素直に遊べる”雰囲気系”横スクロールアクション『System Purge』真実に迫る者は”処分(パージ)”される。
たったひとりの主人公。
謎に満ちた世界。
危険な罠の数々。
試行錯誤が求められるパズル。
少しでも動きを間違えた先に待つ死。
不穏な空気とホラー要素。
ノンストップの1本道構成。
それらと共に描かれる語りすぎないストーリー。
これらの特徴を持つ”雰囲気系”、もしくは”映画系”とも称せる類の横スクロールアクションゲームは、2010年発売の『LIMBO』のヒット以降、インディーゲーム界隈では頻繁に見られるようになった印象がある。
2022年現在も影響を受けたと思しき新作は誕生し続けている。
今回紹介する『System Purge』もそのひとつ。
ただ、本作は全体的にアクションゲーム寄りの作品である。
地下施設の深部へと迫る、ノンストップの横スクロールアクション
物語は夕暮れ時の平原から幕を開ける。
ある日、散歩をしていた主人公と友人は施設の廃墟と思しきものを見つける。
興味本位で2人は廃墟へと足を踏み入れるのだが、間もなくセキュリティシステムが起動。足場を崩して2人を地下へと落下させた後、気絶していた友人の方をアームで捕縛し、どこかへと連れ去ってしまった。
やがて目覚めた主人公は、施設内のモニターを通して友人とのコンタクトに成功。その救いを求める声に導かれるがまま、主人公は施設の奥を目指して歩み始めるのだった。
以上のオープニングを通す形で本編は始まるようになっている。
基本的な内容は横スクロールのアクションゲームである。
システム周りはいわゆる”雰囲気系”などと称されるアクションゲームを踏襲。地続きで1本道構成のステージ、罠などに1回でも接触すれば瞬時にやられる1ミス制、それに伴う高速リトライ機能、残機制の廃止といったものが採用されている。
本編は短めのステージを順番に攻略していく形で進行。各ステージのクリア条件は、右端の出口に到達するだけと非常に単純なものになっている。
また、一定数のステージを攻略し終えると、エレベーターが設置された場所へと到達。それに搭乗すると一連のステージが設けられた「セクター」全体のクリアになり、次の「セクター」へと移る。そしてまた、短めのステージを順番に攻略していくということの繰り返しだ。この辺も”雰囲気系”と称されるアクションゲームの定番を押さえた作りになっている。
少し異なるのは前述にて言及した”アクションゲーム寄り”なこと。さして革新的というほどでもないが、全編がアクションゲームに徹している。つまるところ、パズルや謎解きなどは一切ない。ゴールへと繋がる進路を確保するため、試行錯誤を繰り返すみたいなことがなく、終始アクションゲームとして楽しめる内容にまとめられている。
また、アクション及びその操作感も単純で癖がない。生身の人間を動かしているような手触りを表現すべく、挙動を鈍くする調整はなんらされておらず、プレイヤーの思うがままキビキビと動かせる設計になっている。
アクションも単純で、基本的にできることは移動とジャンプ(+モニター、エレベーターの起動)。ゲームが進むと新たなアクションを体得し、行動範囲が広がるみたいなことは一切なく、最初から最後の最後まで移動とジャンプの”方向キー+ワンボタン”の操作に徹した展開が繰り広げられる。どんなに新たな障害が立ちはだかろうが、大半は移動とジャンプで解決。まさに”シンプル・イズ・ザ・ベスト”を地で行く作りになっている。
このほか、アクションゲームに寄っていることから全体的な進行テンポもよく、クリアに要する時間も短め。慣れれば1時間以内の攻略も可能だ。ただ、ステージ総数は多く、後半になるほど仕掛けも過激化。正規ルート外に設置された「モニター」を起動させる寄り道要素も備わっているので、決して楽勝とは言い難い程度にやり応えは十分である。
いずれも特徴もアクションゲームとしては至って普通、王道とも言えるものである。ただ、作風的にいわゆる”雰囲気系”でありながら、テンポの良さとアクションゲームに徹しているのはそこそこ個性的。同時にこれ以上なく”シンプル・イズ・ザ・ベスト”を実感させられる、取っつきやすさに秀でた”雰囲気系”アクションゲームに仕上げられている。
アクションゲームとして素直に遊べることに注力した設計
そんな本作の魅力は取っつきやすさ、アクションゲームとしての素直な作りにある。
基本的に方向キーとジャンプボタン(+α)しか使わない操作、挙動の癖のなさ、そして右端の出口を目指すことに終始する構成。いずれも特段、珍しさも新しさもないが、素直にアクションゲームとして遊べる作りに徹しているのには、不思議な安心感がある。
中でもパズルや謎解きに頼らぬ方針で一貫したステージ構成はその象徴となっている。最初から最後まで、地下施設の奥深くへと進んで友人を救出する目的に沿った、自然でノンストップな展開が繰り広げられていく。
複数のセクターで構成されているのを踏まえ、進むたびに新たな仕掛けに危険な罠なども登場するが、アクションゲームの形から逸脱することはない。方向キーとジャンプボタンの基本操作を厳守し、前進していく楽しさと手ごわさに特化している。
ある種、制約に等しい基本操作とアクションを単調に感じさせぬよう、様々なアイディアを凝らした仕掛けと罠の数々も秀逸だ。
いずれも新たなセクターに移行するたび、プレイヤーの前に立ちはだかるのだが、固有の対処法と攻略法を設定することによって、確かな変化を感じ取れるものに仕上げられている。それぞれ納得感もあり、アクションの制約がある中でも工夫次第では単調さを打ち消せるという”アイディアの力押し”というものを思い知らされるかもしれない。
一部、”奥の手”なアイディアが投入されているのも面白いところ。少々ネタバレになるが、水中エリアと終盤の展開は最たる一例。基本操作を厳守しつつ、「こういうのもアリでしょ?」と楽しませてくれる。
