ティータイムもバトルもエレガントに。日傘で風に乗るお嬢様の冒険を描くRPG『風と花曲のアンブレラ』

RPG,フリーゲーム

ゲームのキャラクターが使う武器の中で、傘というのは変わり種の一つとして、ときどき見かける存在だ。畳めば剣、広げれば盾になるといった変形武器的なロマンや、本来武器ではないものを武器として使うギャップ的な面白さなどが魅力と言えるだろう。

今回紹介するフリーゲームのRPG『風と花曲のアンブレラ』の主人公である、貴族令嬢「セシリー」が使うのも傘。可憐な日傘が剣や盾となり、さらには傘で風に乗って空を飛ぶというファンタスティックな使い方も。そんなお嬢様の優雅な冒険を描いた作品となっている。

風に乗って飛ぶお嬢様と仲間達の冒険譚

本作の主人公は貴族の令嬢で、「風乗り」と呼ばれる英雄の末裔であるセシリー。風に乗って届けられた助けを求める声に彼女が応じ、旅立つことから物語が始まる。

助けを求める“風の声”を聞いたセシリーは、風に乗って窓から飛び立つ

セシリーが降り立ったのは、風乗りの伝承が伝わる地、ガーデニア。セシリーは風乗りと共に戦う「狩人」の末裔ロウや、ガーデニアを守る使命を持つ聖獣「ウィンリア」、そしてさまざまな知識で助けてくれる妖精の「シルフィ」という仲間と共に冒険を繰り広げることになる。

風乗りの伝承が伝わるガーデニアに降り立ったセシリーは、仲間を得ながら冒険の旅を繰り広げていく

また、旅を続けるうちにセシリー達は、魔族の「ゼヒュラ」と出会う。セシリーを好敵手と定めたゼヒュラは、行く先々で暗躍しつつセシリー達とたびたび邂逅。彼の狙いやガーデニアに残るさまざまな伝承を軸として、物語は展開していく。

闘争を本能とする種族である魔族の「ゼヒュラ」。セシリーを一方的に好敵手と定め、行く先々で暗躍する

お茶に読書にピアノに……旅をエレガントに彩る要素が盛りだくさん!

ゲームの進行はダンジョンを攻略しながら物語が進んでいくというオーソドックスな形だが、本筋以外にも貴族のお嬢様の旅ならではの、のんびりと作品世界を堪能できる要素が用意されている。

戦闘メンバーであるセシリー、ロウ、ウィンリアはそれぞれ独自の「アビリティ」を習得し、3つまで装備して戦えるのだが、このアビリティの習得に使うEP(エレガントポイント)の獲得方法がユニーク。強敵を倒したり、人々からの依頼を達成することで得られるのは定番だが、ほかにも……

ティータイムを楽しんだり(ダンジョンの中でも!)、

図書館などでさまざまな本を読んだり、

ピアノを弾いたりと、

お嬢様らしいエレガントな行動でもEPが得られることがあるのだ。

これらの要素は単なるフレーバーに留まらず、ティータイムではHP/MPが全回復、読書では世界観を深く知れるだけでなく戦闘のヒントになることもあり、ピアノは弾いた楽譜に宿る精霊からさままな力を持つ「ジュエル」を授かることがある。EPの獲得自体も含めて、旅を楽しむことと攻略要素が一体になっているのが、RPGならではの醍醐味と言えるだろう。

ドット絵で魅せるサイドビューバトル。自由度の高いキャラカスタマイズも攻略の鍵

戦闘は、敵味方ともに時間経過で上昇する「AP」ゲージが溜まると行動する、半リアルタイムのコマンド選択型。臨場感がありつつ、コマンド選択時は時間が止まるためじっくり考えることができる。サイドビューの画面でドット絵キャラクターにより描かれる戦闘アニメーションは凝った内容でありつつ緩急がついており、戦況がテンポよく演出されている。

ドット絵のキャラクターによる戦闘アニメで演出されるサイドビューバトル

戦闘に関する要素としては、キャラクターカスタマイズの自由度の高さもポイントだ。各キャラクターはレベルアップでそれぞれのスキルを習得していくほか、先述のジュエルを装備することで、特定のステータスの上昇に加えてジュエルに備わったスキルを使用可能。またアビリティの効果も多彩で、武器や衣装(防具)も傾向の異なる複数のタイプが用意されており、状況や役割分担に応じたカスタマイズが攻略の鍵となってくる。

3つまで装備できるアビリティに、ステータス上昇とスキル追加ができるジュエル、いくつかのタイプが用意されている武器や衣装などを組み合わせて自由度の高いキャラクターカスタマイズが可能

パーティ共有のリソースである「フィールドウィンド」も戦局を左右する要素だ。これは場に満ちる風の魔力を表したもので、主に魔法を使うと増加し、消費することで「技巧」と呼ばれる物理攻撃を中心としたスキルを発動できる。魔法でフィールドウィンドを稼いで物理攻撃が得意なキャラクターで使う、といった連携も戦術要素となっている。

