16年の時を経て大型アップデートを果たした全方位フリーSTG『WINGED GEAR NEW VERSION』
新年を迎えて以降も、フリーゲームの新作はほぼ毎日ペースで「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」と言った配信サイトにてお披露目され続けている。
しかし、フリーゲームに限った話ではないが、PC向けに作られたゲームは出したらそれで終わりとはならない。お披露目から数年が経過して以降も絶えず、修正を行ったり、中には一定期間を開け、大規模なアップデートを実施する例もある。作者に作品をより良くしたい思いが残り続ける限り、そのゲームは決して古くならず、新しくあり続けるのだ。最近は、家庭用機にでもこのようなケースは多くなってきているが。
とにもかくにも、今回紹介する『WINGED GEAR』は、そんな大規模アップデートを行った紛うことなき旧作フリーゲーム。
オリジナル版は2004年、2020年現在からザックリ逆算して、大体16年も前にお披露目された作品である。2020年の年明け間もなく、大規模なアップデートを実施し、タイトル名も『WINGED GEAR NEW VERSION』へと改題された。
フロアを巡りつつ、敵全滅を目指す全方位STG
内容は俯瞰(見下ろし)視点で展開する、全方位移動可能なステージクリア型アクションシューティングゲーム。プレイヤーは自機の「WINGED GEAR」を操縦し、8方向への移動を展開しながら襲い来る敵をショット攻撃で倒していく。最終的にステージ(エリア)の最後に対峙するボスを倒せばクリアになり、次へと進む仕組みだ。
ただ、舞台となるエリアの構成はやや独特。どこも複数の「フロア(部屋)」で成り立っていて、それらを順に巡り、現れる敵の軍団を全滅させながら、ボスの場所を目指すことになる。ロールプレイングゲーム(RPG)、或いはアクションアドベンチャーのダンジョンみたいな構造、と言えば想像しやすいかもしれない。
実際、フロア内の敵を全滅、もしくは時間切れになると、次のフロアへと繋がる扉が解放され、自機をそこまで直接移動させることになるので、例に挙げたジャンルっぽさを強く感じるだろう。なお、筆者は某ゼ●ダの伝説の敵を全滅させるまで閉じ込められる部屋が脳裏を過ぎった次第。
……あれ、こっちの例えの方が分かりやすいか?
何にせよ、エリア構成以外の特徴的な要素としては耐久力の設定がある。本作はダメージ制が採用されており、3発被弾すると自機が大破する仕組みになっている。1発でも被弾すれば即大破というのをシューティングゲームの基本と認識していれば、親切設計と思うだろう。ところがどっこい。実は1発被弾すると即大破の仕組みも含まれている。
なんのこっちゃだが、具体的には弾の大きさによって受けるダメージが変わる。敵弾は発射のタイミングに応じて威力が異なり、撃ち始めて間もない大型弾の時は大ダメージ、それから少し経った小型弾の時は小ダメージと徐々に下がっていくのだ。そのため、まだ放たれてそんなに時間が経っていない弾は確実に避けなければ致命傷になる。そんな独特の設定が凝らされているのだ。なので、ダメージ制でありながら油断大敵という、風変わりなゲームバランスが全編に渡って描かれている。
自機の移動も独特な部分。基本的に8方向、自由に移動できるのだが、ショット攻撃時は向きが固定され、方向転換ができなくなる。さらに速度も低下するので、素早く移動する敵を回避するのが難しくなる。
反面、弾幕の回避がしやすくなったり、向き固定で敵への迎撃に集中できるようになるメリットもあり、使い方次第では危機を乗り越えるきっかけにもなる。まさに自由と不自由を混ぜ合わせた作りで、独特な操作感と戦術性を表現した仕上がりだ。
他にもシューティングゲームよろしくアイテムも用意されているが、攻撃系は広範囲ショットこと「ワイド」、直線ショットで強力な「パワー」の2種類だけと少なめ。また、後者は一定時間経過と同時に初期のショットに弱体化する仕様になっているので、効果的に活用するとなれば、取得タイミングを考えねばならないなど、ちょっとした工夫が必要になったりもする。
ゲームとしての作りはシンプルで、見た目も相まって、80年代のアーケードゲームを髣髴とさせる懐かしい雰囲気を醸し出している。ただ、移動と攻撃それぞれの特徴を踏まえた戦術的な立ち回り、接触時の種類に応じてダメージ量が変わる敵弾の設定などで、個性的な緊張感を演出。懐かしさと新しさ、それぞれが絶妙に混ざり合った、癖になる面白さを秘めたアクションシューティングゲームに完成されている。
なお、今回の『NEW VERSION』は基本的なゲームプレイは変わりないが、敵を全滅させた際に散らばったスコアアイテムが自動回収されたり、爆発演出の強化と言った改良が施されている。特に散らばったスコアアイテムが”ドバッ”と自機に集約される演出は、軽快な効果音も相まって爽快感溢れるものになっているので必見である。
往年のアーケードゲームらしさ溢れる、懐かしい手応え
そんな本作の魅力は、単純明快ながらも手に汗握る、集団で迫り来る敵との戦闘だ。都度、自機の方向を切り替えながら四方八方より迫り来る敵とその弾に対応していくことになるので、最初から最後まで気が抜けない。
かと言って、戦闘が長時間続くような設計になっていないのが絶妙。フロアを順に巡っていく構成も相まって、全滅後には決まって次への移動という名の休憩時間が挟まるので、疲労が蓄積することもなく進めていける。戦闘時間も何十分もかかるような例もほとんどなく、大抵が長くても1分程度。適切に立ち回れば数秒ほどで全滅させるのも夢じゃない程度にテンポを重視しているのだ。
