言葉を土台にした”横スクロールアクションエッセイ”『詩が書けなかった日』
ふと気が付けば、筆者は随分と長らくの間この「もぐらゲームス」に携わらせていただいている。ゲームの紹介文を書くというのも突き詰めてみれば一種の文筆業であるわけだが、これを始めてからというもの「言葉」というものに対して、熟達はしないなりにも多少なりとも自覚的な意識ができたように思う。
『詩が書けなかった日』はZennyan氏とmikyokuji氏の制作による横スクロールアクションゲーム。2023年3月5日よりitch.ioにて公開されている。Webブラウザ上で動作するブラウザゲームとなっている。
文字を足場に進む横スクロールアクション
本作『詩が書けなかった日』は横スクロール型アクションゲームとしてはスタンダードなシステムとなっており、左右キーで移動、上キーでジャンプを行い、ジャンプで足場を渡りながら右方向のゴールへ向かって進むことが目的となる。
本作の特色は足場が文章となっている点である。その文章の内容はというと、作者であるZennyan氏の「詩の上を歩く」というコンセプトのゲーム(すなわち本作のことだ)を作るにあたって詩を書こうとしてからの「詩が書けなかった」という挫折の経験が赤裸々に綴られている。個人製作のゲームが隆盛する昨今において私小説的とされるゲーム作品は少なからずあれども、さながらブログのような気楽さで大っぴらにパーソナルな内容を書いているものは珍しく、特筆に値するといえる。
レビューが書けなかった日
本作はアクションゲームではあるが、操作の技量を競うものではなく、文章を追うために進むという内容である。その文章も一本調子ではなく、動く足場などのアクションゲームのギミックを用いることでより「読ませる」工夫がなされている。消える足場のシーンでは足場を乗り継ぐタイミングも重要だ。
文章の続きを読むためには足場をジャンプで渡って先へと進む必要があるわけだが、不思議と足場と足場の間を飛ぶことが「行間」として機能していることに驚かされる。ジャンプをすることによって生まれる”間”は詩を読むときに生まれる間の取り方のそれなのだ。
そして胸を抉ったのが、文字通りに、本当に文字の通りに「何もできなくなる」この一幕だ。
ああ、この作品に対して僕は、どれだけの言葉を尽くせるというのだろう。言葉に詰まるという感情を、これだけ言葉と言葉以外の物で表し尽くした作品を前にして、一体何ができるというのだろう。あまりにも自分の言っていることのこじつけ具合の恥ずかしさにぶち当たって、「短い内容だからまずはプレイしてみてくれ」なんて、ありきたりなことを言うのだろう。この先にも素晴らしい演出はあるが、これから本作を体験する人々の驚きを奪うことをよしとしないということを言い訳にして、それを書かずに仕舞うようなことをするのだろう、誠実に言葉を積み上げていく事の尊さを描いたこの作品を前にして。書かねばならぬ、残さねばならぬ、そう衝動的に筆を取らされた自分に何が書き残せるのだろう。そうしてまた言葉に詰まるのだ。
確かに詩は書けなかったかもしれない。しかしそこから生まれる情緒は、あまりにも詩的なものだ。「ことば」に思うところのある人に触れてみてほしい作品だ。
[基本情報]
タイトル: 『詩が書けなかった日』
制作者:Zennyan, mikyokuji
クリア時間: 5分~
対応OS: HTML5
価格: 無料
↓プレイはこちらから