イカじゃないぞ?インク弾を駆使してゴールを目指す一人称パズル『Tag: The Power of Paint』
私は一人称パズルが好きだ。
一人称パズル――それは一人称視点でプレイするアクション要素を持ったパズルゲームのこと。三人称視点の距離感ではなく一人称視点の臨場感。物やダイアログを収集して物語を紐解くことより、世界に直接干渉して仕掛けを解く手触り。これらが好きだ。一人称パズルのゲーム体験は「世界をその目で見て、歩き、感じながら、散りばめられた謎を自分の足と知恵で解く」という色合いが濃いように思う。
そんな魅力を持った一人称パズルの多くは、不思議な力を持つ銃、または銃に近しいデバイスを使って仕掛けを解いていくことが多い。
ここ最近のゲームで「不思議な力を持つ銃」といえば、Twitterやブログなどをその話題一色で染め上げ、今も数多くの人も魅了し続けている『スプラトゥーン』だろう。本記事ではそんな『スプラトゥーン』人気にあやかって、数多ある一人称パズルのなかから、インクを使った謎解きが印象的な『Tag: The Power of Paint』を紹介しよう。
インクで塗って世界を変えろ
『Tag: The Power of Paint』は、手にしたインクガンと、そこから発射される特殊な力を持ったインクとを駆使してゴールを目指すというアクション要素を持ったパズルゲームだ。画面写真を見るとわかるとおり、FPSのような一人称視点のゲームで、操作もFPSのそれにならっている。
ステージ上にあるインク缶を入手することで、対応した色のインク弾を撃てるようになる。
マウス左ボタンでインク弾を撃つ。消したいときはマウス右ボタンで水を発射してインクを洗い流せばよい。
ステージはビルの屋上のような場所。モノクロのステージを自分色に染めて駆け抜けろ!
だがしかし、多くのFPSや『スプラトゥーン』のインクリングたちとは異なり、本作のプレイヤーはジャンプができない。段差を前に完全に無力なのだ。そこでインクの出番となる。
たとえばゲーム中、最初に使うことになる緑インク。このインクには「触れたものを跳ね返す力」が備わっている。床をこの緑インクで塗り、そこへ足を踏み入れれば、ジャンプできないはずのプレイヤーも一瞬で上空へと弾き飛ばされる。緑インクで塗った床が、そのまま即席のジャンプ台となってくれるのだ。あとはプレイヤーを空中制御して、目的の足場へ着地すればよい。
足場の手前に緑インクを塗ればOK。インクに潜ることはできないが、緑インクを踏むことでジャンプができる
登場するインクは緑インクを含め、全部で3色。それぞれのインクには特殊効果がある。
「触れたものを跳ね返す(JUMP)」緑インクのほかに、「触れると移動が速くなる(SPEED)」赤インク、「触れるとその場に吸着する(STICK)」青インクが登場する。これらのインクで壁や床を塗り、あるときはその効果を組み合わせて道を切り開いていこう。
赤インクを塗った床の上は早く動けるので、床に傾斜があれば滑走して飛び出すことができる。
複数のインクを混ぜ合わせるようなことはできず、色が重なると、あとから塗った色で上書きされる。
緑インクのジャンプだけでは到達できそうにない足場では、ゲームファンおなじみの古来より伝わる技術「Bダッシュ」が重要なのはお約束。そう、あのヒゲを生やした兄弟のカラーリングが鍵を握っている。
遠い足場にあるゴール。解法はもうわかるはずだ。ステージ上に看板にもヒントが描かれている。
このように『Tag: The Power of Paint』では「インクの色で世界を定義しなおすこと」で、間接的にプレイヤーの運動性能を上げ、ビルの谷間を思うがままに進むことができる。本来はジャンプすらできないプレイヤーが、インクガンとほんのちょっと知恵を絞るだけでビルとビルの間を一足で飛び越え、壁を歩いてその上に登れるようになるのだ。言ってみれば、プレイヤーはインクで世界を塗ると同時に、自分の決めたルールで世界を塗りつぶしているのだ。
似ているあのゲーム(イカではない)について
さて読者のなかには「すごく似たゲームのプレイ経験がある」という方もいるかもしれない。それはひょっとしたら『Portal 2』ではないだろうか?『Portal 2』はValveが2011年にリリースした一人称パズルだ。「離れた空間をつなげられる銃」やステージのギミックをフル活用してゴールを目指すという内容だが、このゲームには『Tag: The Power of Paint』のインクガンと同じギミックが登場する。それもそのはず、『Portal 2』には『Tag: The Power of Paint』の開発者が招かれており、インクガンと同じギミックが、「スイッチ操作でステージ上に撒かれるジェル」として形を変えて採用されているのだ。いわば『Portal 2』のジェルパートは『Tag: The Power of Paint』の弟分なのである。
