなる弊害が生まれる。また、魔法の中には全ステータスを上昇させるお得なものもあるのだが、そこにも「うまい話には裏がある」を体現した罠がある。
これに加え、魔法を詠唱するのは戦闘ゆえ、敵の攻撃をよけたり、防ぐ策を講じることが要求されるのだ。以上のような考慮しなければならない事柄が多数あることから、桁数の大きな数値を出す道のりは結構険しい。ちゃんと戦略を立て、時にアドリブな対応を取る覚悟も試される、なかなかに侮りがたいゲームバランスになっているのだ。
数値の大きさから、大味なイメージを抱く人もいるかもしれないが、遊べばその意外な調整に唸ってしまうだろう。また、魔法の組み合わせ……主に呪文の文字を踏まえた選出も結構大事。なぜなら、本作は50音表の上を走り、一文字ずつ入力していくゲーム。文字の配置が近かったり、文字が被る呪文があれば、相応に沢山の魔法を出せるチャンスが到来するのだ。
いわゆる「ビルド」作成だが、本作は呪文と50音表という2つの要素で独自の面白さを演出。まさに本作のゲームシステムならではの組み合わせを考える楽しさと、その戦略を実行する楽しさが凝縮されているのである。
ここもまた唸る部分であると同時に、本作のローグライトとしての完成度の高さ、独自性が現れた箇所だ。本当にやればやるほどに「この手があったか!」と膝を叩きたくなる面白さ。そして、考える要素が豊富なりに時間も吸われやすい圧倒的な中毒性がある。
とは言え、ゲームオーバーで毎回最初からやり直しになるなら、むしろ中毒になる前にモチベーションが殺がれるのでは……と思うかもしれない。だが、そこにも強烈な要素を用意。その名も「強くてはじめから」!
実は本作、ゲームオーバーになると1個だけ、お気に入りの魔法を選べる。そして「強くてはじめから」を選ぶと、そのお気に入りの魔法を選んだ状態でスタート。最序盤からその力を振るいながら戦えるようになるのだ。つまり、後半の戦闘で負けたとしても、その時に強力で高価な魔法を手にしているなら、それを引き継ぎ対象にできる。その圧倒的な力を振るえるようになり、勝率も上がる。
そんな周回時の希望を抱かせる仕掛けもあって、やめられない止められないのスパイラルに陥るのだ。ちなみにお気に入りに選んだ魔法はタイトル画面の「データ」にある「魔法図鑑」にも記録され、いつでも「強くてはじめから」用に呼び出せるようにもなる。
しかも、強い魔法を引き継いだからといって、簡単になる訳ではないのがミソ。1種類だけゆえ、強化できるステータスには偏りが生まれやすいので、他で補う必要が出てくるのだ。そして、そのために前述した戦略を考えることも必要になってくるのである。
この辺りも「よく考えられている……」と唸ること間違いなし。そして、打開に向けた思いから繰り返し遊んでしまい、気付いた頃には時計の針が急激に進んでいたことに血の気が引く思いをすることになるだろう。
長々と書き綴ったが、そうも本作はローグライトとしての戦略性はもちろん、各種要素のバランスとシステム面の工夫が非常によく出来ている。インフレっぷりも面白気持ちいい部分であり、本作の最もセンセーショナルな箇所だが、実は真の魅力はシステムにあり。繰り返しになるが、唸ったり膝を叩きたくなる見所がてんこ盛りなのだ。
実質、結論に等しいがローグライト、具体的にはデッキ構築型が好きならば本作はぜひプレイいただきたい。きっと、時間を忘れて没頭してしまうのみならず、呪文と50音表という題材によって実現した革新性の虜になってしまうはずだ。
数多くの秘密が隠された心揺さぶるストーリーにも注目の新感覚ローグライト爆誕
ゲームシステムのみならず、ストーリーの完成度の高さも見逃せない部分だ。
内容としては、文字を書くだけで簡単に魔法を詠唱できる、不思議な魔導書を手に入れた主人公のツーシュペートが冒険に出るというもの。その20日間におよぶ模様をプレイヤーは追体験していくのだが……実は、そこに思いもしない事実が隠されている。
その詳細を語ることは一切できない。ひとまずは最終目標として掲げられた20日目への到達を目指してみてほしい。そして、全力でツーシュペートに寄り添っていただきたい。むしろ、そうならざるを得ない使命感に追われることだろう。
このストーリーもやめられない止められない中毒性を引き立てる、ひとつの見所にもなっている。詳しく語れないのがもどかしいが、体験すれば見所たる理由を痛感させられるはずである。同時にこのゲームがより一層、忘れられないものになるだろう。
ストーリーとも関連する部分で、演出面も迫力のある仕上がりになっている。とりわけ桁数の大きな数値が飛び出す際の演出は仰々しさ全開。弾幕をギリギリ回避しようとした時、カメラがハートにクローズアップして、スローモーションになるのも迫真で、思わず身が引き締まってしまうこと請け合い。グラフィックもキャラクターのドット絵の動きが可愛らしく、特にツーシュペートは必見だ。
他に操作周りについても、基本的に戦闘では方向キー(コントロールスティック)とごくわずかなボタンしか使わないため、非常に取っつきやすい。ボリュームも1周は10~20分ほどだが、全300種類にもおよぶ魔法の回収からストーリーにおける“仕掛け”といったやり込み要素が膨大で、それらもコンプリートするとなれば数十時間を要する。仮にビルドの可能性を追求したい思いが湧きたったら、もう色んな意味でやめられない止められないになってしまうだろう。言い方を変えれば100時間コース、全然あり得ますよ。
総じてゲームシステムからストーリー、演出まで高いレベルでまとまった本作。気になる点はゲームプレイにおいてはほぼないのだが、魔法ショップ周りでは、魔法の購入が即決形式で意図しない魔法を購入してしまう事故の可能性が付きまとうなどの気になる部分がある。
また、ショップでは売却も可能なのだが、その時に攻撃魔法をすべて売却してしまって、次の戦闘でのゲームオーバーが確定した時に「負けますよ?」的な警告は筆者個人としては欲しいと思ってしまった。そういう事故に何度か見舞われたためである。不注意と言われればそれまでなのだが、その辺がフォローされればより洗練されるのではないのかと思った次第だ。
とにもかくにも、前述したようにローグライト……デッキ構築型が好きにはイチオシ。単純にゲームシステムやストーリーに軽く興味を抱いただけの方もお試しいただきたい。価格にして税込320円ととってもお手軽なので、手も出しやすい。それでいて100時間以上も遊べてしまう余地を持ったとんでもないゲームになっている。この驚きの傑作を見逃すなかれ!
[基本情報]
タイトル:『スペルトナエル』
開発:おまど
クリア時間:20分(1周)、5~12時間(エンディング目的)
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):320円
◇購入はこちら