特に後者は奥の手も奥の手で、「確かにそういうのもある……」と納得する面白さがある。どんな展開が待つのかは見てのお楽しみだが、いい意味で賛否が分かれるだろう。
また、全体的な難易度のバランスも非常によい。罠などに1回でも接触すれば即ミスという仕様から、本作に高難易度のアクションゲームの印象を持つかもしれないが、意外にも(?)ホドホドの難しさ。終始、楽勝ムードで進んでいく程度ではないが、易しすぎず難しすぎずに徹した遊びやすいバランスに調整されている。
前述のステージ構成とも関連する、納得感が描かれているのも特筆すべきところ。罠の類はいずれも予備動作、道中における事前予告が直前に挟まれるようになっているので、仮に引っ掛かってミスしても理不尽さはほとんど感じさせられない。さらに操作に癖がなく、アクションが単純だからこそ”言い訳”が通2用しない。大抵は自分の動かし方がよくなかったと認識させられるものになっている。思うがままに動かせるという、仕様上の”敵”が存在しない設計ならではの納得感を出しているのである。
こうした工夫もあって、リトライ時にもストレスを感じにくく、対策も立てやすい。ともすれば初見殺しに頼りかねないシステムを採用しながら、極力それを抑えてフェアに感じられるよう設計しているのには、雰囲気を味わう部分を邪魔しない意識と、素直にアクションゲームとして楽しめることへのこだわりが現れている感じだ。
全体の構成面でも、厳しい展開が長続きしないよう、休憩を兼ねた易しいステージを挟むといった配慮が凝らされているところに好感が持てる。逆に終盤は総決算的な意味合いから、厳しめの難易度に設定されているが、それも状況的に自然なので違和感は感じにくい。
他に終始”右に進み続けること”からブレず、左に進む場所があったらそれは正規ルートではない(寄り道要素の「モニター」がある)と認識させる筋の通った作りも、アクションゲームとして素直に遊べることへのこだわりが現れている。
アクションゲームに徹したなりにクリアに要する時間が短い(ボリュームが小さい)、対処法の違いはあっても基本アクションは一貫していて変化に乏しいという面もある。ただ、こうも素直な作りを大事にし、難易度的にも尖りすぎない塩梅に抑えた設計は、何かと手ごわさを重視しがちな横スクロールのアクションゲームが目立つ昨今ではそこそこに貴重。
その意味でも本作は、純粋な横スクロールアクションゲームを遊びたい、小細工なしのシンプルなアクションを楽しみたい欲求に大いに応えてくれる作りと言えるだろう。また”雰囲気系”としても、操作の癖の強さや難易度の高さがないのは大きな強み。遊びやすく、それなりに手応えも得られる作品を探しているなら、本作は打ってつけだ。
1周短めながら「スピードラン」時には牙を見せる、小粒な良作
なお、難易度は適度な塩梅と言及したが、本編とは別途用意された「スピードラン」において、40分クリア(※実績として用意されている)を目指そうとすると急激に跳ね上がる。
まさにギリギリに次ぐギリギリの連続。ほぼ立ち止まらず進むのが必須になるため、アクションゲームに手慣れた人も神経をすり減らされる程度の試練を味わうことになるだろう。
本編はクリアするだけならそこまで難しくないため、人によっては物足りなさを覚える可能性もある。そう感じた時こそ、ぜひ「スピードラン」には挑戦していただきたいところだ。
このほか”雰囲気系”の特徴とも言えるストーリーは、モニターを通した会話シーンではテキスト表現を採用。ただ、施設の過去などの情報は断片的にしか示されないなど、考察の余地を残した作りになっている。
また、最深部に近づくたび、明らかになっていく施設の秘密にまつわる展開と演出も必見。とりわけ中盤に現れる新たな障害には、肝を冷やす思いをするだろう。地下施設の静寂な雰囲気を際立たせる音楽、ドット絵特有のおぞましさを表現したグラフィックとその動きも並行して注目である。
また、会話シーンのスクリーンショットの通り、日本語にも対応。翻訳も自然で、違和感を感じさせないものにまとめられている。
ただ、一部セクターのモニターは背景グラフィックのせいで一部、テキストが隠れて読みにくいなど、明らかな設定ミスと思しきものがあるのが惜しい。
さらにゲームスタート時のデフォルトの言語設定が英語のため、オープニングデモのモニターに表記されるテキストが英語のまま、本編が始まってしまうのがもどかしい。幸い、セクター別ステージセレクト機能でオープニングデモは再確認可能。もし、詳細を知りたい場合はオプションで日本語に設定した後、やり直すことを推奨する。
他にグラフィックのトーンが暗く、明るさの設定ができないのももどかしい。弊害で足場が見えにくい場面も一部あるため、できればオプションに用意して欲しかった。暗さに関しては、暗闇に覆われたセクター2のステージも人によっては賛否が分かれるだろう。
少しとは言え粗も見受けられるが、総じて”雰囲気系”の作品としても、ひとつのアクションゲームとしても完成度は上々。特に操作に癖がない、難易度がほどよい、基本アクションが単純という特徴から万人向けの作品と言えるところもある。
ボリューム的には短編ながら、遊びやすさと素直さで十分に楽しませてくれる本作。手軽に遊べて手応えが得られるお手軽なアクションゲームを探している人から、雰囲気を味わうゲームが好きな人までイチオシの良作だ。
数々の処分(パージ)を潜り抜け、施設最深部に眠る真実に迫ろう。
そこでアナタは何かを目撃する。
[基本情報]
タイトル:『System Purge』
発売・開発元:Actual Nerds
クリア時間:1時間~1時間半
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):¥520
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