こうした経緯で取り込まれたジェルの仕組みは、前作の初代『Portal』にはない新たな奥深さを『Portal 2』に加えた。
『Portal 2』のジェルを使う場面。見た目はリッチだが、ゲームプレイの骨格は『Tag: The Power of Paint』のそれと同じだ。
さて、なぜここで『Portal 2』の話をしたかと言えば、『Tag: The Power of Paint』と『Portal 2』の開発者というつながりがあるのはもちろんのことながら、「一人称パズル」と『Portal』シリーズが切っても切れない関係にあるからにほかならない。
当時異色の存在であった一人称パズルに、確固たる地位を築き上げたのが『Portal』だ。一人称視点で解くパズル、特別な力を行使できる銃、実験室のような謎めいたロケーション。その後生まれるフォロワーたちが模倣した多くの要素を『Portal』は持っていた。なかでも離れた空間をつなげられる銃「ポータルガン」は、一人称パズルの礎とも言える偉大な発明だ。そしてこの「ポータルガン」ですら、実は元ネタとなってるゲームがある。
それは『Narbacular Drop』という学生作品で、リリース後に話題を呼んでValveの目に留まり、チームがスカウト、『Portal』の開発につながったという経緯がある。
言うなればポータルガンの仕組みを取り入れた初代『Portal』は、『Narbacular Drop』の妹分といったところだろう。さらに『Tag: The Powerof Paint』と『Narbacular Drop』は開発チームこそ違うが、同じDigiPen Institute of Technologyという学校の学生チームによって生み出された作品でもある。『Portal』、『Portal 2』、『Narbacular Drop』、そして『Tag: The Power of Paint』。近しい場所で生まれたこれら4作品は、一人称パズルの黎明期から続くファミリーと言えるかもしれない。
『Portal』の独創的なアイデアの原案にあたる『Narbacular Drop』
『Portal』を追い抜こうとする作品たちとその魅力
「離れた空間をつなげられる銃」という独創的な発想、謎を呼ぶ世界と物語に優れたステージ設計など多数の要素が相まってゲーム史に残る金字塔となった『Portal』、そしてその続編の『Portal 2』。この傑作のリリース以降、雨後の筍のごとく、数多くの『Portal』フォロワーが生まれた。それだけ『Portal』が衝撃的だったということの証左でもあるだろう。
だが、率直に言ってそれらの作品群――『Portal』と同じように一人称視点で解いていくアクションパズルゲームたち、は『Portal』が先行者であることを差し引いてもなお、作品によってメカニクスや舞台設定、ステージ設計の洗練にかなりの差があり、玉石混合という印象が拭えない。人によってはなかなか取っつきづらい印象もあるのではないか、と思う。
そこで今後、私の主観でオススメの「一人称パズル」を紹介し、このジャンルの持つ魅力を伝えていきたいと思う。
今回紹介した『スプラトゥーン』ではないインクゲーム『Tag: The Power of Paint』は、すぐに理解できるシンプルなシステム、そしてインクによって生じる世界の変化がわかりやすい。難易度もやさしめで、クリアまで1時間程度だろう。フリーで公開されているため、この手のゲームが初めてという方でも手を伸ばしやすいと思うので、この機会にぜひプレイしてみてほしい。
最後に。第1回である本記事を締めくくる前に、次回取り上げるゲームのヒントも挙げておこう。
「高校球児」。
せっかくなのでこの季節に合わせてみた。それではまた次回、お会いしよう。
[基本情報]
タイトル 『Tag: The Power of Paint』
制作者 Tag Team(制作者様サイトはこちら)
クリア時間 1~2時間
対応OS 公式には不明(Win7での起動は確認)
価格 無料
ダウンロードはこちらから