それも相まって、終盤のボス戦まで適度な緊張感を維持したまま進めていける。基本、どのエリアのフロアも集団の敵を全滅させることばかりで、その点に関しては率直に言って、単調さは否めない。だが、敵バリエーションはそれなりに豊富で、一部、ギョッとするような組み合わせと弾幕を展開する大技で攻め込んでくるので、不思議と同じことの繰り返しでありながらも駆け引きの楽しさはしっかりしている。何より、どんなにギョッとするような敵の攻撃があっても、戦闘決着時間の平均に揺らぎはない。
この辺の塩梅が見事で、心地よい緊張感と難局を乗り越えた時の達成感を提供してくれる。何より、その同じことの繰り返しでありながら、キモである敵との戦闘は常に油断ならない下りが、往年のアーケードゲームらしさに富んでいる。入り組んだ展開を作りたくも表現の制約で難しい。ならば、その制約下でキモと言える部分の作り込みだけは徹底してやり通す。本作もそんな意図を込めて作った形跡がフロアごとの構成や戦闘シーンにて醸し出されており、不思議と夢中になって遊んでしまう楽しさが表現されている。当時のゲームに慣れ親しんだ人のノスタルジーを喚起させる要素に秀でているのだ。
なので、直撃世代ならば新作ながらもあの頃にタイムスリップしたかのような気分に浸れるのも大きな見所。実際にアーケードゲームらしさは、エリア構成や戦闘というキモを大事にした作りに留まらず、グラフィックから音楽、効果音と言った表現面においても徹底しており、どれもこれも”それっぽい”。中でもグラフィック、スコアやメニュー画面などで用いられているフォントのデザイン諸々には、「これぞあの頃のアーケードゲーム!」な納得感を抱けるはずだ。
アーケードらしさ抜きに1エリアごとの密度も圧巻だ。総数で見ると5つで少なめだが、フロアの数は後半になるほど30以上に及んだりするので、全く持って物足りなさを感じさせない。しかも、エリアによっては分岐もあるから、1回クリアしたらそれで完全終了とはならず、再び別のルートを通ってみるセカンドプレイの楽しみが残る。そう言った遊び方をしたい人を対象としたエリアセレクト機能も備わっているので、思わず”分かってらっしゃる”と言いたくなるはずだ。
セレクト機能に関しては、最初から全てのエリアが解禁された仕組みになっているのも思い切っている。順番に巡ってもいいし、いきなり最後から始めてしまっても構わない下りには、どんな形で遊んでも大いに良しの懐の広さが現れている。もちろん、初見時に後半から始めたりすれば痛い目を見るが。
ただ、難易度選択機能を使う突破口があるなど、完全に門前払いの憂き目に遭う訳ではない辺り、良心的ではある。この辺はいかにも今なりの作りといったところだ。
アーケードゲームらしい懐かしさを徹底させつつ、極度に人を狭めるようなことは抑える。ゲームのキモを大事にする作り込みも見事ながら、遊びやすさへの配慮も押さえる所は絶妙の塩梅と言ったところだ。一応、アップデート実施前は後者に関し、至らない部分が残っていたらしいが、それが改良されたことで、本作の完成度はさらに底上げされている。
ある有名なクリエイターの発言で、「ゲームは2回つくると面白くなる」というのがあるが、本作はある意味、そのことを顕著に表した例と言ってもいいかもしれない。まあ、厳密には2回作るというより、根幹を見直して更新した形なので大分ズレるのだが。
16年経っても色褪せない魅力を持つ良作
ただ、首を傾げる箇所も僅かに。特に敵の耐久力。ここもアップデートに当たって再調整を実施し、倒しやすくした……とあるのだが、まだ固い印象がある。特に後半、弾幕を展開してくる敵との戦いではその点が顕著に現れていて、もう少し詰める必要があったのでは、と思う次第だ。そのような敵が頻繁に現れる構成に関しても疑問符が浮かぶ。幸い、自機の当たり判定は適切なサイズで、至近距離で弾を当てれば大きなダメージを与えられるようにはなっているのだが(おまけにスコア倍率が16倍になる!)、シチュエーションはもう少し自重してよかったように思う。
攻撃に関しても基本、ワイドとパワーの2種類しかなく、戦術面で単調さが出てしまっているのとも気になるところだ。意図的にこうしている可能性もある上、このおかげで取っ付きやすさを表現できている部分もあるので難しいところだが。
また、もの凄く気になる所で、攻撃を撃ち込んでいる時に音が鳴らないのも寂しい。爆発音はちゃんとしているだけに、撃ち込んでいる時の音にしても、倒したという手応えを確かなものにするため導入していただきたかった。
そう言った気になる点も多々あるが、80年代のアーケードゲームをオマージュした作品としての出来はよく、戦闘もシンプルながら油断ならない手ごわさが演出されていて面白い。実は全てオリジナルという楽曲へのこだわりと仕上がりも見事だ。
元が2004年製、相当古い作品ではあるが、16年近くが経過した現在にプレイしても面白さと魅力は色褪せず、新たなアップデートによって、より遊びやすさが増した作品に進化している。当時の旧バージョンをプレイした人も、初めて本作のことを知った人にもおすすめできる良作だ。特にシューティングゲーム、80年代のアーケード作品を楽しんだ方で未プレイであればぜひ、ダウンロードしてみて欲しい。
懐かしくてどこかで見たような、けれども新しい……不思議な体験を味わってみよう。
[基本情報]
タイトル:『WINGED GEAR New Version』
制作者: ZAP
クリア時間: 1時間半~2時間
対応OS: Windows
価格: 無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/21910