MPを消費する魔法と、MPを使わない代わりに発動に一定数のフィールドウィンドが必要になる技巧という2タイプのスキルがあることで、戦闘の立ち回りにも深みが生まれている

バトルも優雅に格好良く!パリィやカウンターの応酬がアツい

さらに本作の戦闘の大きな特徴が、確率で発動する固有能力の存在だ。ロウは近接物理攻撃を回避し反撃する「カウンター」、ウィンリアは魔法を回避する「グレース」を使用可能。セシリーは物理攻撃を回避する「パリィ」と、グレースも扱える。

“確率で発動する回避やカウンター”というと、ちょっとしたオマケ要素のように感じるかもしれないが、本作の場合はむしろ戦闘のコアとなる要素の1つという印象だ。アビリティや武器といった前述のカスタマイズ要素の中には、固有能力の発動率を高めるものもあり、組み合わせ次第ではある程度戦略に組み込めるレベルまで発動率を上げることも可能となる。

もちろん、確率が絡む能力でロマンを重視するか、堅実に別の部分を伸ばすかはプレイヤー次第だが、一部の敵もこれを使ってくるのでいずれにせよ注目の要素であることは間違いない。固有能力を無効化する状態異常「封印」の存在も特徴的で、とくに中盤以降は固有能力をどう活かすか、あるいは敵の固有能力にどう対処するかが独自の駆け引きを生み出している印象だ。

また、固有能力は発動時の演出も見どころ。とくにセシリーの傘によるパリィはモーションとSEが合わさって、激しくそれでいて優雅という本作のバトルを象徴するような格好良さだ。連続攻撃に対して連続でパリィが発生したり、こちらのカウンターがさらに敵にパリィされるなど、まるで殺陣のような応酬が発生することもあり戦闘を盛り上げてくれる。

「傘パリィ」は本作のバトルを象徴するかのような、エレガントな格好良さだ

キャラクターを魅力的に描きつつ、王道RPGとして作り込まれた良作

ここまで主に、本作のゲームプレイについて紹介してきたが、本作を語るにあたり外せないのはやはり、魅力的なキャラクター達。旅の仲間はそれぞれに頼もしく、敵もどこか憎めないような者達ばかりだが、なんといってもひときわ輝いているのは、我らが主人公セシリーだ。

優雅で優しく、その博愛はときに敵にすら向けられる。かといって悪事を見逃すわけではなく、「罪を憎んで人(人以外も)を憎まず」といったスタンス。またそれが言葉だけでなく実力に裏打ちされているため、有無を言わせぬ説得力がある。まさに英雄と言えるようなキャラクターなのだ。

一方ではその博愛ぶりが一般常識から考えれば度を超していたり、好奇心から気になったことにリスクを恐れず飛び込んでしまい、周りをハラハラさせるのもご愛敬。ほかにもさまざまな側面を見せてくれる、とても一言二言では言い表せないキャラクターなのだが、敢えて筆者のイメージで表現するなら「自由人」といったところだろうか。

セシリーの思い切りが良すぎる言動に、周りがハラハラするような場面も

そんなセシリーと、敵ながらどこかお互い認め合うようなゼヒュラ、逆に彼女を護衛しつつも自由すぎる言動に振り回され、また「風乗り」に対して何か思う所もありそうなロウとの複雑な関係性も見どころとなっている。もっとも、色々と複雑なのは相手側だけで、セシリーの方は最初からびっくりするほど自然体なのだが……。

本来は敵同士の二人がひょんなことからお茶会をすることになる一幕。命を賭けて戦う相手としてセシリーに執着するゼヒュラと、そんなゼヒュラを自然体でいなすセシリーという不思議な関係性が垣間見える
セシリーの実力は認めつつも、英雄と伝えられていた風乗りがお嬢様だったことに戸惑いを見せるロウ。共に旅を続けるうち彼の心境にも変化が……?

風乗りの伝承に秘められた真実など、物語は終盤に向けてシリアスさも増していく。「日傘で戦うお嬢様」というキャッチーな要素が目を惹きつつも、いざプレイしてみると芯の通ったメインシナリオに豊富な寄り道要素、独自システムや演出が練られた戦闘などなど、王道RPGらしい作り込みを感じさせられた。じっくり遊ぶと10数時間程度とボリュームもほどよく充実しており、完成度の高いRPGとして幅広くお勧めしたい良作だ。

[基本情報]
タイトル:風と花曲のアンブレラ
制作者:シキ氏
公称プレイ時間:約8~10時間(やりこみやクリア後要素を含めると約12~14時間)
対応環境:Windows
価格:無料

ダウンロードはこちらから
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_12878.html

  • 中村友次郎(@finalbeta

    RPGのプレイと紹介がライフワーク。システムに凝ったRPGをとくに好んでプレイします。商業で一番好きなゲームメーカーは日本ファルコム。運営型では原神にハマってます。
    過去に十数年ほど、窓の杜の連載記事「週末ゲーム」の編集と一部執筆を担当していました。